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首輪付けられました

よんでくれて かんしゃです。ブックマーク登録うれしいです


 願いが届いたのか、部屋にすぐにお姉さまは戻ってきたくれました。なぜか、その腕に血の様に赤い不吉な石が大きくはめこまれた首輪を抱えています。頭の中に疑問符が産声を上げるとともに、当たって欲しくない嫌な予感が脳裏によぎる。


『エドワード・オルフェス』


 金髪のお兄さんが、自身の顔を指さし短く何か、まるでこちらに伝えるかのようなそぶりで言う。だから、こっちの言葉がわからないのよ! どうしたらいったい伝わるの? こんなにもどかしい思いをしたのは、初めて。正直、察してほしい。


『カルバン・ルードリッヒ』


 金髪のお兄さんは、続いてやくざ風なお兄さんを指さす。やくざ風なお兄さんもまた短く何事か言う。


『アリア・エルモンド』


 次に、金髪のお兄さんはメイド服着たお姉さまを指さす。お姉さまも、二人と同じように短くいう。うす髪を剥ぐように、少しづつ理解する。あぁ、これは、たぶん自己紹介的な何かなのだ。

 お姉さまの名前は、アリア。やくざ風のお兄さんは、カル……カルなんだっけ。金髪のお兄さんに至っては全然わかんない。だって、自己紹介だって気づいたのアリアさんからだもん。普通に、右から左に聞き流しちゃった。

 金髪のお兄さんは、こっちを指さす。たぶん、名前を名乗れってことだよね。


「古城 ゆ……」


 ―――いいかい、悠月ちゃん。知らない人に名前を簡単に名乗ってはいけないよ。名前っていうのは、大事な大事なものなんだからね。


 ふと、頭の中によみがえるのは、優しく包み込むような祖母の声。なんで、このタイミングで思い出したんだろう。普段は、全然気にしないのに。学校とかで不通に名前名乗ってたりするのに、どうしてだろう……どうしようもなく気持ちが駆り立てられて、本名を明かしてはならない気がするのだ。

 自身を指さし、偽りの名前を名乗る。途中まで名乗ったから、不自然にならないように。一文字だけ抜いた偽りの名前。


「古城 (ゆえ)

『コジョウ ユエ?』


 あ、もしかして、名前と苗字が逆なのかな。もう一度自分を指さし、今度は下の名前だけを口にする。


「ユエ」


 にっこりと、アリアさんは満足げな表情を浮かべ、首輪を抱えながら近づいてくる。え、もしかしてそれはめるのって……嘘でしょう。もしかして、ペット扱いなのかな。それとも、これから奴隷として売り飛ばされるとか……嫌な想像が脳裏によぎる。思わず後ずさるけど、でもどこにも逃げ場なんてない。そもそも、言葉の通じない人間を保護してくれる奇特な人間なんていないかもしれない。ここに、味方はいないんだ。


『これで、名前がわかりましたわ。あとは、ここに主の血を一滴垂らせば、完璧です』


 アリアさんから、銀色のナイフを金髪のお兄さんは受け取ると自分の指先を軽く切った。じわっと赤い血があふれ出す。自分で自分を切るなんて、何を考えているのだろう。やっぱり、この人Mなんだ。っていうか、なんでこの流れで、自傷するの?


『我、エドワード・オルフェスは、ユエの主となることを契約神リーヤスの名の元に誓う』


 血をつけたその不気味な首輪を、カルなんちゃらが、受けとり私の身体を押さえつけて動けなくしてから無理やり力づくでつける。どんなに暴れても拘束は緩まない。緩まないどころか徐々に強くなっていく。かみついても殴っても蹴り飛ばしても無駄。蝶なんてがらじゃないけど、蜘蛛の巣につかまった蝶の気分を味わい、冷水を浴びたような恐怖にさらされる。怖い。助けて。私、何をされるの。


「うっ! 痛っ」


焼けた針で首筋を刺されたような痛みが、やがて焼け付くような苦痛へと変わり、身体のなかを駆け巡る。実際には数秒だったのかもしれない。ぶわっと涙があふれ頬を伝う。だけど、体感では一時間も、二時間にも……永遠にも等しい時間に感じられた。



「すまない、無理やりだったのは謝罪する。君には悪いけど、この方法がカルの言う通り一番手っ取り早かったんだ」


 恨みと怒りを目に込めて「殺してやる」とばかりに、思いっきり睨みつける。謝ったってゆるす者か。こっちは死ぬほど怖い思いをしたんだ。


「本当にすまない。だけど、初めに謝りを入れる方法がなかったんだ。お詫びはなんだってする。本当にすまない」

「まぁ、そんなに泣くな。鼻を拭け。本当に悪かった。怖い想いさせたな。だが、そのおかげで、俺らの言葉分かるだろ?」


 あれ? 金髪とやくざ男の言っていることが、わかる? 日本語みたいに馴染んだ感覚はない。英会話を聞いて、頭の中で日本語に言い換えて理解するときのような感覚だけど、わかる。耳に聞こえるのは知らない言語、だけど意味はわかる。原因はさっきの痛みのせい……? 驚きのあまり、風船から空気が抜けていくような脱力感を伴って怒りが霧散していく。だからと言って、許したりなんかしてあげないんだから。


「えっと、もういちど名前聞いてもいいですか」


 金髪とやくざ男の名前を、下腹に力を込めて短く鋭く気合を入れながら尋ねる。すると、なぜか金髪は、申し訳なさそうに、顔を顰めて首を横に振る。


「ユエ様。残念ながらその首輪は、主となったものが習得している言語を聞き取ることと、読み取ることしかできません。ユエ様が、何を話していらっしゃるか、わたくしどもには理解できないことには変わりがないのです」


 えっと、私の言葉は通じないままってこと? コミュニケーション不可ってことだよね。でも、インプットの方だけでもできたのは幸いだよね。それにしても、異世界に来てまでも語学の勉強は後をついて来るのね。でも、主って何? 質問したいけど、こっちから聞くことはできない。歯がゆい。


「もう一度名乗るね。僕は、エドワード・オルフェス。君は、家の前で倒れていたんだよ。それを僕らは保護したんだ。おうちがどこだかわかる。わかるなら、首を縦に、わからないなら、横に振ってくれるかい」


 帰り方がわからない。首を横に振る。保護という言葉に眉を寄せる。保護した人間に痛みや恐怖を与えるとかこの国どうなっているの?


「そうか、それならしばらく家に居候してみない」


 見知らぬ地で一人ぼっち。胸の中に、穴ぼこが開いたみたいで、すうすうと冷たい風が通り抜ける。この人たちは正直、信用ならないけど、この申し出はとてもありがたい。私はこの国のことを何一つ知らない赤子同然で、守ってくれる人もいない。屋根の下で眠れるだけでも、儲けものなのかもしれないと考え、こくりと首を縦に振る。


「それでは、ユエ様にお迎えがいらっしゃるまで、こちらの言語を学んでいただくのはどうでしょう」


 首をこくりと縦に振る。意思を伝えられないのは、不便だ。いつまでもイエス・ノーしかいえないなんて、窮屈で仕方がない。その申し出に一も二もなくうなづいた。

 こうして、ユエとなった私は、異世界の家におじゃますることになりました。





じゃんるべつらんきんぐの「文学」で、このあいだ4位になりました。とっても、うれしかったです。これからも、 よろしく おねがいします。 

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