屋敷というより....
カエデとユウの目の前にあるのは、2階建ての大きな古家があった。
「す、すごいね...」
カエデは感嘆の声を漏らした。全長十二メートルほどの普通の屋敷ぐらいなのだが、とにかく屋敷の壁やドアなど作りが洋風で、一瞬明治時代のパリにタイムスリップしたような感覚になる。
「とりあえず、中に入ってみよう」
ユウは一歩踏み出しながらそう言った。
扉を開けると、外観の期待を裏切らない、古洋風の内装が広がっていた。
「どうしたの?ユウ」
ユウがドアを見ながら、顔をしかめさせていた。
「いや....なんでもない。大丈夫。」
「ならいいんだけど...」
ユウはすぐにいつもの優しい表情に戻すと、こちらを見て微笑んだ。カエデはそんなユウを不思議に思ったが、特に気にしないことにした。
数秒、あたりを見回した後、再び感嘆の声を漏らしたのはカエデだけではない。
「うわ...広い....」
「これは....館内図が欲しいレベル...」
玄関は12畳ほどの、広いエントランスルームが広がっており、そこから正面と左右に一つずつ通路が伸びている。そして右側には崩れた瓦礫の山があった。
「とりあえず探索してみようか」
「わかった」
「じゃあ、多分二階建てだと思うから、最初一階から探索してみよう」
そう言い、二人は初めの部屋の前まで歩き始めた。
初めに向かったのはドアから見て左側の通路を入って、左手に見える部屋だ。
ガチャ
ユウが扉を開いた。
中に入ると、6畳ほどの普通の部屋があった。その部屋は、壁に花の絵が描いてあり、積み木が転がっているなど、推測するに子供部屋のようだ。
「うわっ、散らかってる...」
「そうだね...」
相当、昔の絵本が乱雑に机の上に散らばっている。
「 "ランプとおじいさん" "煙突にすむ人" "洞窟の中へ" ....ちょっと怖い...」
見た目が絵本なのだが、表紙がとても子供に見せるようなものではないとカエデは思った。
( こっちの本はなんだろう...)
"The first word"という不思議な題名の絵本を持ちあげた瞬間...
バキッッ!
「うわっ!! びっくりした.... 絵本割れた...」
真ん中らへんを持って持ち上げたら、持ったところぐらいから、真っ二つに分かれた。
コトッ
何かが机に落ちた。
「鍵...?」
「鍵....だね...」
長さ12センチぐらいの銅色(元々は金色だったであろう)の鍵は割れた絵本の中から出てきたみたいだ。
「え、絵本の中に入ってたの!?」
「たぶん......どこの鍵だろう...」
「とりあえず、何かに使えるかもしれないから持っておく」
そう言い、リュックから小さいお財布ぐらいの大きさのポーチを取り出し、そこに入れた。
そのまま、他に珍しいものを探していると、ユウがカエデを手招きした。
「なに?」
「ここ、何か入ってない??」
「ん?」
ユウがしゃがんで指さした場所には直径10cmほどの穴が空いていた。カエデはリュックから懐中電灯を取り出し中を覗いてみたが...
「よく見えない.... でも何か奥の方で光ってる」
「また鍵かな?」
「わかんない...」
もし鍵だったとしたら、絵本のやつもそうだけど、なんでこんなところにあるんだろう...とカエデは思った。どう考えても不自然だからだ。
「なんでこんなところに鍵なんかあるのかな...」
「さあ.... ここに住んでた人が、入られたくない場所でもあるのかも...」
「それはちょっと入ってみたいな…」
カエデは少し不敵な笑みを浮かべた。ユウはそんなカエデを見て微笑んだ...ように見えただけかもしれない.....。
それから部屋を見て回ったかが、他に珍しいものも見当たらず他の部屋に行くことにした。
表に出て左に進みと、すぐ右に曲がっていた。右に曲がりすぐ左手側にある部屋へと向かう。扉の前につくと、カエデは冷たいドアノブをつかみドアを開けた。
ガチャ
ドアを開くと、少し広いが先ほどの子供部屋とあまり変わらない内装となっていた。
ベッドが置いてあり、机があり、本棚があり、ほとんど家具とレイアウトは変わらない。窓の向きと広さが変わっているだけ。
「あんまり変わらないね...」
「うん。それにすごく片付いてる。 何もなさそうだね...」
本棚には、本どころか何も無く、机の上や、椅子、壁など、全てが綺麗に片付いている。探す場所がなさそうだった。
「まあ、一応見ていこう?」
「そうだね。」
そう言い、5分ほど見てみたが、予想の通り何も無かった。
肩をすくめながら部屋を出、左隣の部屋に入った。
「...........え、もしかして..... 屋敷ではない感じ...?」
「旅館みたいな感じかな....」
そこは二つ目の部屋と全く同じ内装だった。カエデは部屋を出てみてドアの少し上の方を見ると、錆びて見えずらくなっているが、金色のプレートに"103"と書かれている。
一応そのもう一つ隣のドアへ行ってみても、元金色の錆びたプレートに"105"書かれていた。開けてみても部屋は同じだった。
「旅館.... ホテル?みたい.....」
「そうだったんだー」
「ホテルなら館内図とかもあるかもしれない!!」
「そうだ!!探してみよう!!」
最初入った時、右側に瓦礫があったが、もしかしたら受付だったのかもしれない。
そう思い、少し早足でエントランスルームへと足を向けた。
開けっ放していたドアを閉めた瞬間、エントランスルームの方からも、何かの音がした気がした。
「今、何か聞こえなかった?」
「いや、ごめん。考え事してたから、あんま聞いてなかった。」
「そう....」
気のせいかな...?と思い、深く考えることをやめた。
二人は気づいていない。もう平和に帰る選択肢がないということ。もう手遅れだということを––––––––––––––––