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第10話

‡第十話‡



――次の日の夕刻


ワコジーは今、非常に大変な状態にあった。


「なぁ……そろそろいいだろ……?」


「だめだ……まだ、もう少し近づいてから……そもそもお前のためを思って言ってるんだぞ」


「うぅっ……そりゃそうだけど……これはないだろ‥…」



どういう状態かというと、まず、右手をイーナと繋いでいる。そしてイーナは全速力で、夕焼けの中村外れの森を疾走している。


一人じゃ速く走れないワコジー。これは仕方がないことだ。これだけなら。



ひっぱるほうのスピードに、ひっぱられる方が追い付けないと、何が起こるか。



ワコジーは現在、風になびく旗よろしく宙に浮いて、なびいていた。




「お前、力あるなぁ……」


自分より小柄でかなり細身なイーナからは想像もできない荒技だ。さすが暗殺者、とでも言うべきなのか。


「しっ……静かに。着いた」


「うわっ!」


族長の屋敷の裏手の藪に到着し、いきなりイーナが止まったものだから、思いっきり地面にぶつかったワコジー。


しかしそれを完全に無視して、イーナは耳をすませた。遠くのほうで戦いの声が聞こえる。


「何してるんだ、ワコジー。行くぞ」


「てめっ……」



今回の作戦は、ニアンたち精鋭が表に敵を引き付けている間に、裏からイーナが侵入、ヴィータを奪還したのち合流して族長オギーを殺す、と言うものだった。



と言うことで、早速屋敷にのりこむ二人。


族長の屋敷はだだっ広い二階建。ヴィータを見つけるのには少し苦労しそうだ。



「でっけえ建物だな……」


「ああ……!」


すると、近くの廊下から足音が近づいてきた。


「ん? 貴様ら何者……」




だが、衛兵が言葉を言い終えることは永遠にかなわなかった。


「!!」


一瞬のうちに衛兵に接近したイーナの短槍が、叫ぶ暇も与えずに衛兵の喉ぶえを掻き切っていたからだ。


返り血一つ浴びず、冷徹な表情で衛兵を見下ろすイーナの姿は、あまりにも凄惨で、それゆえに美しすぎた。



「何も殺すことは……」


「殺さなきゃ、殺されるのはこっちだ。それに、コレをみろ」



屈みこんで、衛兵の赤チェックの服から青い糸くずのような何かをつまみあげる。



「それ、なんだ?」


「髪だ。青い髪なんて、俺の知るかぎりでは一人しかいない」


「……! それ、ユリシーの!!」


呪文に失敗して青くなったユリシーの髪の毛のことを、今さらになって思い出した。


「つまり、こいつが来たほうにユリシーとヴィータがいる。これが鍵だな」


「すげぇ……やったな!」



遺体の腰から鍵のついた鎖をぬきとると、イーナとワコジーは衛兵の出てきた廊下を歩みだした。






「ヴィータ、腹減ってないか?」


「うん、大丈夫。ゆりしーさんは?」


「アタイだって大丈夫さ」



あの日、ヴィータとその肩に乗っていたユリシーは、カメと名乗る地味な男によってこの屋敷につれてこられ、その一室に監禁された。


最初は目的も何もいっさい告げず、ただ見張りだけを置いて立ち去った族長オギー。だが、今日の朝は……




その時、部屋の向こうで何やら音が聞こえた。



「……来ましたね」


床に座るヴィータの横に立つモラン・ゾッカミがつぶやく。


「え……まさか」



強烈な音が、響き渡った。



「ヴィータ!!!!」


「ユリシー!!!!」



扉を蹴り破って、イーナとワコジーが駆け込んできた。




「無事だったか?!」



寄ってくる雑魚衛兵を短槍の柄で昏倒させながら、イーナは弟のもとへ近づく――


「ぎゃああっ!!」


ワコジーがいきなり転倒した。


「っ、ワコジー!!」


衛兵がワコジー目がけて槍をかかげる……



(間に合わないっ……!!)


一人一人は雑魚でも、どこから湧いてきたのか、数が多すぎる。


「ワコジイィィッ!!!」


兵をかきわけワコジーに駆け寄ろうとするが、ことごとく邪魔され……



「イーナ!! 合流するでごじゃるよ!!!」


「おっさん!!!!」


今しもワコジーを殺そうとしていた衛兵の体を真っ二つに切り裂き、ニアンと精鋭達があらわれた。


「ニアン様!!!」



援軍の合流により、雑魚衛兵たちは瞬く間に倒されていく。



「あれがニアン……」


今まで静かに戦況を見守っていたゾッカミは、そうつぶやくと唐突に呪文をとなえだした。


「……深遠の園より来たれ魔導の光……」



ゾッカミが手にもつ槍が、赤く光りだした。その槍をかかげると、奮戦するニアンに狙点を定め、



「うほぁぁああいっ!!!!」


「?! ニアン様ぁぁっ!!」


「だめだ、イーナアアアアッ!!!!」



「兄ちゃん!!!!!!」



ニアンを突き飛ばし前に飛び出したイーナの脇腹を、赤き槍が深く抉った。







「ぐっ……」


「い、イーナアアアッ!!」


あわててワコジーがかけよる。


「ちっ……」


今の呪文で力を使い果たしたのか、ゾッカミも膝をつく。



「イーナ……」


「に……ニアン様……ご無事ですか……?」


「しゃべるな! 血が……」


イーナの顎を鮮血がしたたりおちる。


それを見つめて、ニアンは――笑った。



「うむ、よい盾でおじゃったー」




「……え……?」




[続く]

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