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最後まで、Yes。  作者: 上之下 皐月
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第六章 十一月その6

女性用のお風呂を離れ、僕はいつも使っている男性用のお風呂を使う。

壁一枚隔てた向こうで今まさにリューリがシャワーを浴びている…。

頭の中でリューリの裸体を思い浮かべては頭を振り、想像をかき消す。

とりあえず熱いシャワーを頭から浴び、ガシガシと頭を洗う。

…念入りに洗うと、いかにも自分が何か期待しているみたいで気が引けたので身体は石鹸でざっと洗う。


脱衣場で部屋着に使用している黒とグレーのスウェットに着替える。

ドライヤーはリューリに貸してしまったので、頭はタオルで拭くだけにする。

これは合同練習までにドライヤーがもう一本か二本は必要になるな、とそんな事が頭をよぎる。

彼女はキスをする、と宣言していたから脱衣場の洗面で歯を磨いておく。

脱衣場を出ると廊下の冷気が身体を襲う。

このただでさえ無駄に広い我が家はとかく寒い。

ドライヤーと一緒に廊下を暖めるヒーターも必要だろう、と心の中でメモを取る。

女性用のお風呂では脱衣場に人の気配はない。

リューリはまだシャワーを浴びているのだろう。

差し当たりキッチンで使っている小さな電気ヒーターを廊下に置いておく。

リューリが脱衣場から出てきた時に少しでも寒くないように。


キッチンで僕は彼女に出すためにカフェオレを準備する。

時間は十七時。まだ食事には早い時間だ。

だが一日掃除をしていたのでお腹は空いていた。

何か軽く作ろうかと考える。

…しかし。

僕は全く落ち着かない。

これからすることは、僕らにとってはいつもの事で。

何もセックスするわけではない。

でも。

この後する事が明確で、恋人がシャワーを浴びていて、それを待つという時間は、今までに味わった事のない特別な時間だった。

それはとても落ち着かなくて、どきどきして。

例えるなら、初めての遠足や運動会の前日、クリスマスの夜にわくわくしながら布団に潜っていたあの感覚に似ていた。

“心”という臓器がもし人間に存在したとしたら。

それはやはり脳ではなく、胸の中に存在するのだろう。

それほどに僕の胸の中は、切なく、甘く、きりきりと疼いた。

僕は何度も彼女が来ないかとドアが開くのを心待ちにしながら、こんな時間がずっと続けば良いと思う。

そして、きっと僕はそう遠くない将来に、今度は本当に彼女を抱くために、同じ時間を過ごすことになるだろうと予想する。

今も、僕が望めばきっと…。

そこまで考えてた時、ドアが開く。


髪の毛の先から雫を(したた)らせたリューリ。

上半身は僕の白いTシャツとその上にパーカーを羽織っている。

下半身は黒のハーフパンツ。

ハーフパンツの先はスラリと伸びた白い足。

元来の細い足は部分部分で筋肉に包まれ、色気よりも洗練されたシルエットを彼女に与えている。

ただ、誤算だったのは。

男用のTシャツでは彼女の胸は締め付けられ、むしろ強調される形となる。

胸を隠すためにと思って貸したパーカーを彼女は羽織るだけでジッパーも止めていない。

そのため首筋、肩、脇から胸の脹らみにかけてのラインがくっきりと見えてしまっている。

…もちろん胸の先端の突起までも。

「髪、全然乾かしてないじゃないか。リビングは暖かいけど風邪ひくよ」

僕は本来であれば“胸を隠せ”と言おうとしたのだと思う。

しかし、彼女の無防備な姿に狼狽え、とにかく会話の主導権を握ろうとした結果。

彼女の髪が乾いていないことに腹を立ててみせる。

もちろん勘の良いリューリは僕が何に狼狽えているかなどお見通しでわざと背中を反らせ胸を張り不遜な態度を取る。

「あなたが待ってるかと思って。拭いただけで来ちゃったわ」

「洗濯物は乾燥機に入れた?」

「入れてスイッチは押しておいたわ…押したスイッチな合ってるかはわからないけど」

「…とりあえずこっちに来て。座って」

僕は女性用の脱衣場に入り、ドライヤーと(くし)、バスタオルを持ってくる。

浴室の湿気と湯けむりと、シャンプーやボディソープの香りが僕を包む。

先程までリューリが使っていた、ということを極力考えないようにする。

ついでに乾燥機の作動も確認。

とりあえずは大丈夫みたいだった。


リューリはリビングの薪ストーブの前で大人しく椅子に座っていた。

「乾かしてくれるの?」

「ん。じっとしててね」

僕はバスタオルでリューリの長い髪を優しく包み込む。

僕の頭ならガシガシ拭いて終わりだが、リューリの髪にそんなことは出来ない。

バスタオルで包んだ後、そっと上下から押すようにして髪の毛の水分をタオルに染み込ませていく。

毛先にかけてある程度水分を拭き取った後。

ドライヤーで頭のてっぺんから毛先にかけて乾かしていく。

いきなり(くし)で梳かすのが恐かったので指を髪の毛の間に差しこみ滑らせてみる。

驚いたことに全く引っ掛かりもなく、スルリと指は抜けていった。

「わへい、上手。ひょっとして誰かの髪を乾かしたことあるの?」

ちょっと膨れながらリューリが聞く。

…嫉妬してるな。

彼女がこちらを見た瞬間と僕が彼女の髪をかき上げた瞬間が重なる。

うなじから首筋、胸元、胸の谷間までが覗けてしまい、心臓が止まりそうな位どきりとする。

「ないよ。君が初めて」

動揺を表に出さないように注意しながら答える。

「そう。それならいいわ」

女性の髪を乾かした経験などもちろん、ない。

それでも高価な着物を扱うように僕はそっとそっとドライヤーで乾かし続けた。










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