第一章 コイントスから始まったちっぽけな話
二階堂 駿はどこでもいそうな平凡な中学三年生である。黒髪の短髪、整ってはいないが、ブサイクではない顔。友達も多くなければ、少なくもない。テストの点数は毎回平均点並だし、体力テストでは標準クラス。取り柄もなければ、短所もない平凡な男だ。だが、そんな彼にも一つ悩みがある。それは人生が楽しくないことだ。彼の人生は一言で言えば、『普通』だ。他の家庭がやっているようなことをやり、風習通りの行事を行う。まさに普通。そんな彼に訪れる、幸福を掴むために彼は人間関係を改善しながら、突き進む。
学校の敷居を跨ぐのは、およそ三週間ぶりだ。これは、別に不登校だとか、入院していて、来られなかったわけではない。春休みだったのだ。しかも、中学校生活最後の。
ただ毎日を過ごしていたら、急に明日が始業式だと気づいた。昨日は、手付かずだった宿題を徹夜してやった。未だ、数教科終わってないが、学校でやればいいと言う点綴的な、人間の意志の弱さが出てしまい放置している。ともあれ、早く教室に行かなければ、宿題ができなくなり、本当の意味で困る。
「誰かに答え写させてもらうかな」
別に、面白くも退屈しなかった休みだった。最低限の行きたい場所には、足を運んだし、数日に一度は塾やら、習い事で友達とは顔を合わせた。唯一、不満を述べるのであれば、それは彼女がいないことだ。
「なんか、いい子と出会わないかな……」
二階堂 駿は浅くもなく深くもない溜息を地面に吐いた。地面には大量の花びらが落ちていた。特に、桜の花が多かった。恐らく、理由はこの天堂中学校に咲く、象徴とも言える大樹、通称岡桜があるからだろう。
「お嬢様、学校に到着しました。では、良い一日を」
「ありがとう。じゃ、またあとで向かいに来て」
「御意」
校門の方から、金持ちが言うようなセリフが聞こえた。こんな、会話が出きる人物を駿は一人だけ知っている。鬼龍院 有紗だ。彼女の実家は極道やっているらしい……とは言っても違法なことには一切手を染めてない。それどころか、資金収入として始めた不動産が大成功したらしく、今では飲食店、ソフトウェア、IT企業をはじめとした幾つもの企業を運営している。挙げ句の果てには、日本でも有数の企業に成り上がった、超ホワイト極道だ。
「なことを春休みの特別番組でやっていたな」
そんな時間潰しのくだらないことで脳を膨らませ、駿は昇降口へと消え去って行った。まるで昇降口がブラックホールかのように生徒達は、吸い込まれる。
「知らない、顔ぶれが多いと思ったら、今日は入学式か」




