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第12話

‡第十二話‡



外に出ると、視力7.0のイーナが薄暗くなった辺りを見回す。


「……いた!」


「え、どこ?」


もちろん普通の視力のワコジーには見えるはずもない。


「あいつら……川にむかってる! 船で逃げる気だ!!」


シャマイ村の側を流れるミラン川は、ニルフォン海に注ぎ込む大河だ。


「どこに行く気なんだい?」


「わからない……イケモンド・シティで武器でも調達するのか?」


イケモンド・シティに行くなら、陸路より水路を使って行ったほうが速い。


「それに、ニアン……は、高速船を持ってるんだ……よし、下流に先回りする」


「そう言うことなら、アタイは皇帝陛下に助太刀を頼んでくるよっ! 水辺の戦いなら、アタイらの出番だからね!」


「そうか……じゃぁ、頼む」


そう言うと、イーナは早速ワコジーに手を差し伸べた。



「ごめん。だけど、もう一度だけ、走るから……つかまって」


「う……」


一方のワコジーはと言えば、先程の行為の気恥ずかしさもあり、かなりためらっている。


「何やってるんだ、軍の連中が来る前に、速く!!」


いらだったような声で言うと、イーナはワコジーの手を握り、薄闇の中を疾走しはじめた――






「げひひ……さすがのイーナも、あの傷では追ってこれぬじゃろ」


まさか男に長々とキスされ全回復しているなどとは思いもよらないニアンは、高速船の上で勝利の笑みをこぼした。


甲板の上には、恐怖のあまり気を失ったヴィータが縛られ、転がされている。



「ニアン様、これからの御予定は?」


「うむー。まずはイケモンド・シティで武器を調達し、態勢を建て直してから再び族長を襲うでごじゃるー。そしてまろたちが権力を握った暁には、ヴィータを族長にたて、まろが裏で……げひひひ」



「さすがニアン様……!」


ニアンが将来について思いを馳せているうちに、高速船はどんどん下流に近づいていた。


「ヴィータよ……まろのために、たんと働いてたもれ……」



「そんな事させるか!!!!」



「?! な、汝はたそ?!」



いきなり響いた声に、ニアンが闇に目を凝らす……


「ニアン様! 橋の上に‥…!!」


「なっ……イーナ!」


いましも高速船がくぐろうとしていた橋の上に、二つの人影がたっている。


「あんただけは……あんただけは許さないっ!!!!」


憎悪に瞳を燃やし、戦乙女のごとき美貌を輝かせたイーナと、複雑な面持ちのワコジーが、高速船に飛び移る!


「ワコジー!! お前はヴィータを……!」


「あ、ああ!」


怒濤の勢いで次々とニアンの部下たちを血祭りにあげてゆくイーナを横目に、ワコジーは気を失っているヴィータに駆け寄った。


「おい、ヴィータ! しっかりしろ!!」



そうしているうちに、死闘の繰り広げられている高速船は、目的地であったイケモンド・シティの港を通り過ぎ、ニルフォン海に突入した。




「ニアアァァァンッ!!!!」


もはや総崩れとなった部下たちを苛立った目で眺めていたニアンに、イーナが踊りかかる。


「くっ……なぜあの傷で動けるのじゃー!」


イーナの太刀筋をすんでのところで躱しながら、憎々しげにはきすてるニアン。


「ふんっ、聞いて驚け! ワコジーの『きす』というもので、俺の傷は治ったんだ! お前のような下衆には使えない技だろうけどな!!」


「言うなぁあああ!!」


「き、キスじゃとぉおおっ?!」



あまりの驚愕に、一瞬ニアンの動きが止まる!


「もらったぁああ!!!!」



そして、その一瞬の隙をついて、イーナは短槍で渾身の一撃をニアンの胸元にたたき込んだ――




「……ぐっ……ごはっ……」


ニアンの体が傾き、船から落ちる……だが。



「なっ?!」


瀕死のニアンの手が、がっちりとイーナの細い足をとらえている!


「げひひ……そなたも……道連れでごじゃるぅ‥…!!」


「イーナァァァアアッ!!!!」


頭の重さに引きずられるように海に落ちていくニアンに、イーナも為す術なく続く――




「い、イーナァァァアア!!!!」


慌てて船縁にかけより、海を覗き込む。


ニアンの落ちたあたりは、紅い花が散ったように染まっている。だが、イーナの姿が見えない。


「くそっ……!!」


人魚の姿であったなら、助けられたかもしれないのに……あらゆる意味で後悔していたワコジーの耳に、聞き覚えのある声が届いたのはその時だった。



「ワコジィィイッ!!!!」


海から飛沫をあげて立ち上がったその男は――


「お、お父様?!」


人魚皇帝ワヒロシーが、その腕にイーナを抱えて、そこにいた。


「まったくよお、ユリシーから話を聞いたときには焦ったぜ!!」


肩の上のユリシーをちらりと見ながら、ワヒロシーがでかい声を出す。


「……悪かった、お父様……」


「しかも、この子とお前がそんな関係にあったなんてな……ほらよ!」



「違う!! 激しく違う!! 何考えてんだあんたぁっ!!!!」


何を勘違いしたのか……ワヒロシーは腕の中できょとんとするイーナをワコジーの隣に立たせた。


「この人……ワコジーのお父さんか?」


「ああ、そうだよ……それより、ヴィータを!」


「ヴィータ!!」


ワコジーの声にはっとすると、イーナは未だ倒れたままのヴィータに駆け寄る――



「?!」


突然、ヴィータの体が光に包まれた……そして……



「て……てめぇ、ジン?!」



光がおさまると、そこには眼鏡をかけ、赤チェックの服に身を包んだ一人の男が立っていた――




[続く]

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