第一章 四月その1
四月。
入学式が終わり、中旬。
麗らかな春の日差し、そしてまさに春眠を誘う暖かな風。
舞い散る桜の花びら。
…そんな想い描いた春などなく。
僕は降りしきる雪の中を学校を目指す。
『なんだって四月に雪が降るんだ…』
父の話ではここら辺では皆ゴールデンウィークまではスタッドレスタイヤを使うという。
それは四月の降雪が珍しくないからだ。
ここ軽井沢町は豪雪地帯ではない。
希に大雪が降るそうだが基本的に雪は少ない。
それが救いになるかというと、東京育ちの僕にはなんの救いにもならない。
三月に卒業式を終え、そのまま引っ越し。
バタバタした中で新生活を踏み出したが、この寒さだけはどうしても馴染めない。
父の実家はほぼ空き家のような状態だった。
そして僕は人が暮らしていない家が、いかに寒いのか思い知らされた。
ある時うっかり水をこぼしたら、それが10分程で水滴のまま凍りついていたのだ。
僕は文字通り唖然とし、立ち尽くした。
またある時浴室の水道からポタポタと水が流れていたのでだらしない父に憤りを感じながらきっちり締めたのだが。
翌日の朝には水道が凍結して出なくなってしまった。
ここでは室内であろうと、きっと、間違いなく、冷蔵庫の中の方が温かい。
凍結させたくないものを冷蔵庫に入れるという感覚に目眩を覚えた。
『これがカルチャーショックというものだろうか?』
…ちょっと違うか。
僕は骨伝いに全身を襲う冷気に耐えながら、学校を目指した。