√B 勇者を召喚した今にも壊れそうな王国
日刊文学ランキング一位になりました。みなさまのおかげです。ブックマーク・評価ありがとうございます。想像以上の反響に、すごくおどろいています。自作品、初の評価1000超えです。た、たのしんでいただけたらとおもいます。
フレイヤさんに案内された部屋は、客室というよりも貴賓室といった印象だ。フレイヤさんは、近くにいたメイドにお茶を用意するように伝える。さて、これからどうするべきか。最終目的ははっきりしている。カルたちと合流すること。それか、元いた世界に戻ること。えっと、まずは円滑なコミュニケーションからの情報収集。相手が何を求めていて自分が何を提供できるか、そして、自分の方が損せず得を取れだよね。
「ふれいや、助ける、ありがとう」
「お気になさらないでください、勇者殿。あれは、私が私の都合で起こした行動です。感謝されるいわれもありませぬ」
「でも、助かる。あの人、怖い」
そう、ああいう人はとことんポジティブに自分のいいように解釈して話が通じない可能性があるから、嫌いだ。それに、やっぱ同性の方が話しやすい。届いたお茶を受け取るとフレイヤさんはメイドをさがらせ、自分で手慣れた様子で紅茶をコップに注ぐ。フレイヤさんはカップの中身を一口、味わうように口にしてから私の方に差し出してきた。まるで、毒見をするように……。
「ふれいや、私、おうち帰れないの。もう、みんなに会えないの?」
雰囲気的に、私はこの場所に呼ばれてきたみたい。それなら、変える方法もちゃんとあるのかもしれない。そしてあきらめかけていた元の世界に戻る方法が手に入る。でも、帰える前にもう一度会いたい。会って話したい。もっと、もっと。
「勇者様……それは」
「ねぇ、ふれいや。それ止めて。私、勇者、違う。私、名前ある」
円滑なコミュニケーションにはやっぱ自己紹介が必要だよね。まぁ、私は本当の名前を名乗るつもりないけど。ここでも、ユエってなのろう。そうすれば、どこから話が漏れてカルたちの耳にはいると思う。
この人は本当にいい人。でも、私は私の意思をだれにも縛られたくない。
「私、古城 ユエ」
「コウジョウ? 様」
「それ、家の名前。私の名前は、ユエ」
口の中でその単語を幾度かつぶやくと王女様。それにしても、ある意味ルーロ王国に召喚されてラッキーだったのかもしれない。ルーロ王国の母語は、エドたちの国と同じカーヤ語だ。幸い、ユエにカーヤ語を教えたのは、オルフェス家の完璧メイドアリアだ。なまりなどが出ないようにとことん教育された。あぁ、草花が咲き誇り川には船が流れるクロヴィス王国の王都ユーリが懐かしい。特に、屋台からかおる肉汁のしたたる……。
「ユエ殿、こちらの事情で勝手に召喚しておいて申し訳ないのですが帰還のための術式は、おそらく今現在我が国にはございません」
「私は、帰れない?」
首をわずかに傾げる。フレイヤさんの言い方が少し気になった。我が国にはないというということは、他国にはあるということなのかな。だとしたら、日本に戻る方法があるってこと? この世界になじむ努力ばかりで、日本に戻るための方法を探すのをうっかり忘れていた。そういえば、私まともに自分のことエドたちにはなしていないかもしれない。聞かれなかったから、すっかり話すタイミングを逃して、そんなのんきなことをしていたら離れ離れになってしまった。
「今現在は……ですが、必ずユエ殿が元いた世界に帰還するための方法を探し出すことを、私の名前と契約神に誓います」
契約神という名を以前にも聞いたことがある。ユエはそっと首元に触れる。この首輪にも契約神の力が関わっている。契約神は、商人が多く信仰している。すごく大事な商談の時とかは必ずと言っていいほどこの神様の名前が出てくる。前に、アリアに聞いたことがある。もし契約神に誓った契約が破られたらどうなるのかって。情状酌量の余地があるかどうかとか、いろいろあるみたいだけどひどい契約違反の場合神様の怒りをかうらしい。
『我、フレイヤ・ジュマン・ナッツモンドは、勇者ユエを元いた世界へ還すことを、契約神リーヤスの名の元に誓う』
その宣誓の言葉をつむぐごとに、フレイヤから金色の光の粒が湧き上がる。その光の粒がまぶしくて思わず目をすがめる。うねる光の粒一つ一つが強い力を放っている。そして、言葉をつむぎ終わると光の粒が一本の束になって上の方―――はるか高みにある感知するのもおこがましいほどの大きな存在の元―――へすぅっと音もなく吸い込まれていく。
あぁ、この世界には、神様が本当にいるのだ。
確かな証拠なんてないけれど、今確かにそう思った。竜がいるように神様もいる。地球とは全然違う。本当にこういうところにカルチャーギャップを感じた。
「ふれいや、私がここにいる理由、教えて」
「はい。ユエ殿。ユエ殿をこちらの世界へ呼んだのは、勇者召喚の術式です。これは、わが国ではすでに失われたもののはずでした。正確に言いますと、隠滅したはずの物です。本来対となる帰還の術式が、とある勇者を召喚した際に、その勇者に懸想をした娘が帰還術式を破り捨ててしまったため失われてしまいました」
「懸想?」
「はい。その伝承によりますと、召喚された勇者は、たいそう見目麗しい殿方であったようです。見目だけでなく、武術・魔術ともに非常に優れていらっしゃった方でして、お恥ずかしながらルーロ王国の姫や上級貴族のむすめたちが次々と虜にされたようです。異国の美姫君たちも皆勇者様のお子を欲しがり、当時は魔物の脅威とは別の意味で国の存続が危ぶまれました」
おぉおお、それってハーレム状態だよね。男の人にとっての夢だよね。いいなぁ~、かわいい女の子に囲まれて、ずるいっ。私もかわいい女の子たちとキャッきゃうふふしたいよ。あ、でも女同士のし烈な争いとかいやだな。きっと、その勇者様とんでもなく鈍感だったのかな、そのチート感がバリバリな勇者様。
そういえば、私、一応勇者なんだっけ? なにも、変わった気もしないし、感動もないんだよね。むしろ、あの王様っぽい人の頭を滅びろって目で見てたんだけど。だってあの人話聞いてくれないんだもん。そのくせ、自分の意見を押し付けてくるし、ああいう人って嫌い。
「じゃあ、ふれいや、残念だった? 私、かわいくない。あと、女」
「いいえ、いいえ。決してそのようなことはございません。ユエ殿は、たいそう愛らしい容姿でいらっしゃいます。それに、過去のも女性の勇者は存在いたしました。ですから、ユエ殿は気になさらなくてよろしいのですよ。ただ、願わくばこの王宮にいる間、わたくしをふくめてあまり心を許しすぎないでくださいませ。勇者殿のお力、またその存在に価値を見出す存在はたくさんおりますから」
愛らしい……ね。私は、かっこいい女の人になりたいんだけど、道のりは遠いかな。いやでも、ここで頑張って勇者らしく修行でもすればかっこいい女の人になれるかな。オルフェス商会でせっかくできる女っていうのを目指してたのに、アリアっていうすごくいい見本が近くにいたから。
「ふれいや、私を利用する?」
なるべく不安ににじんだ声で尋ねる。確かに、私はこの王宮で、この国で本当の意味で誰かに心を許せそうにない。私はこの世界での一番優先したい人たちをすでに心の中に決めてるから。
「決してユエ殿の望まないことは致しません。そのようなことをしては、私は明日からどのような顔をして神に祈りをささげればいいのでしょうか」
どうやら、フレイヤさんは、神様大好きっ娘さんのようです。その神様さえ敵に回さなければ何とかなるのかな。そういえば、私をここに呼んだ人たちの中に大神官って人もいたけど、フレイヤさんのと同じ宗教なのかな。
「ふれいやの神様、あの人たち、違う?」
「いいえ、同じですよ。ただ、信仰の形がいつからか変わってしまったのです。詳しく話すと長いので、簡単に説明しますね。本来、巫女が神から未来を授かり、その未来を読み解き、それを阻止、または成就させるのが神官の役割だったのです」
未来がわかるとかやっぱりここは、私の生まれ育った場所とはかなり違う場所なんだ。先が見えるってどんな感じなんだろう。でも、私たちの世界で当たり前のように行われている天気予報とかと案外同じだったりするのかもしれない。
「しかし、今では神官の役割も巫女が執り行っています。いつからか、神からの予言をねつ造や、勝手な解釈を神官はするようになってしまいました。大巫女様が、おっしゃられるにはここ数十年で大きく変わってしまったようなのです。さきほど、ユエ殿がお会いになられた叔父上は、この国の王兄になります。大巫女様はそのことをたいそううれいていらっしゃいます」
同じ神様を信仰しているのに、仲が悪そう。はぁ、私がいる間は平穏でいてほしいけどきっと無理なんだろうな。間違いなく、私はここで火種になる。ケンカとか争いとかそういうの見るのも聞くのも嫌だ。時にその喧嘩が必要な場合があることくらい理解している。お互いの金地がわからないまま、すれ違ったままよりは喧嘩して分かり合った方がいいのは分かっているけれど。絶対、巻き込まれるのは嫌。
「ケンカ中なんだね。でも、早く仲直りしたいね」
「そうですね。話がそれてしまいましたね。勇者召喚が行われた理由ですが建前としては、近々大きな争いが起きるという予言が関わっています。その争いがなんであるか、巫女たちは読み解いている最中でしたが、すこし神官派から目を離したすきにこのような暴挙が、本当に申し訳ございません。よくわからない予言のために、見知らぬ土地に身一つで呼ばれる羽目に……ユエ殿が元の世界に帰還なされる方法が見つかるまで、私が責任をもってお世話をさせていただきます。お望みがあれば私に申してください。私にかなえられる範囲でかなえますので」
大きな争い……か。それって、内戦じゃないといいけど。なんかこの国の上層部めちゃくちゃ不安定そうだ。こんなところに長くいられない。早く、逃げたい。喧嘩なら私のいないところでやってよ。切実に、私と私の大切な人を巻き込まないでほしい。
「ですが、ルーロ王国の民に不利益になることはあまりかなえて差し上げられないかもしれません」
フレイヤさん、「何でもします」って言わないんだ。そして、やっぱりこの国のお姫様なんだ。さっきのおじさんよりはよほど好感が持てる。それじゃあ、さっそくお手並み拝見させてもらうね。
「ふれいや。私の願い叶えてくれる?」
そうして、私は愛好きな人たちとの再会を目指した第一歩を踏み出した。
第二章とも「if」ともいえる√Bまだまだ続きます。評価していただくと、話を続けてもいいのかなと思えて頑張れます。次の話は、すこしおまちくださいね。ところで、ユエちゃん以外の視点ってアリですかナシですか?