無謀なこと
第二プロローグ
桜舞い散る、四月のことだ。麗らかな陽射しが、巨大な桜の影下にいる二人を照らしていた。
どこも、かしこも就職やら、新学年やらで、大賑わい。確かに、二階堂 駿も同様に進級して中学三年生と今日晴れてなったわけだが、今の駿にはそれはどうでもいいことになっていた。
「で、なんのよう?」
ピンクの雨に混じり、瑠璃色に染まる髪が風に靡き、微かに煌く。それは摩訶不思議で幻想的な空間を生み出していた。もしや、ここが別次元にいると錯覚を駿がしていそうだった。
何とも、鮮明で秀麗な背景。駿の眼前にいる一人の少女はまさに、その中心にいた。
天堂中学校の校庭にそびえ立つ桜。通称岡桜でさえ、彼女の気品を損なえさせないためのお飾りにしかすぎない。それほどに、彼女は美しく明媚だった。
「ねぇ、聞いている? 入学式早々私を岡桜の下に呼び出してなんのよう? 私だって、暇じゃないんだから。早く、要件を言って」
不機嫌気味に、腕を組み、貧乏ゆすりをしていた。
早く言わなければ、鬼龍院 有紗が機嫌を損ね、どこへ行ってしまうかもしれない。もう既に、かなり機嫌が悪いと思うが……。
「実はさぁ……」
出ない。彼女と出会う前に何度もシュミレーションしているのに。そして、成功しているのに。
「だから、何!? はっきり言わない人好きじゃないの」
明らかに、怒っていた。女子と言う生き物は、短い時間硬直状態が続くと激怒するのだろうか。はたまた、それは彼女限定に起こり得ることなのか。男には理解できなかったが、これ以上時間を食えば終わりだとはわかった。
「俺、お前のことが好きなんだよ。付き合ってください」
彼女の艶かしい声が、駿に浴びせられる。
「無理。私もぞもぞしている人嫌いなんだよね。他、渡ってくれない? 多分その調子だと無理だと思うけど」
心に何本もの槍が突き刺さった。精神的に痛い。人生で初めて、断られた。彼女は、学年でも随一の佳人だ。制服を着ていてもわかる豊満な胸、スタイルが良い、体付き。どれもが、男子を惹きつける要素だ。そんな彼女にも1つ欠点がある。それは、気の強さだ。
「てか、あんたどんなだけ、私のこと見ているの?」
そう言い残し、鬼龍院 有紗は去っていた。それを茫然と眺めることしかできない、二階堂 駿。青春の一ページはこうして、刻まれた。




