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第2話

‡第二話‡



時は遡ること九年――。



当時シャマイには、赤派・青派の他に、もう一つの派閥があった。……その名も、黒派。



黒派とは、『ニアン』と名乗るリーダーに率いられた超過激派で、

「シャマイこそが世界の王者」をスローガンに掲げる殺し屋集団だ。その名の通り、漆黒の服を纏っている。



ニアンの指導の下、黒派メンバーは、最強と謳われるシャマイの中でも飛び抜けて最恐かつ残虐無比・冷酷非情な暗殺者として、まだ物心つかないような幼い頃から教育される。そして、赤派や青派の主要メンバー、はてはまったく関係のない人間までをその手にかけるのだ。



少年――イーナも、そんな黒派の一員だった。



まだ10才と言う年齢にも関わらず、イーナの実力は黒派でも群を抜いていて、ニアンからの信頼も篤かった。




『イーナ…これは、そなたにしか任せられぬ任務でごじゃる。』



そんなイーナがニアンから重大な任務を仰せつかったのは、一昨日の事であった。



『あのクソ腹黒い宰相……マヤン・ミラキを、暗殺してたもれ。』



いつもいつも、族長(当時はオギーと言う名の青年が務めていた)を暗殺しようとする黒派の動向を嗅ぎつけては悉く阻止する腹黒女に、これまでに何人もの暗殺者が挑んだが、その誰もが帰ってくることはなかった。



『だがイーナ…そなたなら、あの女を殺すことができるでおじゃる…黒派最凶のそなたならば………』



この任務に、イーナは胸を踊らせた。



殺しは、幼くして戦火で両親を失い、まだ小さい弟を連れて路頭に迷っていたイーナにとっての生きる術であり、また娯楽でもあった。



幼い身に取って、両親を殺されたことはよほどの衝撃であったらしく、兄弟揃ってニアンに保護されたときには、二人とも両親の記憶はほとんど失っていた。



そんなイーナに、生きる力を与えてくれたニアン……この世界で唯一信頼できる他人である彼の恩に報いるためにも、今回の任務は必ず成功させなければならなかった。



(なのに……なのに……)



単身、マヤンの屋敷に乗り込んだイーナを待っていたのは、マヤンの、あまりにも強力な呪術だった。



閃光が散った、と思った瞬間、イーナの細い体はあっけなく激しい爆風に吹き飛ばされていた。



(ヴィータ……)



薄れ行く意識の中でイーナは、殺しを覚えさせる事をしなかった弟の名を呼んだ――







先程は小さく見えた影は、今やワコジーの浮かんでいる場所に向けてどんどん落下を開始していた。



「何じゃぁありゃあっ?!」



長い睫毛で防御されている鋭い目を懸命に懲らす――どうやら生きもののようだ。



「鳥か? いや、天使か?!」



だんだん近づくその影は……



「うっそ! まじ? !あれにんげん?!」



間違いない。二本足に二本の腕、どこからどう見ても、あれはにんげんだ。



(やっべ! にんげんって空も飛べんだ!!)



誤った知識を、腰にぶら下げた貝殻メモに書き留めると、ワコジーは落下してくるにんげんに向かって泳ぎだす。




――数秒後、にんげんは勢い良く海に落下した。




「ぇっと…にんげんは水の中では呼吸できねぇ……?! やべぇじゃん!」



貝殻メモを読み上げたワコジーは、焦ってそのにんげんに近付き沈んでいくその体をひっぱりあげると、一路陸を目指して泳ぎだした――







「ワコジィぃぃぃっ!!」



そのころ、海底の都・アランテスでは、皇帝ワヒロシーが、息子に勉強のことで説教をしようとその名を叫んでいた。



「あんのヤロー、こんな夜更けにどこ行きやがった?!」



怒りに目を充血させる皇帝に、人蟹(人間の体に蟹の甲羅と鋏を持つ種族だ)の女が慌てて泳ぎよる。



「落ち着け陛下ぁぁっ!! まじ頼むって! アタイが探してくるから!! あんたがキレたらこの宮殿吹っ飛ぶから!!」



「あん?! ……ああ、お前かユリシー……」



長いストレートヘアを振り乱した息子の教育係の様子を見て、ワヒロシーは少し気持ちを落ち着けた。



「じゃあ、ちょいと探してこい。ったくあいつはまっったく言うことを聞かねえ……今日こそは俺がビシッと勉強について語ってやろうと思ってたのによぉ!」



「わかったよ、今探してくっから、ちょっと待っててくれよ!!」



これ以上皇帝にキレられることを恐れたユリシーは、ひればやに宮殿を後にした。



「あいつの事だ、どーせまた海の上に行ってんだろ……」



こっそり出かけているつもりなのに、その行動はバレバレなワコジーであった。




[続く]

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