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一四話 若者達

「ところでルード。その……傷は大丈夫なんですか?」


 シャロンが心配がちに問いかけた。

 確かにバクストンとの一戦でルードは少なくない数の傷を負っている。


「ああ。問題ない。もう既に治り掛かってる位だ」

「え?」


 ルードの答えに間の抜けた様な反応をするシャロン。

 シャロンよ。

 その気持ちは分からないでもない。

 私も初めて知った時には似たような反応をしてしまったからな。

 だがルードの言葉に嘘はない。

 既に傷口からの出血は止まっている。

 覚醒者は基本的に治癒力も一般人よりは高い。

 しかしその治癒力にも当然の様に個体差はある。

 ルードは少しばかり他の覚醒者よりも高いようだ。

 まぁ、それでも我々神獣や上級魔人共と比べれば大した事のない治癒力と言えるのだが。

 それに傷は治っても傷を癒す為に消耗した体力は回復しない。

 そんな事を(勿論神獣云々という話は伏せて)シャロンに説明してみれば、シャロンは露骨に落ち込んでた。

 ダメージを理由にルードがこれ以上進むのを諦めてくれる事を期待していたのだろう。

 ルードが多少の傷で引き下がるような男ではないという事くらいはとっくに気付いていたのだろう?

 済まないがシャロンよ。

 ルードが諦めるという事を諦めてくれ。

 

 


 ルードとシャロンと共に要塞の中に足を踏み入れて行く。

 アイアンキングダムの本拠地とも言える要塞の中は思っていたよりも簡素だった。

 敵を待ち受ける為の軍事拠点としての工夫などは随所に見られる。

 通路は狭く迷路のように入り組んでいる。

 だが派手な装飾などは皆無だと言って良い。

 要塞としては正しいあり様なのかも知れないが、少なくとも大陸西部の大都市ウェストールをあくどく牛耳るクランの本拠地だとはとても思えなかった。

 その要塞の中をシャロンの案内の元に進んで行く。

 私としてはキング側に属しディミトリアスの妹でもある彼女に案内して貰う事に些かの不安はある。


「もしシャロンが俺達を嵌めるつもりならその時はシャロンごと潰すだけだ」


 と言うルードの言葉によってシャロンに案内して貰う事に決まったのだ。

 ルードよ。

 単純なお前は忘れている。

 ほんの数十分程前にシャロンはバクストン達をお前に嗾けていると言う事に。

 結果として決して浅くない傷を負ってしまったし体力もかなり消耗しただろうに。

 まぁ、ルードが賢くはない事は最初から分かっていた事であるし仕方ない。

 せめて私だけでも油断せぬように気を付けるべきだろうな。

 そんな事を考えながらもシャロンの案内の元に上階へと進んでいく。


 妙だな。


 何故誰とも遭遇しない。

 これ程に狭い通路、そして階段ならばクロスボウや弓などの遠距離を攻撃出来る武器で向かえ討つにはもってこいだというのに。

 バクストン派に属する者は既に退去しているとしてもだ。

 ディミトリアス派の者達はまだ少なくとも百名以上は残っている筈なのだ。

 そんな私の疑問は直ぐに解消される事となる。

 ディミトリアスとの邂逅によって。


 階段を上りきると同時に何者かの声が響き渡った。


「やはり来てしまいましたか。血塗れの狂獣(ブラッディビースト)

 本当にドラゴンを連れているのですね」


 声の聞こえてきた方には広間あった。

 そこそこの大規模な戦闘も行えそうな程の広さがある広場だ。

 そこには完全武装の七人の若者達が居た。

 先程の声の主はその中心に立つ若者から発せられたもののようだ。


「お前がディミトリアスか?」


 ルードは殺気を滲ませながら問いかける。


「ええ。その通りですよ。血塗れの狂獣(ブラッディビースト)

 シャロンがお世話になっている様ですね」


 ルードの殺気にも動じずにこやかに応じるディミトリアス。


「兄さん! それに皆も! もう止めて!」


 シャロンが叫ぶ。

 どうやらディミトリアス以外の者達とも面識はあるようだ。

 その表情は真剣そのものだ。


「止める? 一体何を?」


 対するディミトリアスはその表情に笑顔を貼り付けたままだ。

 他の若者達もシャロンの訴えに耳を貸す様子はない。 


「これ以上街の人達を苦しめないで!」

「私の知った事ではないね」


 実の妹であるシャロンの訴えもディミトリアスには届かないようだ。

 にこやかな表情のままに実の妹の訴えですら歯牙にも掛けないその姿にはどこか狂気じみたものを感じる。


「俺も街の事なんてどうも良い。

 俺は俺に喧嘩を売って来た馬鹿をぶちのめしに来ただけだからな」

 

 そう言ってルードは殺気を撒き散らしながらも剣に手を掛ける。


「噂通り好戦的な人のようですね。 血塗れの狂獣(ブラッディビースト)という人は。

 ですが私達はあなたに喧嘩を売ったつもりはないんですけどね」

「ふざけるなよ。派閥の者に仕掛けさせておいて惚けるのか」

「そこが誤解なのですよ。

 私は大陸に名だたるハンタークランに入りたいという者達を受け入れていただけに過ぎません。

 街で好き放題に振舞っていた連中と一緒にされる事自体不愉快ですね」


 笑顔をほんの少しだけ歪めて吐き捨てるディミトリアス。

 ふざけた男だ。

 ならず者共がクランに入りたがっていたから入れてやっただけだと。

 その者達が街で勝手に暴れただけだから自分は無関係だと。

 そんな主張がまかり通るとでも思っているのかこの男は。


「その証拠に大半の連中はあなたがここへ来ると知るや否や我先にと逃げ出しましたよ」


 ふむ。確かに強者の威を借るならず者風情が命を掛けてまで戦う理由はないか。

 何故誰とも遭遇しないのか疑問ではあったがタネが知れればこんなものか。

 だがそんな事ではルードは止まるまい。


「それはそうとバクストンさん達があなたを待ち構えていた筈なのですが?」

「さぁな。何の事か分からんな」


 白々と会話を重ねるルードとディミトリアス。


「仕方がないですね。あの人達はキングと友としての絆はあっても、配下としての忠誠心は持ってないでしょうから」


 そんな事を言うディミトリアス。

 ほんの一瞬だけ寂しそうにディミトリアスのその瞳が揺れる。

 ふむ。ディミトリアスはバクストン達がキングを殺そうとしているという事に、気が付いているのかも知れない。


「それはそうと血塗れの狂獣(ブラッディビースト)

 以前からキングはあなたと会いたがっていましてね」


 ふむ。キングがルードに会いたがっているだと。

 ルードは大陸中にその名を轟かしている凄腕のハンターだ。

 そのルードに会ってみたいという話自体は結構ありふれた物ではある。

 だが、己の作ったクランと敵対している男と会いたいというのは意味が分からない。

 今更勧誘という事もあるまい。

 殺したいというのならば理解出来なくもないのだが。


「へぇ…… それは初耳だな」


 ルードもディミトリアスの様子を慎重に伺っている。

 ルードとて百戦錬磨のハンターだ。

 あまり賢いとは言えない男ではあるがその分、動物的な野生の勘とでもいうべきものは異常に優れている。それがルードに警鐘を鳴らしているのだろう。


「ですが私達としてはそれは都合が悪いのですよ。

 だからこの場で死んで下さい!」

 

 そう叫ぶなりその手に隠し持った暗器を放つディミトリアス。

 ルードも私も油断は一切していない。

 その程度の奇襲は私達には奇襲になり得ない。

 だが暗器が狙ったのはルードでも私でもなく―――――


「兄さん、な、んで?」


 シャロンだった。

 自らの肩に突き刺さった針状の暗器を茫然と見つめるシャロン。

 シャロンは信じられないといった表情を浮かべていた。

 そして急に力が抜けたように崩れ落ちる。


「少し眠っていなさい。目が覚めた時には全てが終わっていますから」

 

 どうやら暗器には睡眠薬が塗られていたようだ。

 ディミトリアスはこの場にてこれから始まるであろう凄惨な殺し合いにシャロンを参加させない為に真っ先にリタイヤさせたようだ。

 バクストンと言いディミトリアスと言い余程シャロンの事が可愛いらしい。

 同時にディミトリアスと共に居た若者達も武器を構え戦闘態勢に入る。

 ふむ。ならば私はシャロンの傍でこの戦いの趨勢を見守る事にしよう。

 シャロンとディミトリアスが繋がっていないという確信もない以上、警戒するに越した事はあるまい。

 

「行きますよ。血塗れの狂獣(ブラッディビースト)!」

 

 ディミトリアスの声と共に他の六人も動き出す。

 ディミトリアスはショートソードの二刀流。

 他の者はと言えば、大盾を構える者が一名、剣を構える者が二名、槍を構える者が一名、そして弓を構える者が二名だ。

 ふむ。中々バランスの良い構成だと言えるな。

 大盾を構えた若者がルードの斬撃を受ける。

 だが。


「ぎぁ!」


 その若者は盾ごと両断され短い断末魔を上げて崩れ落ちる。

 その瞳は驚愕に見開いたままであった。


 私が言ったのはあくまでもバランスが良いというだけだ。

 それがルードに通じるかどうかはまた別の話だ。

 しかしディミトリアス以外の者の実力が妙に低いのが気に掛かる。

 彼等もハンターとして見れば中堅どころといった実力はある。

 彼等の年齢を鑑みればむしろ優秀な部類言えよう。

 しかしシャロンと同等といった程度で覚醒者ではなさそうだ。

 この状況に至ってルードと相見えるには実力が足りなさ過ぎる。


 大盾の若者を一刀の元に斬り捨てたルード。

 その勢いのままに剣を構える若者達をも一気に斬り捨てるべく距離を詰める。


「させませんよ!」


 そこに割って入るディミトリアス。

 一方の剣でルードの剣を受け止めると、もう一方の剣をルードの喉元目掛けて突きだす。

 ルードはディミトリアスの突きを僅かに上体を捻る事で避け、受け止められた剣を力任せに振りきる。

 ディミトリアスは強引に吹き飛ばされ大きく後退する。

 ディミトリアスとルードとの距離が離れたと見るや二名の弓使い達が狙い澄ました矢を放つ。

 ルードは片方の矢を右手の剣で弾き飛ばし、もう片方の矢は左手で掴み取ると射手に向かって投げ返す。


「あ!?」

「がああああああ!?」


 弾き飛ばした方の矢は槍使いの左目を深々と抉った。

 その傷は脳にまで達し、投げ返された方の矢は的確に弓使いの喉を貫いた。

 目を抉られた槍使いは、信じられないといった表情を浮かべたまま崩れ落ち、喉を貫かれた弓使いは絶叫と共に崩れ落ちた。

 ほんの数秒の間にディミトリアスとその仲間七名の内三名が死んだ事になる。 


「何とも無茶苦茶な戦い方をする人ですね」


 ディミトリアスは軽く息を弾ませながら言う。

 その声色には仲間の死に対する動揺が僅かに現れている。


「今更怖気づいたのか」


 ルードは言い放つ。

 そこにディミトリアスに対する侮蔑はない。

 ルードは知っているのだ。

 いや、ルードも知っていると言うべきだろう。

 死に対する恐怖というものを。

 知っているからこそ、それに怯える者を見下すという事はしない。

 だからと言って敵対する者を見逃したりする様な男でもないのだが。

 まぁ、死と常に隣合わせの危険な時代だ。

 こんな時代で死と多少なりとも距離を置ける存在は上級魔人の中でも更に上位に君臨する者達か、私達神獣くらいのものだが。


「ええ。怖いですよ。

 ですが目的も果たせずに死んで行くのはもっと怖いのです。

 だからこの程度の恐怖に竦んでいる訳にはいきません!」


 そう叫ぶとルードに肉薄するディミトリアス。

 今この場においてルードとの戦闘が成り立つのはディミトリアスだけだ。

 他の二名の剣士と弓使いはディミトリアスの足を引っ張るだけの存在でしかない。

 ルードを倒すべく双剣を振るうディミトリアス。

 別々の生き物のように縦横無尽に振るわれるその二本の剣にルードも真剣に対峙せざるを得ない。

 ルードのアダマンタイト鋼の剣から繰り出される重い斬撃をディミトリアスは時には二本の剣を重ねて受け、時には上手く受け流し戦っている。

 この若さでルードとこれ程渡り合える者が居るとは思わなかった。

 今はまだ無名のハンターであるが数年後にはディミトリアスという名が大陸中に轟いても不思議ではない。この場を死なずに切り抜けられればの話ではあるが。

 しかしそのディミトリアスでさえも、今はまだバクストンに比べれば実力は劣るように見える。

 徐々にルードに押され始める。

 私の見立てによれば二本の剣による高速の連撃がディミトリアスの持ち味の筈だ。

 その分一撃の威力は軽いのだろう。

 それに対してルードは剣一本でディミトリアスの双剣から繰り出される連撃に対応出来ているのだ。

 となれば一撃が重いルードに天秤が傾くのは自明の理だ。

 遂に均衡が崩れ、ルードはディミトリアスに決定的な隙を作る事に成功する。

 ルードの剣がディミトリアスの剣を一本弾き飛ばしたのだ。

 もはや勝敗は決したと思われたその時。

 成り行きを見守るしかなかったと思われた剣士二人がルードとディミトリアスとの間に飛び込んだ。

 一人はディミトリアスを庇うようにルードの剣に斬られ、もう一人はなりふり構わずルードに組みつこうと飛びかかる。

 だがルードは冷静に対応し飛びかかってきた剣士にも剣を突き出しその腹部を貫いた。

 しかし剣士は腹部を貫かれても尚、止まる事なくルードに掴みかかる。


「!?」

 

 間違いなく致命傷を与えた筈の剣士の思わぬ行動に目を見開くルード。

 そんな様子を呆けた顔で見つめてしまうディミトリアス。

 腹部を貫かれた剣士が叫ぶ。


「俺ごと殺れええええ!」


 その叫びと同時にルードに矢が降り注ぐ。

 味方に当たろうがお構いなしだった。

 別に弓使いが仲間を仲間だとも思わない非情な人間と言う訳ではない。

 その表情は複雑過ぎる感情が渦巻いていた。

 ルードはその全ての矢を剣士を盾にして凌ぐ。

 一呼吸遅れてディミトリアスも肉薄するがルードの方が僅かに早い。

 矢の射ち終わりと同時に既に物言わぬ身となり果てた剣士をディミトリアスに向かって放り投げる。

 悔しげに顔を歪めながらも迫り来る剣士を回避するディミトリアス。


「正直見くびっていた。お前達の覚悟を」


 ルードが生き残ったディミトリアスと弓使いに向かって言った。

 確かにルードの言う通りだ。

 ディミトリアスと共に居た者達は足を引っ張るだけの存在ではなかった。

 紛れもなくディミトリアスと志を共に命を掛けて戦う仲間だったのだ。

 だからこそ多くの者達の様に逃げ出さずにこの場に残っていたのだろう。


「私の仲間達ですからね」


 そう言って寂しげに笑うディミトリアス。

 その表情からは先程までの様な偽物臭い笑顔は完全に消え去っていた。

 

「お前を殺す気は失せた。それにシャロンの事もある。退け」


 暗に見逃すとディミトリアス達に言うルード。

 ルードなりに彼等の命に敬意を払ったのだろう。


「退けません。キングがあなたの存在を知る前でしたら退く事も出来たでしょうが。

 それにここで退いてしまったらそれこそ仲間達は犬死になってしまいます。

 私の我儘で死なせておいて目的も果たせずに自分だけ生き残る気はありません」


 ディミトリアスが答える。

 既に彼の手元に愛剣は一本しかない。

 彼等がルードに勝利出来る可能性は限りなく低い。

 それでもディミトリアスは戦う事を選んだのだ。

 ルードには仲間を殺された恨みもあるだろう。

 だがディミトリアスが戦う事を選んだ理由は恨みではなく当初からの目的の為か。

 それ程までルードとキングを合わせたくない理由とは何なのだろう。


「そうか」


 恐らくルードはディミトリアスが提案を拒否する事は分かっていたのだろう。

 言葉短に言うルード。

 そして再び剣をディミトリアスに向ける。


「私の事は気にせずに射って下さい。

 もし私に当ったとしても動揺などせずに構わずに討続けて下さいね」


 ディミトリアスは弓使いにそう言うと滑るようにルードへと向かい走り出した。


「良い覚悟だ」


 ルードもまたディミトリアスに向かい疾走する。

 そんなルードの元へと矢が放たれる。

 それを僅かな動きで避けるルード。

 そしてそのまま再びディミトリアスと斬り結ぶ。

 ディミトリアスは堅実に、いや、むしろ守りに重きを置いて剣を振るう。

 ルードがミスをするまで待つつもりなのか。

 それとも味方の弓を気にして慎重になっているのか。

 どちらにしてもルードを相手にそれは愚策というものだ。

 せっかくの弓も射線上にディミトリアスがいる所為で迂闊には放てないようだ。

 ディミトリアスは気にせずに放てと言ってはいた。

 だが早々割り切って行動出来るものでもない。

 先程は既に剣士が致命傷を負っていたからこそ、その意を汲んで矢を放つ事が出来たのだろう。


 不意にディミトリアスが僅かに頭を捩じりながら剣を振るう。

 するとディミトリアスの首筋を掠める様に矢が現れた。

 ディミトリアスの体を影に使ったブラインドショットと自らの剣との連携攻撃といったところか。

 それを繰り出した連携は見事だ。

 だがルードならばこの程度の連携など余裕を持って対応出来る筈だ。

 しかしディミトリアスの真の狙いは別にあった。


 ディミトリアスの剣がそっと撫でる様に矢に触れ軌道そのものをずらす。


 矢の勢いを殺す事無く矢の軌道がルードの心臓の辺りへと変更される。

 そして矢の軌道をずらした剣もそのままルードの首筋を目掛けて突き進む。


 背後から迫る矢を紙一重で回避しつつも己の振るう剣にてその軌道を修正してのける。

 凄まじい技術だ。


 流石のルードもこの事態は予想の範疇から外れていたようだ。

 矢を避けきれずに咄嗟に左腕で弾くルード。

 初めて僅かに隙を見せたルードに対してディミトリアスの追撃がルードを襲う。

 しかしルードは左腕で矢を弾くと同時に右手に握っていた剣を振るっていたのだ。

 その斬撃は迫っていたディミトリアスの剣ごとディミトリアスを吹き飛ばした。

 そして膝から崩れ落ちるディミトリアス。 


「…… これでも駄目ですか。一か八かの賭けだったのですが」


 悔しげに言うディミトリアス。

 その胸元はルードの一撃にて抉られていた。


「矢に毒でも塗ってあれば形勢は逆転したかも知れんがな」


 ルードは淡々と言い放つ。

 矢を弾いたルードの左腕からは血が滴っていた。

 流石のルードも咄嗟の事過ぎて矢尻を完全に避けて弾く事は出来なかったようだ。

 確かに矢で傷を負っている以上、毒が塗られていたのならば勝負は決まっていたかも知れない。

 だが、たら、れば、と可能性を考えていても意味はない。

 そしてディミトリアスの受けた傷はルードが受けた傷よりも遥かに深い。

 剣が一本しかない上に深手まで負っているとなれば今までの様にルードと渡り合う事は困難だろう。

 そして弓使い単体ではルードの敵足り得ない。

 最早、大勢は決まったと言えるかも知れない。

 後はどういう結末を迎えるかといったところか。

 

「まだです!」


 しかしディミトリアスは諦めていないらしい。

 少しふら付きながらも立ち上がる。

 もう充分ではないか。

 ルードも命までは奪う気は失せたと言っている。

 今もその心に変化はないだろう。

 ここで負けを認めれば生き残れるというのに。

 一体何が彼等をここまで突き動かすというのだ。

 キングへの忠誠だろうか。

 それともただの意地というものなのだろうか。


「分からんな。キングという男はそれ程の男なのか」


 ルードが呟く。


「ええ。それ程の男なのですよ。少なくとも私達にとってはね」


 ふら付きながら答えるディミトリアス。

 既に剣は一本しかなく深手も負っている。

 それにも関わらず勝負から降りる気は全くなさそうだ。

 

 再びルードへと疾走するディミトリアス。

 その動きに当初の様な精彩は無く見る影もない。


 その時だ。


『!!?』


 何の前触れもなく突如天井が崩落した。

 私やシャロン、そして弓使いの居る場所はそれ程でもないが、直下にて激闘を繰り広げていたルードとディミトリアスは巻き込まれる事必至だ。

 やはりルード、ディミトリアスを崩落する天井がのみ込んでいく。


 普段のルードならばあの程度の事は造作もなく回避するだろう。

 だが今のルードはバクストンとの激闘を越え、更にディミトリアスとの死闘を繰り広げていた最中だったのだ。

 如何にルードの方が優勢だったとは言え、ディミトリアスは手を抜いて凌げる程易しい相手ではない。

 

 私の中にもルードの身を案じほんの少しの焦燥が生まれる。

 

 数十秒秒程たっただろうか。

 もうもうと立ち上るの砂埃の中に人影が見えた。

 だがおかしい。

 人影は三人分見えるのだ。


 一人はルード。


 もう一人はディミトリアス。


 そして最後の一人。

 輝かんばかりの全身鎧に身を包んだ見るからに屈強な戦士が、そこに出現したのだった。    

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