表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

七話 抱きたい理由

 久しぶりに良く寝る事が出来たようだ。

 夢を見ていた気がする。

 だがどんな夢だったのか思い出せない。

 それはもう既に届く事のない遥か遠き日の夢。

 そんな夢だった気がする。


 ふと隣を見ればルードの寝顔があった。

 普段は生意気で憎まれ口ばかり叩くルードだが寝顔は可愛い。

 私はこうやってルードの寝顔を見ている事が好きなんだと思う。


 その時、部屋の扉がノックされた。

 恐らくこの家の主シャロンだろう。


「ルード、起きてますか?」


 やはりシャロンだったようだ。

 ここは彼女の家だというのに律儀なものだ。

 流石に人型のままではマズイか。

 私は手早くドラゴンへと姿を戻す。


『ここは君の家だ。遠慮は要らない』

「それじゃ、失礼しま――――― 」


 私の返事にシャロンは扉を開けた所でフリーズしてしまった。

 見る間に彼女の顔が赤くなっていく。

 一体彼女はどうしたというのだ。

 そんな疑問が頭に浮かぶ。

 いや、本当は分かっている。

 

 何だか初心そうなシャロンの反応を見てみたい欲求に駆られたのだ。


「え、えええ!? 裸!? ちょっと服! 服を着て下さい!」

『ふむ? 私とシャロンは同性なのだし、昨日までは私が衣を身に付けてなくても平気だっただろう? ルードも下半身は隠れているし問題はない』

「イグニスの事じゃありませんって!

 ってイグニスが喋ってる!?

 えええ!?

 と、とにかくルードに服を着せて下さい!」


 シャロンは朝から元気なようだ。

 若いという事は素晴らしい。

 などと騒いでいると、どうやらルードも目を覚ましたようだ。


「朝っぱらからうるさいな」


 眠そうにルード目を擦りながらが起き上がる。

 それと同時にシーツが捲れて隠れていたルードの股間が露わなった。

 ルードの股間を凝視し、再びフリーズしてしまうシャロン。

 ふむ。まだ少女と言える年齢のシャロンには些か刺激が強過ぎたか?

 しかし朝から元気なのはシャロンだけではないようだな。

 昨夜あれほど私を抱いて置いてこれとはな。

 若いという事は本当に素晴らしい。


『シャロン。異性の体が気になる気持ちは分からなくもないが何時まで見つめているつもりだ?』

 

 私の指摘でようやく自分がルードの局部を凝視してしまっていた事に気が付いたシャロン。

 キャーキャーと可愛らしい悲鳴を部屋から飛び出していった。 

 本当に初心で可愛らしい反応だ。

 私にもあんな時代があったものだ。

 ん?

 あったか?

 あったような……?

 あったと思いたい。




 私達が服を着てリビングに向かうと、そこには朝食の準備をしているシャロンの姿があった。

 私達の姿を確認するとその頬にさっと赤みが差した。


『シャロン、済まない。どうやら気まずい思いをさせてしまったようだな』

「あ、いえ。大丈夫ですよ。

 流石にびっくりはしましたけど。

 っていうかイグニスって喋る事が出来たんですね」

『私程になれば思念による会話など容易い事だ。

 ただ、一般人の中にはそれを認める事が出来ない者も多い。

 それ故にルード以外の者とは極力喋らないようにしている』

「そうだったんですね。心臓止まるかと思いました。

 …… 色々なショックで」

 

 そう答えつつもシャロンは恥ずかしさでルードの顔を直視する事が出来ないらしい。

 それはそうだろうな。

 年頃の少女が朝っぱらからいきなり男の全裸を見せつけられるという事だけでも相当驚きだろう。

 更にはドラゴンがいきなり話しかけて来て尚且つ同性である事を主張し始めるという展開はそうそうあるものではない。

 チラチラとこちらの様子を伺うシャロンの様は同性である私ですらグッと来るものがある程だった。

 当然ルードは完全にシャロンをターゲットにロックオンだ。

 これはまずいかもしれない。

 ルードは技術やサイズこそ平凡であるが、性欲の強さだけは並みではない。

 昨晩も人型をとった私を相手に結構な回数をこなしている。

 シャロンがキングとやらの事を思っていたのだとしても押し切ってしまう可能性があるのだ。

 ルードが責任を取りシャロンと添い遂げる覚悟があるならばそれもありなのかも知れないが、この男に限ってそれはない。断言出来る。

 この話だけを聞くとなんと酷い男なのだろうと思うかも知れない。

 いや、実際に酷い男だという事も間違いではない。

 だがルードだけが悪いのだとも言い切れない現実がこの世界にはあるのだ。

 この世界では人の命は呆気なく失われやすい。

 防衛力の低い街などは常に魔人や盗賊などの脅威に曝される。

 それ故にそれらの脅威に対抗する事の出来るハンターの存在は重要だ。

 腕の立つハンターと女性が結婚して、ハンターが街に残ってくれれば街の防衛力が増す。

 例えハンターが街に残らなかったとしても、女性がハンターの子を身に宿せばその子は将来街を守る為の貴重な力になり得る。

  当然A級の凄腕ハンターであるルードも女性に言い寄られる事も多いし、気に入った女性を口説けばそれなりの確率で抱けたりする。

 そういった背景がハンター達を増長させ、ディミトリアス派の様な連中を生む温床にもなっているという問題もあるのだが。

 とある街では私が少し目を離している間に四人の女性と同時に行為に及んでいた事もあった。

 あれには呆れを通り越して、むしろ感心してしまった程だ。

 まぁ、双方が合意の上での事ならば問題ではないのだが、シャロンはどうみてもそういうタイプではなさそうな気がする。

 この街に居る間は私がしっかりとルードの手綱を握り、シャロンを守ってやらねばなるまい。

 

 


 


 ◆◆◆◆


 私の目の前にはルインザードと名乗る黒尽くめの男が居る。

 男と私は数日前に出会い行動を共にしていた。

 ようやく街に辿りつき宿の部屋に入った途端に私を押し倒そうとしてきたのだ。

 だが私としてもルインザードの行動は想定内の事だ。

 自慢になってしまうが私は美しい。

 燃える様な赤い髪、整った目鼻立ち、そしてスタイルも抜群だ。

 街の外に居る間は魔人共が跋扈する危険地帯であるが故に手を出して来なかったが、ルインザードはかなりの頻度で私の胸や股間や尻等をいやらしい目で見ていた。

 それなりに治安の良い寝床を確保した今、ルインザードが私に手を出して来ない方が不自然な状況だったのだ。

 私は勢いで唇は奪われてしまったものの、鳩尾にしっかりと膝をねじ込む事には成功していた。

 並みの者ならば内臓が破裂してもおかしくはない程度の威力だった筈なのだが目の前の男ルインザードは大したダメージを負った様子はなかった。

 予想以上に頑丈な男であるらしい。

 再び襲ってくるようであれば更に強烈な反撃を喰らわせてやろうと思ったのだが、飛びかかってくる様子はなかった。

 目の前にあったお菓子を取り上げられたような子供のような顔をして座り込むルインザード。

 ふむ。単純に暴力で女性を抑えつけるような奴ではないのか。

 まぁ、この人相で、あの迫力で迫られたら大抵の女性は抵抗する事すら諦めそうな気もするが。


「私に欲情したのか? だが生憎私は力づくで犯されてやる程お人好しではない」


 私はルインザードに言い放つ。


「その気がないのなら何で俺に着いて来たんだ」


 不貞腐れた様子で言い捨てるルインザード。

 何故着いて来たと聞かれても返答に困る。

 何故私はこの男に着いて来たのだろうか。

 確かに言われてみれば私はそう思われても仕方ない行動をとっていたと言えるかも知れない。

 ふむ。何だか少しだけ悪い事をしてしまった気分になってきた。


「ルインザード。君に一つ聞きたいのだが私の事が怖くはないのか?

 私の神獣としての姿を見ていてなお、私を抱きたいと思ったのか?」 


 私は普通の女ではない。

 悠久の時を生き続ける神獣なのだ。

 今までにも私に色目を使ってくる者は少なからずいた。

 そんな者達は私の火竜の姿を知ると態度が豹変したのだ。

 私に命乞いをする者。

 私を魔人だと騒ぎたて殺そうとする者。

 私を見世物にでもしようと画策する者。

 様々な者がいた。

 だがこの男、ルインザードは違う。

 火竜イグニスの姿で出会ったにも関わらず私を恐れる様子は微塵もないし、更には今この場において押し倒そうとまでして来た。

 この男ならば神獣である私とも対等に並び立つ事が出来るかも知れない。

 私は期待と不安に混ぜ込んだような奇妙な心境でルインザードの答えを待つ。

 ルインザードは何言ってんだコイツ? と言うような目で私を見る。

 そして迷う事なく口を開いた。


「抱きたい女が居る。理由なんざそれで充分だろ」


 返ってきた答えは何ともシンプルなものだった。

 シンプルである故にこの男の偽らざる本心なのだろう。

 この男らしいと思えてしまった。

 この男は抱きたいと思ったら魔人でも抱いてしまうのではないのだろうか。


「なんだよ!? 急にニヤニヤしだして気持ち悪い奴だな」


 気持ち悪いだと。

 この私を捕まえて気持ち悪いとは失敬な。

 いや、待て。

 笑っていたのか?

 この私が?

 言われてみれば確かに笑っていたような気がする。

 作り笑いではない笑みを浮かべたのは何時以来の事だろうか。

 そんな事を考えていると何時の間にか私の顔には再び笑みが浮かんでいた。

 

 そんな私の様子を気味悪そうに見ていたルインザードだったがやがてベッドに潜り込む。

 私を抱けないのなら起きていても仕方がないと言わんばかりだ。

 

「寝るのか?」

「寝る。言っとくがベッドは譲らんぞ」

「おさまりが付くのか?」

「うるせーな。おさまりが付こうが付くまいが嫌がる女を犯す趣味はない。だから寝る」


 ルインザードは私に背を向けたままひっくり返っている。

 その背中は意地でもベッドは譲らないという子供じみた意志を感じさせた。

 そんなルインザードの姿を見ているだけでも不思議と笑みが込み上げて来る。

 ああ、そうか。

 私はこの男と何故一緒に行動しているのかようやく理解した。

 私はこの男と一緒に居るのが楽しかったのだな。

 理解してみれば話は早い。

 ここは一つ私から歩み寄ってやろうではないか。


「いや、一度拒否しといてあれなのだが私で良ければ相手をしよう。

 ただこういう事はあまり経験がない。出来れば優しくして欲し―――――」


 私が言いきる前にルインザードが覆い被さって来た。

 乱暴に唇を貪ると荒々しく私の衣服を剥ぎ取っていく。

 優しさの欠片もなかった。

 だが不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 むしろ一生懸命に私の体を貪るルインザードの事が愛おしく感じた。




「ひょっとして初めてだったのか?」


 ルインザードが私の中で果てた後、少し躊躇いがちに聞いてきた。

 少々乱暴気味だった事を気にしているのだろうか。


「始めてではないな。数千年ぶりではあったが…… どこかおかしいところでもあったのだろうか」


 もしかしてこの数千年の間に人間の性交は大きく変化していたのだろうか。

 どこか駄目だったりしたのだろうか。

 ほんの少しだけ心に不安が広がる。


「…… 何の反応もない女は始めてだったからな。ひょっとして初めてだったのかと思っただけだ」


 ふむ。妙に必死だとは思っていたがそういう事だったのか。

 私が余りに無反応だったから頑張っていたという事か。

 私としてはそれなりに気持ち良かったのだが。

 だが気持ち良かったという事は黙っておくとしよう。

 少しだけ気恥かしいし、その事を知ればこの男は調子に乗りそうな気もするからだ。



 こうして私、イグニスとルインザード…… ルードは肌を重ねるようになったのだった。

  



 ◆◆◆◆


 どうやらシャロンは私達の分の朝食まで準備してくれていたらしい。

 トーストとコーヒーを手渡される。

 カリッと香ばしく焼き上がったトーストにトロリと溶けたバターの香りのハーモニーが何とも食欲を刺激してくる。個人的にはハムとチーズも乗せてあれば最高なのだが贅沢は言うまい。

 

『泊めて貰った上に朝食まで準備してくれるとは済まないな』

「いえいえ。これぐらい大した手間でもないですから」

「パンもう一個くれ」


 私の言葉に少し照れながら答えるシャロン。

 割と普通に私が喋るという事を受け入れてくれて嬉しい限りだ。

 そしてルードよ。

 もう少し味わうって事を知らんのか。

 多少は遠慮する素振りを見せろ。

 図々しい奴め。

 

「それでお二人は今後の予定は決まっているんですか?」


 シャロンはルードに新たに焼き上がったパンを手渡しながら聞いてきた。

 さて、どうするか。

 数日はのんびりと過ごしたいところだが、このままシャロンの家に居座るのは流石に図々し過ぎる気もするし、何よりシャロンの貞操が危険でもある。

 何とか宿を確保したいところだ。

 私がそう口にするとルードはあからさまに嫌そうな顔をしている。


「部屋なら空いてますし、数日位ならうちに泊まって行ってくださいよ!」


 シャロンの言葉に喜色を浮かべるルード。

 こらこら、シャロン。

 君の為を思ってのプランを君自身が台無しにするんじゃない。

 このままでは君はルードの毒牙に掛かってしまいかねないのだぞ。

 大体君はルードの凶行を目の当たりにして恐れていたではないか。

 既に一晩泊めて貰っておいて言うのもあれなんだが、君はもう少し警戒心という物を持つべきではないのだろうか。

 


『しかしだな。君とてハンターだ。君が家を空ける事もあるだろう。他人である私達が家主が留守の家を我が物顔で使う訳にはいかないだろう』

「いえ、私も街に戻ったばかりなので数日は街に居ますよ」


 どうやら私の努力はシャロンの天然さの前には意味を成さないらしい。

 結局は空気を読まないシャロンの好意に甘えてウェストール滞在中はシャロンの家で寝泊まりする事になったのだった。


  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ