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十八話 レクイエム

「我に傷を負わせるとは、人間風情がやるではないか。誇るが良い」


 首の切断部や腹部そして背中から大量の血を噴きながらも、尊大な態度を崩さないキルレイン。

 紅の瞳が爛々と輝き、明確な殺意がキルレインの瞳に灯る。


「な……」


 あまりに異様な光景に思わず息を飲むディミトリアス。

 それは上級魔人たるキルレインに対して致命的とも言える隙だ。

 

 立ち竦むディミトリアスに向かってキルレインの首のない肉体はマントを翻す。

 翻ったマントは鋭利な刃となりディミトリアスに襲い掛かった。

 そしてディミトリアスを呑み込まんとしたその時。

 

 何者かがディミトリアスを突き飛ばし、その身代わりにマントによる斬撃を喰らった。


 キングだった。

 死力を振り絞りシャロンの元から移動し紙一重のタイミングでディミトリアスと入れ替わったのだ。

 キルレインのマントはキングのオリハルコン製の鎧を切裂く事自体は叶わなかった。

 だがその物理的な衝撃力は凄まじく、キングを軽々と部屋の端にまで吹き飛ばした。


 ディミトリアスそしてシャロンがキングの元へと駆け寄る。

 キングを抱きかかえるディミトリアスのその目には涙さえ浮かんでいた。

        

「キング!?

 何故!?  

 何故あなたは!

 私達なんかの為にそこまで出来るんです!?

 私達がナーガに攫われた時も!

 たった一人で助けに来てくれた!

 更には私達の身代りに魔人の賢族などにまで身をやつして……

 どうして!?」


 ディミトリアスの涙声が無情に響き渡る。

 シャロンはそんな事は知らされては居なかったのだろう。

 ディミトリアスの叫びを茫然とした表情で見つめていた。

 そんな二人を見守る様にキングはかすかに口元を歪めている。

 笑みを浮かべているつもりなのだろう。


「あなたが死にたがっていたのは知っていました!

 それでも!

 例え魔人の手先に成り下がったとしても!

 私達はあなたに生きて欲しかったのに!」 


 ふむ。キングは己の精神力のみでヴァンパイアの支配から逃れていたという訳か。

 キングという男は人としての肉体を失っても尚、人の心を持ち続けたというのか。

 そんな事が出来たという話は聞いた事がない。

 何という男だ。

 

 既にキングの目は完全に虚空を彷徨い焦点は定まっていない。

 もはやディミトリアスの声すら届いているかも怪しい。


「…… 」


 キングが何か呟いた。

 その言葉はあまりに弱々しく私の耳を以てしても聞き取れなかった。

 だがディミトリアスとシャロンには聞こえたのだろう。

 くしゃりと顔を歪め涙をこぼす。

 その言葉を最後に完全にキングの瞳から光が消えた。

 それが数多の魔人を狩り、大陸屈指のハンタークランを作り上げた男の最後だった。


「「キング!」」


「フハハハ。そうか!

 貴様はあの時の小増か!

 貴様の身代りに我が賢族となり果てた者が、今度は貴様の身代わりとなって死んでいく!

 貴様はどんな気分なのだ?

 特別に今だけはさえずる事を許してやろう!

 フハハハハハ!」


 既に物言わぬキングを抱きかかえ涙するディミトリアスに追い打ちを掛ける言葉を投げつけるキルレイン。

 ディミトリアスは憎悪に満ちた目でキルレインを睨みつける。

 しかしディミトリアスにはもう戦う力は残されていない。

 先程の一撃が振り絞れる力の最後の一滴だったのだろう。

 ふむ。キルレインの言葉を信用するのならば、本来ならキルレインに敗れ賢族となっていたのはキングではなく、ディミトリアスとその仲間だったというところか。

 だがキングがその身を差し出した事で、ディミトリアス達が助かったという訳か?

 いや、助かったという程に簡単な事でもないか。

 心から尊敬していた男が、己の所為で魔人の手先になってしまったのだ。

 むしろ助けられたディミトリアス達にとっては、一生逃れる事が出来ぬ呪いとなってしまったと言っても過言ではないのかも知れない。

 だからこそ、ディミトリアス達は多くのならず者をクランに加入させ、その者達をキルレインの餌として提供し続けて来たという事か。

 その行為は間違いなく人類に対する裏切りだ。

 そんな事はディミトリアス達も百も承知だった筈だ。

 それでも、若者達は生きて欲しかったのだ。

 キングという男に。

 そんなディミトリアスの想いをキルレインは見下し嘲笑っているのだ。


 魔人風情が…… 


 心底不快な感情が込み上げてくる。


「黙れ」


 静かな、しかし確かな重みを持った言葉が響いた。

 言葉の主はルードだ。

 ルードも怒りを感じているか。

 人類を裏切ってまでも、命の恩人であるキングに生きて欲しい。

 そう願った若者達の想いを踏みにじる魔人に。

 

「何故我が黙らなければならぬ?

 これ程滑稽な喜劇を目の前で演じられてどうして笑わずにいられようか!

 フハ! フハハハハハ!」


 尚も愉快そうに哄笑し続けるキルレイン。

 その首は既に胴体と繋がっており、その傷はほぼ完治してしまっている。


「魔人如きが生意気に人間様の言葉を吐くんじゃない」


 濃密な殺意を煮えたぎらせたルードの剣がキルレインへと襲いかかる。

 だが、キルレインはふわりと宙を舞いその剣を回避してみせる。


「おおっと、危ない危ない。

 如何に我が寛大だとしてもだ。

 そう何度も首を刎ねさせてやる訳にはいかぬよ」


 宙に静止したまま、芝居がかった口調でキルレインは言い放った。


「何度でも刎ねてやるさ。

 お前の息の根が止まるまでな!」


 ルードもキルレインへと言い放つと再び宙に浮かぶキルレインの元へ目掛け跳躍する。

 だがまたしてもルードの剣はキルレインを捉える事は出来ずに空を薙ぐ。

 跳躍する事でしか刃を届かせる事が出来ないルードと、自由自在に空中を移動出来るキルレインではやはりキルレインの方が空中戦は有利か。

 銃であればキルレインを攻める事も可能なのだろうが、ルードの持っている弾薬は精々数十発が良いところだ。

 並みの魔人ならともかく、流石にバンパイアであるキルレイン相手にその程度のダメージでは大した効果は期待出来ない。


「フハハハハ!

 どうした?

 もう終わりか?

 ならば今度は我の攻撃を受けてみよ!」


 キルレインがその爪と牙にてルードへと襲いかかる。

 ヴァンパイアの爪は鋭く金属製の鎧ですら貫く。

 そしてヴァンパイアの牙は一度噛みつかれたが最後、全ての血を吸い尽くされて死に絶えるか、賢族に成り果てる運命しかない。

 先程の私の説明でルードも承知している筈だ。

 ルードはキルレインの爪と牙を回避して見せる。

 そしてキルレインを空中に逃がさないとばかりに剣を振るおうとしたその瞬間。


 刃と化したキルレインのマントがルードを強襲する!

 キルレインの攻撃は爪と牙だけではなくマントでの斬撃を含めた三段構えだったのだ。


「チッ!」


 舌打ちと共にルードはマントを剣で打ち払う。

 だが打ち払われたマントはまるで意志を持った生き物であるかのようにルードへと追撃の刃を延ばす。

 ルードも更に舌打ちを一つ打つと咄嗟に後方へと身を翻す。

 キルレインはその間にあっさりと空中の安全圏へ逃れていた。


「フハハハハ!

 我の息の根が止まるまでこの首を刎ねるのではなかったのか?

 んん?」


 無傷で空中に佇むキルレインがルードを挑発するかの様に言葉を発する。


「うるせぇよ。直ぐに嫌って程切り刻んでやるから心配しないで待ってろ」


 キルレインへと冷静に言い放つルード。

 ルードの背中はマントの追撃によって傷を負ったらしく血が滲んでいる。

 冷静に務めているようだがルードの腸はさぞ煮え繰り返っている事だろう。 


「無様な負け惜しみ程哀れなものはない。

 良かろう。

 その負け惜しみすら吐けぬようその身を切り刻んでくれよう」


 キルレインはそんなルードの態度が気に入らないのだろう。

 滑空するかのようにルードを頭上から強襲する。

 炸裂音が三つ弾ける。

 ルードは接近される前に迎え撃つべく銃での迎撃を試みたのだ。

 首尾よく傷を負わせる事が出来れば奴を空中から引きずり落とす事が出来るかも知れない。


「その手は食わぬよ!」


 紅き目を爛々と輝かせながら言い放つキルレイン。

 銃口の角度からキルレインは弾道を予測し回避を行う。

 ミスリルの弾丸は一発はキルレインの頬を掠めた。

 だが、残りの二発はキルレインに触れる事すらなく天井へと着弾。

 私の願いもむなしくキルレインに有効なダメージを与える事は叶わなかったらしい。

 そのままルードへと爪を振るうキルレイン。

 ルードは銃を外したと見るや即座に銃を手放し回避行動に移る。

 爪から辛うじてルードは身をかわす。

 その直後、狙い澄ましたかの様にキルレインのマントがルードを狙う。

 先程と同じように剣をマントに叩きつけるルード。

 マントは剣を叩きつけられた事でかなりの勢いを相殺された。

 それでも意志を持つ生物の様に翻りルードへと襲いかかる。

 しかしルードはここで恐るべき行動に出た。

 肉体を切り刻まれながらも銃を手放し、空いた方の手でマントを掴みとったのだ。

 それはキルレインの油断と言えた。

 それも致命的にも成り得る程の油断だ。

 もしもルードの行動が相討ち覚悟の捨て身のものだったのならば、キルレインはそれを察知したかも知れない。

 だがルードの瞳は、生きる事を諦めた者の瞳ではなかった。

 己が勝つ事、生きる事に全力を賭した者の輝きが、ルードの瞳には宿っていたのだ。

 それこそがキルレインに、状況の判断を見誤らせた最大の理由だろう。


 ルードは掴んだマントごとキルレインを振りまわすと力任せに石造りの堅固な壁へと叩きつける。

 下級の魔人ならまだしもヴァンパイアを石の壁に叩きつけた所で大したダメージは期待出来ない。

 だがそれは只の石壁だったならばの話だ。


「ぐぁ!?」


 キルレインがほんの僅かに、だが確かに呻き声を上げた。

 キルレインが叩きつけられた石壁にはキングのアースブレイカーが深々と突き刺さっていたのだ。

 その石突き、つまりは柄に当たる部分がキルレインを貫いていた。

 対魔人金属であるオリハルコン製のアースブレイカーは確かにキルレインにダメージを与える。

 それでもバンパイアであるキルレインにとっては致命傷ではない。

 ほんの僅かな時間さえあれば瞬く間に傷は塞がる事だろう。

 だがその僅かな時間を与えるルードではない。

 消耗しきったルードにとっては、唯一の勝機にして最高の勝機。

 キルレインに体勢を立て直す暇も与える事無くキルレインを斬り刻む。


「ぐおおおおお!?」


 ルードに斬られる端から再生してゆくキルレイン。


 だがルードは斬る。


 黙々と斬る。 


 ひたすらに斬る。


 キルレインの再生する速度を超える速度で切り刻み続ける。

 ルードの剣がキルレインを斬り刻む音と、キルレインの絶叫だけが響き渡り続ける。


 どれ程の時間ルードはキルレインを刻み続けたのだろうか。

 やがて闇夜の魔人の時は終わりを告げ、日の光が辺りを照らし出した頃。

 キルレインの生命力が遂に底を見せ始めた。

 ルードはそれでもキルレインを刻み続ける。

 一瞬たりとも気を抜く事はない。

 夜も明け始め、空も白み始めた頃。

 ようやくキルレインの蓄えていた生命力も尽きたらしい。


「どうやら再生もそろそろ打ち止めみたいだな」


 再生速度の遅くなったキルレインを斬り刻みながら言い放つルード。

 だがその表情には一切の油断は感じられない。

 それも当然だ。

 魔人との戦いはほんの一瞬の隙が容易く人の命の灯を奪っていくのだ。

 相手が上級魔人ともなれば尚更だ。


「おのれ……

 おのれえええ!

 ぐあああああ!

 人間風情があアアア!」


 常に押し寄せ続ける痛みに悲鳴と怨嗟を織り交ぜた絶叫を上げるキルレイン。

 既に貴公子然としていた姿の面影はない。

 その真紅の瞳は己の血で染まり身に纏っていた衣服は既にズタズタに切り裂かれその身から既にはぎ取られている。

 反撃を試みようと爪を振るおうとすれば腕を断たれ、逃れようとすれば足を刻まれる。

 キルレインは石壁に張り付けられただただ絶叫を喚き散らし続ける。


 やがてキルレインの悲鳴は徐々に弱まっていき、その表情からは感情の色が消え失せていく。

 それでもルードは切り刻むのをやめない。

 辺りにはルードが黙々と剣を叩きつける音だけが響く。

 既にキルレインの肉体は辛うじて人のような原型は残っている程度だ。

 剣に刻まれ、それでも更に刻み続けられたその肉体はもはや肉片と言ってしまって良い。

 キルレインの肉体が完全に再生をしなくなった頃ようやくルードは剣を振るうのを止めた。

 一晩中剣を振るい続けたルードの息は荒い。

 もはや立っている事すら辛い状況だろう。

 それでもルードは動く。

 懐から酒の小瓶を取り出すとキルレインに酒を掛け火を付ける。

 魔人の死体を燃やして処分するというのは、ハンター達の間では割と一般的だ。

 殺した筈の魔人が息を吹き返したという話は古今東西幾らでもある。

 そういった事を防ぐ為にも、死体を焼いて細胞自体を死滅させるというの、は有効な手段だと言える。

 幾ら夜の王の一族とは言え、原型を維持出来ない程までに斬り刻まれ、更に細胞を焼かれてしまっては流石に生きてはおられまい。

 

 キルレインであったものは燃えている。

 悪臭と黒煙を撒き散らし燃えている。

 人間であったなら確実に生命活動を停止している状況。

 このような状況であっても決して油断出来ない存在。

 それがヴァンパイアという魔人なのだ。


 その炎が燃え尽きようとした頃―――――

 一匹の蝙蝠が飛び出した。

 キルレインが最後の力を振り絞って蝙蝠に変異し脱出を謀ったのだ。

 ルードの剣がキルレインに放たれる。

 しかしキルレインはルードの斬撃を辛うじて避けた。

 蝙蝠の不規則な羽ばたきとルードの疲労が目測を見誤らせたのだ。


「下等な人間共が!

 傷が癒えたら皆殺しにしてくれる!

 必ずだ!

 覚えておけ!」


 窓へと向かいながら正に負け犬の遠吠えといった台詞を吐き捨てるキルレイン。

 あと僅かで窓から脱出出来るといったところだが―――――

 

 甘い。


 この私が夜の王とどれ程の数の死闘を繰り広げてきたと思う?

 この程度の事は織り込み済みだ。

 逃がす訳がない。

 蝙蝠と化したキルレインに炎のブレスを浴びせ掛ける。


「グアアアアア!

 まさかこの炎は!?

 おのれえええええ!」


 ふむ。

 ようやく私の正体に思い至ったか。

 だが既に遅い。

 瞬く間に炎に包まれるキルレイン。

 私の炎は今まで貴様の体を焼いていた安上がりな炎とは次元が違う。

 あらゆる魔人の命を焼き尽くす断罪の炎なのだから。

 迫りくる死の恐怖に怯えながら灰に帰すが良い。


 「終わったみたいだな」


 まだ息も荒いルードに向かって聞き覚えのある声が掛けられる。

 その声の方に視線を向けてみれば、そこにはバクストンを始めとしたアイアンキングダム生え抜き達の姿があった。

 恐らく私達が出て来ないままに夜が明けたので、様子を探りに来たのだろう。


「そうだな」


 ルードが応じる。


「ふん。満足そうな面して逝きやがって馬鹿野郎が」


 バクストンがやりきれないといった表情で吐き捨てた。

 馬鹿野郎とはキングの事だ。

 確かにバクストンの言う通りキングの死に顔には満足そうな表情が浮かんでいた。

 それは生きたいように生き。

 死にたいように死んだ男の顔だ。


「で、どうする?」


 視線をディミトリアスに移し問いかけるルード。 

 その手には剣が握られている。

 元々は敵対していた二人だ。

 だがその元凶たるキルレインが倒された今これ以上争う理由は……

 いや、ある。

 彼等はキルレインに服従していたのではない。

 彼等はキングを生きて欲しくて動いていたのだ。

 そのキングを実質的に殺したのはルードだ。

 場に再び一触即発の緊張が訪れる。

 その緊張はディミトリアスによって破られる事となった。


「いえ。止めておきます。

 あのヴァンパイアは両親の仇でもありました。

 キングの最後の言葉もありますしね」


 寂しげに笑うディミトリアス。

 ふむ。数年前に街を襲ったナーガの群れ。

 それすらもキルレインの差し金であったという訳か。

 高い知性を持つ中級魔人であるナーガ。

 わざわざ大都市であるウェストールを襲ったのか理解出来なかったが、その頃からキルレインの魔の手は伸びていたという事か。

 だがキングの最後の言葉とやらを語るつもりはないらしい。

 まぁ、気にならないと言えば嘘になる。

 だが、無理やりに聞きだす事も無粋という物か。


「それで良いのか?」

「ええ」


 ルードの問いかけに頷くディミトリアス。

 そしてルードはシャロンへとその視線を向ける。


「良くはありません……」


 シャロンの絞り出すような声が響く。

 当然だ。

 彼女の思い人は永遠に失われてしまったのだから。


「でも…… でも……」


 それでも彼女は気丈に言葉を紡ぐ。

 キングの遺体に縋りついているシャロン。

 ルードは急かす事無くシャロンの言葉を待つ。


「今は、今だけは、泣いても良いですか……?」

 

 涙を溜めて肩を震わすシャロン。

 その瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。

 そんなシャロンに無言でルードは頷く。


「う、うう、うあああ!

 ああああああああああああ!」


 朝日の照りつけるウェストールの街。

 少女の泣き声が響き渡る。

 それはまるで男を送るレクイエムのように、響き渡ったのであった。





 キングの死亡というウェストール中を激震させるビッグニュースは、瞬く間に駆け巡った。

 その死因は、突如としてウェストールを強襲した上級魔人との激闘に辛うじて勝利したものの、その時の傷が深く息を引き取ったという事になっている。

 本来ならば上級魔人を倒したという事は、ハンターにとっては至上の名誉だ。

 つまりルードは手柄を横取りされたに等しい。

 だが、己の名誉などというものに特に関心のないルードは、さして気にした様子はない。

 報奨金さえ手に入れば、ルードにとってはどうでも良い事らしい。

 まぁ、現状でもルードのハンターとしての知名度は抜群に高い。

 今更名を売る必要もないと言える。

 ルードがそれで良いというのならば、私自身も特に口出しするつもりはない。

 ハンターギルドには誰が倒したかなどログカードの情報で筒抜けではあるが、かの組織は政治に不干渉を貫いている。

 当事者同士で折り合いが着いているのならば、これも大した問題にはならないだろう。

 

 それでもウェストールの英雄の死亡というニュースは、街の住人を大いに不安にさせたようだ。

 裕福な者達は早くも街を見限り、より安全だと思われる街へと移住し始めているらしい。

 バクストンの話によれば住民の流出はこの先もしばらく続くだろうとの事だ。

 これだけでもキングという男の存在が街の者達にとってどれほど大きな存在であったかが伺い知れるというものだ。

 キングの後を引き継いだバクストンも、クランの立て直しには相当苦労しそうだと苦笑していた。

 そしてディミトリアス達が行っていた行為も隠蔽される事となった。

 バクストン達が身内を庇っていると感じる部分もなくはない。

 事実そういった面もあるのだろうとは思う。

 だがそれ以上にA級相当の実力を持つディミトリアスを失う事の方が損失であるという判断らしい。

 まぁ、A級ハンターという上級魔人にも対抗し得る人材は、それ程に得難い貴重な存在であるという事だ。

 

 こうして大陸西部に位置する都市ウェストール並びにアイアンキングダムが、魔人キルレインの陰謀に脅かされた事件は終結したのだ。


  

エピローグは15時頃に投稿しまっす。

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