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騙されているのかな

 突然異世界に迷い込んで早一か月がたちました。抵抗むなしく首輪を付けられて早一か月とも言える。あれから、宣言道理日夜問わずこの世界の文字の書き方、話し方をしっかり勉強する羽目になりました。

 カリカリカリ。あと、最後の一問。

 いやまぁ、ありがたいんだけどね。あれは、鬼だった。うん、アリアは、鬼教官だ。普通のお姉さまなんて初めの評価はわずか数時間で、どこかへ飛んでいった。ちなみに使用人なので呼び捨てで結構ですと冷たく言われたため明らかに年上の方なのに呼び捨てしている。

 あれほど嫌だった語学の勉強も人間必要に迫られれば―――恐怖にあおられればともいう―――死ぬ気で身に着けられるということを学習した今日この頃。ようするに、やる気と根気が重要ってことだ。


「ユエ、おいで。お茶に使用にしよう」

「はい、エド様。」


 ちょうどいいタイミングで、お茶のお誘いがかかった。教育係アリアから、基本的にエド様に逆らうなときつーく言い含められている。ただし、セクハラ的なものに対して、存分に抵抗しなさいとのお達しだ。急所を狙うとなおいいとのこと。うん、容赦ないね。

 視界の端に、自ら給仕しようとするエド様が映り、慌ててティーポットをかっさらう。


「あ、やる。わたし、茶。ふ、復習」


 エドにお茶を入れさせたら吞めたものじゃないものが出来上がる。口の中に、記憶の中のにがぁい味が広がる。この世界のお茶が無効よりおいしいのかそれとも、茶葉自体が比較にならないほど高いのかはわからないけど、すごくおいしい。というか、この世界の食べ物は、比較的美味しい。でも、たまに白飯が恋しくなる。あぁ、今ならおかずがなくても三倍はいける気がする。乙女としてそれはまずいだろうという突込みはこの際置いといて。


「おや、アリアにお茶の淹れ方を習ったのかい。どれどれ、採点をしてあげよう」


 えぇ、アリアに頼み込みましたとも。


「お願いする、します。仕事、平気? 顔、疲れ有り」


 エドは目を見開きそれからふわっと笑う。初対面の時はただの不審者にしか見えなかったけど、この何十日かでその考えは変わった。この家と隣にある商会に引っ付き虫のようについてまわってみると、使用人も同業者も一目置くような目でエドを見ていることに気が付いた。その理由はエドが、たった数年でここまで大きな商会をほとんど一人の手で作り上げたというその手腕。そしてその人柄だった。


「ユエに、指摘されるってことは相当悪い顔色をしているのかな。あとで、ちゃんと寝るから安心して。ちょっとね、大きなお金を動ごかして、船を出すから、忙しくってね。かまってあげられずに済まないね」

「無理、だめ。身体、すごく大事」


 私専用のいすに座り、お茶とお茶菓子に手を付ける。うん、甘くておいしい。


「そうだぜ、エド。おまえ、そんな顔で取引先と合うつもりじゃねぇよな。一時間でもいいから仮眠取ってこい。茶飲んでる暇あるなら、寝ろ。船はもう積み荷を載せて出こうした。しばらくは、休め」

「賛同」


 いつの間にこの人は来ていたのだろう。椅子を引きどかっと我が物顔で座る。こいつと同じ意見なのは不服だけど、エドに体を壊されては困る。カルのことは正直大っ嫌いだ。


「で、ちびっこ。俺の分は?」

「ない」


 いぃーだ。誰が、お前なんかに入れてやるもんか。何なのよ、この態度! ほんとむかつく。


「おいおい、せっかくお土産買ってきてやったのにいいのかよ。ちびっこ、前と身長全然変わんねぇな。ちゃんと食っているか」


 むぅ。身長はもう伸びないんです。横には延びるけど、縦には伸びない……世界が代わっても相変わらず不条理だ。女子で155センチは普通か、普通よりちょいちびちゃいくらいで、決してちびっ子ではない。


「カル、もったいぶらずにみせてあげなよ。大人げないよ。どうせ、それこの間のお詫びなんだろ?」

「うるせぇ、お前はとっとと寝ろ。だいたい、お前の了承したじゃねぇか。俺だけを悪者にすんじゃねぇ」

「はいはい。そうそう、カル。家のかわいい子においたしたらどうなるかわかってるよね。ユエ、お茶御馳走様。80点かな、まだまだアリアには程遠い。頑張って、美味しいお茶を入れてくれるかい」


 去り際に物騒なこととお茶の評価を言って、ふらふらと若干下足取りでエドは部屋に帰っていった。本当に大丈夫かな、あの人。結構隈とかあったし。何日寝ていないんだろう。


「贈り物」

「あぁ、もらうのな。はいよ」


 あわい桃色の包装紙と赤いリボンでかわいらしくラッピングされた大きめの箱は、目の前の強面と似合わない。そのギャップに、思わず吹き出しそうになった。慌てて、腹筋に力を入れる。

 それに、送り主がこの男じゃあ、中身が外見と同じく可愛らしいものとは限らない。びっくり箱かもしれない。覚悟を決めて、リボンを解く。

 中にあったのは、小学生のお道具箱セットだった……やっぱ、私ここの世界の人たちに子ども扱いされている? 決して、鈍いわけではない。ただ、信じたくなかったんだ。これ見て、ちょっと確信に変わった。だって、こういうセットエドの店にもあるけど、大概子供に贈ってたし。


「カル」

「んって、呼び捨てかよ。俺はお前より年上だ! もう少し敬うなりなんなりしろ」

「いくつ?」

「俺? 俺は、今年で二十二。ついでに言うなら、エドは、童顔だから若く見られがちだが二十九だぞ」


 聞き間違いかな。聞き間違いだよね。目の前のかにもおっさ……げふんげふん。カルより、エドが年上! しかも、カルと私ほとんど年齢一緒じゃない!うわぁ、ドン引きだわ。異世界の神秘だわ。こっちの人間のDNAどうなってるの! 


「事実?」

「ああ。嘘ついたって意味ねぇしな。アリアの年齢は知らん。昔聴いたら、容赦なく殴られた」


 真っ直ぐと目を見て確認するとカルはそらさず、泳がせずあっけからんと答える。つまり、これは本当のこと?


「嘘、嘘だぁ!」


 日本語の叫びが、王都ユウリの一角で上がった。

よんでくれてありがとうございます。

楽しんでもらえたら うれしいです


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