第三話 私の残念な先輩
今度は先輩です。
雛子です。
みねみねだけ登下校が一緒はズルいとルールーが言うので、ルールーも一緒に登校しています。
「姫様、お口に食べかすが」
そう言って、ルールーは雛子の顔へ手を伸ばす。
そしてそれを口に運んだ。
「ルールーなにすんの。食べかすくらい、自分で取るよ」
「姫さまったら、照れちゃって。昔もよくやってたじゃないですか」
「むかし?」
「そう、昔です」
みねみねは、その様子を憮然とした顔で見ている。
ニタリ
そして、みねみねの様子を見てルールーは、勝ち誇っている。
ざまあみろ、チビ騎士が。
くそっ、あの垂れ目女が。
もっと、くやしがればいいのです。
チビ騎士。
お前がホントに騎士だったのかはわかりませんが、今の世の中では、こんなことも許されるのです。
「ひめさま~」
ルールーは、甘えた言葉で雛子の腕にしがみついた。
こ、このやろう。
もう許さん、ゆるさんぞ。
「おい、おまえ。姫から離れろ。離れなければ、斬る」
「なんですか~きこえません~?!」
ルールーが後ろを振り向くと、剣を振りかざしたみねみねがいた。
それを見たルールーは、さらに強く雛子にしがみついた。
「なにしてんの、あんたたち。みねみねは、剣を納めなさい。ルールーも、わたしにしがみつくのはやめなさい」
「「はい」」
「はい、よろしい」
おい、よろしいのか?
剣を見て、何も思わないのか。
おまえ、だんだんそいつらに染まってきてんじゃないのか。
そんなことを小次郎が思っていると、ふらふらと歩く男子生徒が目に入った。
ま、またかよ。
しかし、今度は雛子も小次郎もよく知る人物であった。
背丈は180cm、スラッとした体格で、小顔で鼻筋も通っていて、北欧人の血が混じっていて、髪の毛は白銀色である。
そしてなにより、好青年の学校の人気者で生徒会長。
こちらがみじめに思えるほどの人物が、ふらふらしている。
小次郎は走って行き、生徒会長に肩を貸した。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。急に目眩がしてしまってな。大丈夫だ。すまなかったな」
「いえ」
そこへ、雛子たちが追い付いてきた。
「生徒会長だよね。だいじょうぶなの?」
「ああ、目眩がちょっとしただけだそうだ」
「そっか。また、あれかと思った。よかった」
小次郎に肩を貸してもらっていた生徒会長が、みんなに礼を言うために顔を上げた。
「しんぱいしてくれて、ありがとうをっ!!」
そして、生徒会長は気を失った。
「ジロ先輩。この人誰です」
「生徒会長だよ。始業式の時挨拶してただろ」
「へえ~そうなんですか。チッ、邪魔ものが増えたみたいね」
「なんだって?」
「いえ、なんでもありませんよ~せんぱい」
あ~、気が重いな~。
やっぱり、来ちゃうのかな~生徒会長。
あのひと、もてるからなあ。
なんでモテるか分からないけど。
昼休みが来た。
雛子が頭を抱えていると、
「ひめさま、おきてください」
「あっ、ルールー、どうしたの?」
「逃げます。はやく」
「ど、どういうこと~?」
そのあと、3分ほどして生徒会長、剣崎 健が、2年4組にやってきた。
「すまない。松本 雛子くんはどこにいるのかな?」
剣崎が来たことで、女子たちはざわついていた。
ステキよね~かっこいいよね~などなど。
男子も、別の意味でざわついていた。
くそっ、あいつばっかり、俺もモテてえ、などなど。
そこへ、一人の生徒の声が割って入った。
誰あろう、小次郎であった。
「雛子なら、1年生と出て行きましたよ」
「それは、ほんとか」
「はい」
「一つ聞くが、それは男か?」
「いいえ。女の子ですよ」
「そうか。それはよかった。行先に心当たりはないか?」
「う~ん・・・屋上かな」
朴念仁の小次郎は、指を1本立てて答えてしまった。
「さんきゅーな」
親指を立てる剣崎に、小次郎も親指を立てて答えるのだった。
そのころ屋上の二人は、ルールーの持ってきた弁当を食べていた。
何も知らずに。
カツカツカツ
足音が近づいてくる。
「美味しいですか姫様」
「うん。おいしいよ、ルールー」
「そうですか、それはよかったです」
「でも、自分で食べられるから」
「そうですか~でも、あ~んです」
心ならずもこうなってしまった雛子と、思い通りの展開のルールーがイチャついていると、
カツカツカツ
ルールーの耳に足音が聞こえた。
「姫様こちらです」
ルールーと雛子は、物陰に隠れた。
「どうしたのルールー?」
「しずかに。たぶん、奴です」
「奴って?」
「ぼけ生徒会長です」
「なっ!」
思わず出そうになった声を、雛子は口を押えて止めた。
重い鉄の扉が開く音がする。
カツカツカツ
「いるのは分かっています。出てきてください」
隠れていた雛子は、腹を括って立ち上がった。
「まっ、まってひめさま」
だが、雛子は立ち上がり、剣崎の前へと歩いて行った。
「出てこいとは、わたしのことでしょうか。生徒会長」
「はい、姫君」
「ひ、ひめぎみ~っ?」
「そうです。愛しの姫君」
ひめぎみで、いとしのと来ちゃったよ~
なんだこれ~。
もういやだ~!
と思いながらも、雛子は聞いてみた。
「あの~、一つ聞いてもいいですか?」
「はい、姫君、わたしで答えられるものなら何でも」
「では、わたしと生徒会長の関係って」
「生徒会長か。今はまだそれでいいでしょう。私とあなたの関係は、婚約・・・コホン、隣国の姫君と王子の関係です」
「いま、こんやくって聞こえた気が」
「空耳でしょう」
いま、婚約者だと意識されるのは不味い。
言わなかった、という事にしよう。
「でも、聞こえた気が」
「空耳ですよ」
「まあ、いいですけど。それより、姫君はやめて貰えませんか」
「わかっています。二人だけの時だけですよ」
「二人きりって、そんなことはあり得ません!」
ルールーの声が、割って入る。
「今も、わたしも入れて3人です。ですから、もうそんな風に姫様を呼ぶのは、やめてもらいます。わかりましたね、バカ王子」
「何を言っているのだ、貴様は。今も、私と姫君二人きりだ。お前など、数に入らん」
「にゃにを~」
言い合いをしていた剣崎が、雛子を見つめた。
「なんですか?」
「姫君。一つ提案があるのです」
「提案ですか?」
「そう、提案です。私はこいつらのように付きまとう気はありません」
その言葉を聞き、雛子は胸をなでおろした。
これ以上、ぞろぞろと登下校はしたくなかった。
それと同時に、提案というのも気になった。
「それで、わたしにどうしろと?」
「簡単です。生徒会に入ってください」
「「んなっ!」」
「ダメですよ、姫様。こんな、淫獣がいる生徒会なんて」
「だれが淫獣か!」
「絶対にそうです。淫獣の巣窟に決まってます」
「おまえ。お前は姫君の何なのだ?」
「私は侍女です。わるいですか!」
「ふむ・・・」
ルールーの言葉を聞き、剣崎は顎に手を置き考え事をし始めた。
「おい、侍女」
「私を侍女と呼ぶな!この馬鹿王子」
「ではなんと?」
「え、えと」
ルールーは、雛子の顔を覗き込んだ。
「普通に、瑠璃ヶ丘でいいんじゃない」
頷くとルールーは、剣崎にに言った。
「私のことは、瑠璃ヶ丘と呼べ」
「はいはい、瑠璃ヶ丘。お前さえよければ、お前も生徒会に来てもいいぞ」
意味が分からず、ルールーは首をかしげる。
「分からないか。生徒会に入れば、姫君と一緒にいられるということだ」
「なるほど。わかった、わたしも入る」
「よし、決まりだな。よろしくな、瑠璃ヶ丘のルーちゃん」
「ルーちゃん言うなバカ王子」
雛子が意見する間もなく、生徒会入りは決まってしまうのだった。
生徒会に入ることになっちゃった。
まあ、それはいいけど。
でも、生徒会長って、全然思ってたのと違っちゃった。
別に興味ないけどね。
雛子に興味がないと思われている、剣崎であった。
王子だったけど、やはり残念かな。