第四話 残念な壁ドン
こんかいは、みねみねが色んなことを告白します。
ぼくの名前は、峰 こみね。
いい加減な両親に付けられた名前がこれである。
でも、今は姫のおかげで気に入ってもいる。
だが、あえて僕は名乗らせてもらう。
ぼくの転生前の名前は、アレキサンダー・シュフィーゲルだ。
中世ヨーロッパかその辺で、姫に騎士として仕えていた。
なのに、姫はお若くして亡くなられた。
その姫を、転生先でもお守りするために、僕も転生の術が施されたのだ。
でも、この記憶が呼び起されたのも、つい最近のことだ。
姫に出会って、すぐにわかった。
ぼくは、この世界で姫に出会うために、生まれてきたことが。
ほんとにハッピーだ。
あいつらさえいなければ。
ああ、思いだしただけで、虫唾がはしる。
ダメだダメだダメだ。
考えるな、みねみね。
あっ、みねみねというのは、姫に付けてもらったニックネームなのです。
とても気に入っているのです。
と、誰に言うでもなく、みねみねは考え事をしていた。
雛子の家へ着くと、身だしなみをチェック。
そして、インターホンを押した。
ピンポ~ン
「峰です。姫、お迎えに上がりました」
あれ、おかしいな。
いつもなら、すぐに返事が返ってくるはずなのに。
もう一度インターホンを押そうとしたとき、隣の家から小次郎が出てきた。
「おっ、こみねじゃねえか」
「ジロ先輩、おはようございます」
基本、みねみねは礼儀正しい。
「おう、おはよう。それで何してんだお前」
「へっ?なにって、姫と、一緒に登校しようかと」
「雛子ならいないはずだぞ」
「えっ。まさか、奴らが嫌になって、夜逃げしたとか?」
コイツの頭のなかでは、自分は嫌がられることは、どうやらないらしいな。
「夜逃げなんてある訳ないだろが」
「そ、そうですよね。それではなぜ」
「聞いてないのか。今日は朝から生徒会の仕事らしいぞ」
「せいとかい?なんで、姫が生徒会の仕事なんて」
「そんなの、生徒会役員になったに決まってるだろ」
「なんですと~!そんなのきいていませんよ~!」
それを聞いたみねみねは、学校へ向かって走り出した。
「お~い。バス停はあっちだぞ~・・・もう聞こえてないか。あほだな、あいつ」
みねみねは走る。
汗をダラダラ流しながら、懸命に。
途中、女子生徒が挨拶をしてくる。
「おはよう、小峰君」
妙に律儀なみねみねは、立ち止まって挨拶を返す。
「はあはあはあはあ。お、おはようございます。ぼ、僕は急いでいるので、これで失礼します」
「う、うん。がんばってね」
「ありがとうございます」
走ったおかげでみねみねは、バスより5分だけ早く着くことができた。
学校へ着くと、生徒会室へ一直線に向かうつもりであった。
しかし、校舎に入ったところで思いだした。
「生徒会室って、一体どこにあるんだ?」
分からなければ聞けばいい。
ふっ、簡単なことだ。
「あの、すみません。生徒会室はどこにあるか分かりますか」
「あっ、小峰君。生徒会室に何か用なの」
早く教えろと、みねみねが思うのと反対に、女子生徒は会話できるチャンスをつかもうとする。
みねみねは、人気者なのだ。
本人は、姫にだけ忠実な、孤高の騎士だと思っている。
だから、友人などいらない。
ましてや、恋人など考えられないと、思っている。
あのね、それでね、女子生徒の話は、まだまだ続きそうだった。
みねみねは、早く教えてほしいばかりに、思わず女子生徒の後ろの壁を叩いてしまった。
辺りは静まり返った。
みねみねも、自分がやらかしていることに気づかない。
みねみねが、キョロキョロしていると、辺りがざわつき始めた。
ひそひそ話の小さな声が、聞こえてくる。
1年、壁、告白。
いろんな単語が聞こえてくる。
みねみねは、今の単語で推測する。
1年、壁、告白か。
もしや、1年の誰かが、壁ドンとかいうやつで、告白したのか?
他の生徒の目の前で?
朝っぱらから、大胆な奴もいたもんだ。
あっそうだ。
生徒会室を聞かなければ。
「なあ、生徒会室はどこ・・・」
そこには、耳を真っ赤にして、俯く女子生徒がいた。
まさか、まさかまさかまさか。
壁ドン野郎って、まさか俺の事か~!!
「あ、あの、ごめん。おれ、そんなつもりじゃ」
そんなことを言っても、もう遅い。
女子生徒の耳には入らないし、噂も音の速さで、駆けている。
「なっな、俺の話を聞いてくれ。なっ」
みねみねは、今度は女子生徒の肩を揺さぶった。
その光景はまさに、振られた男と、振った女のそれだった。
動揺するみねみねに、一つの視線が刺さった。
視線をたどると、そこには天敵ルールーがいた。
そして、ルールーは、口だけを開いて見せた。
その唇は、「ざ、ま、あ、み、ろ」と、言っているようであった。
追いかけて行って、1発殴ってやりたい気持ちを、みねみねは何とか抑えた。
いまは、それどころではない。
そう思い、必死に誤解を解こうとするが、必死になればなるほど逆効果。
誰でもいいから、たすけてください~。
みねみねがそう思ったとき、助け船が入った。
「おい、おまえら。さっさと教室へいかんか!」
騒ぎを聞きつけた先生たちが、来てくれたのだ。
「あ、ありがとうございました。先生」
「ああ、それにしても、お前たちは何をしていたんだ?」
「生徒会室を教えて貰おうと思いましてですね」
「女子生徒を押し倒してか?」
「押し倒してなんかいませんよ!」
「そうなのか?」
どうやら噂は、いろいろ湾曲されたり、尾ひれがついていたり、ものすごく噂が盛られていたりしていた。
盛られていた方なんかは、壁ドンなんてどこかにいって、ただの露出狂として噂されていた。
みねみねも、ただの噂の方は放っておく気でいる。
ただ、盛られた方はどうにかする気でいる。
犯人にも心当たりがあった。
こんな噂、いや、悪口を言う人間はただ一人しかいなかった。
「おい、垂れ目。面貸せや」
「誰がたれ目じゃ、ボケが。どこにでも、行ったるわい、チビが」
二人は真面目な顔をして、教室を後にした。
二人は、屋上に来ると、激しいボコり合いが始まった。
そんな次の日、あるうわさが広まっていた。
それは、
「きのう、小峰君が瑠璃ヶ丘さん屋上に呼び出したんだって。それでね、激しくやり合ってたんだって」
「えっ、なにを?」
「わかってるくせに~男と女がやることと言えば、一つしかないじゃな~い」
こんな噂を放っておけない二人は、1週間かけて噂という火を消したのであった。
「ごくろうさまだったな」
「あんたもね」
そして、二人は仲良くハイタッチを交わすのだった。
なんかまた、噂話が広がりそうな終わり方です。