肝心なことはいつも最後
指で回す電話機が無くなったのは俺が生まれる前と聞く。それでも俺は電話をかけられただろう。あいつの声を聞くのは久し振りだから。
「もしもし」
「もしもし?」
「俺だけど」
「オレオレ詐欺かよ」
「わかるだろ?」
「ああ、悔しいことに一発でわかった」
「さすが幼なじみ」
「今何処からかけてんだ? 名前が出なかったし、えらく遠くに聞こえる」
「瑞穂は元気か?」
「あ? ああ、元気だよ。来月一歳になる」
「そうか……早いもんだな」
「お前も早く所帯を持てよ。落ち着くぞ」
「いや、俺はもう無理だ……」
「何言ってんだ。彼女もいないのか?」
「いるよ。ああ、いた、よ」
「なんだ、別れたのか」
「別れたって言うか……」
「何なんだ、はっきりしねえな」
「置いていくことになるんだ」
「は? お前転勤でもするのか?」
「そうじゃない……違うんだ」
ここで涙声になっている自分に気が付いた。驚く。もう受け入れられたと思っていたのに。
「どうしたんだよ、お前」
親友の気遣わしげな声が聞こえる。
「ああ……大丈夫だ」
「大丈夫じゃないだろ」
「なあ、今から俺が言うことを信じてくれるか」
「……何だよ」
一呼吸置いてから伝えようとする。もう時間がないのは悟っていた。
「俺、今さっき死んだんだ」
意識が途絶えそうになる。電話回線に繋げた精神が薄くなっていくのを感じた。
「お前……」
親友の声が遠くなっていく。さようならも言えなかった。俺は、いつもーー。
「お前は、肝心なことはいつも最後に言う癖変わってねえな」
ああ、そうだよ。
それを知っているのは、お前だけだった。
意識が消え行く。
さようなら、我が愛しき親友よ。
2015.3.5