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ここに、いたいです。

 数か月後。

「エドワード・オルフェス殿、貴殿を栄えある円卓会議の一員に迎えることをここで宣言しよう」

 そう国王陛下に宣言され、迎え入れられた円卓会議。今までと勝手が違うこともいろいろあるだろうに、それを苦にもせずむしろ幸せな顔でやるのはたぶんエドくらいのものだと思う。ようやくほしいものが手に入ったので、モチベーションがすごいのだ。そう、リリアーノさんとエドは無事に籍を入れることが叶い、晴れて夫婦になったのだ。

「ユエ、確認をお願いしますわ」

「はい。エド、これ、チェック終了。それと、リリアーノさん、商品のPOP、どう?」

 飛ぶ鳥を撃ち落とす勢いで、ゲームは売れに売れた。多くの民に向けて売るため一つ一つの値段単価はすごく安い。こういうものに対して逆に、貴族は手を出したがらないらしい。しかし、そこは緻密な細工を入れたカードケースや、有名画家によって書かれたイラストのおかげで解決した。こっちは値段が高くなり、数も少ないということ、さらにナンバリングを入れたことによってこぞって売れた。もともと、娯楽を欲していたのだから需要はあるのだ。

「素敵ですわね。支部にも徹底させましょう。そうそうこの前、ユエが言っていた大会、正式に開催されるそうですわ。ふふふ」

 リリアーノさんも今ではすっかり、オルフェスの女主人になっていてエドが円卓会議で忙しいときなど代わりに切り盛りしている。専門的なものは、その道の人にまかせていて、人を使うのがうまいと感心させられる。そうやってほめると、花嫁修業期間が誰かさんのせいで長いですからと目元を和ませながら笑って言っていた。すべてはいい思い出なのよと言い切れるその姿を潔く感じた。

「邪魔するぜ。ちびっ子、いるか」

 久しぶりに顔を見たカルは、軍服みたいな堅苦しい服をだらしなく着崩していた。カルは、竜騎士らしい。普通の騎士と違い、国王に忠誠を誓ってないらしい。竜騎士は、それ自体が強力な権力を持つので、こぞって国は内に抱え込みたがる。カルは、フリーの竜騎士で、傭兵まがいなことから、オルフェス商会限定で遠距離への宅配もたまにしているようだ。

「カル? あ、おかえり。遠征、お疲れ」

「おう。お前も頑張ってんじゃないか、ちびっ子。そういやぁ、こうして会うのはエドの結婚式以来だな。しかし、全然背伸びないな」

 この世界の人が高すぎるのだ。私は標準サイズだ。くいっと引き寄せられると、カルからほのかにほこりと火薬に似た匂いがして眉をひそめる。

「ん、匂うか。ブレス、放ったからかな。それより、ちょい、後ろ向け」

「こう」

 いつもは、髪の毛をいたずらに乱すくせに、そっと壊れ物を扱うように髪を梳く指。そっと、髪に重さが増す。

「良し。もういいぞ。」

 そっと髪に触れると、指先が滑らかで冷たい石のようなものと細やかな細工に触れる。後ろだと鏡に映らないから、どうなっているかよくわからない。リリアーノさんが、「明るい色も花の形も、ユエによく似合ってますわ」と微笑みながら言ったので、おそらくそんなに変なものはついていないのだろう。

「ありがと」

「カル、それって希少魔……むぐっ」

 満足げに腕を組んでいたカルは、髪飾りを目にした途端目の色を変えたエドの言葉は途中で力づくで黙らせて気にするなと手をひらひらとさせて言う。そんなに変なものを付けられたのだろうか。気になって、外して見てみようとするとぎろっとにらまれたので断念。

「そろそろ、エドが限界ですわ。」

「やべっ。わりぃ」

 いいや、気にしてないよと弱弱しくエドは笑うと、なぜか私とカルを何度か交互に見て、リリアーノさんに「有り? 無し?」と尋ねる。すると、若干黒いオーラを背負いながら口元に弧を描きふふふと笑い声を返されて、耳をつねられていた。うん、何が有りなのか無しなのかわからないけど、夫婦の力関係が一目でわかる構図だよね。

 この前のお道具箱は、謝罪の品だったからいいけど今回のお土産は完全に贈り物だから何かお返し物考えないと、何がいいかな。商会の手伝いでお小遣い貰っているから、お返しはできるけど……ガクッと視界がが急に右斜め下にぶれる。あれって思ったときにはカルの腕に支えられていた。さっきまで、全然平気だったのに急に眠気がわきあがる。

「おい、どうした」

「ごめん、急に、眠い」

 昨日はずいぶんと早く寝たし、朝もいつも通りだった。寝不足とは思えないけど、逆らえないほどに強い睡魔の誘惑。

「ユエの身体が!」

 何とか悲鳴を飲み込んだリリアーノさんの声が、どこか靄がかかって聞こえる。

 ふと視線を落とすと足先から順に光の粒へと変わり空気中に溶け込んでいく。感覚も痛みもないのに、実身体を失い半透明へと変わっていく。とろんした眠気が強まって、身体にうまく力が入らない。

「っ、なんだこりゃ。エド、とりあえずダメもとで、首輪を使え」

「あぁ。ユエ。“消えるな”」

 初めての命令は、強い懇願。そんな目で見つめられたら、できる範囲で叶えてしまいたくなる。だけど、どうすればいいかなんて、私にもわからない。首輪にはめ込まれた石が、強い光を放ち、見たこともない光の文字が囲う。ガラスを割るような音共に、私を囲っていた魔法文字がはじけ飛ぶ。

「なんで」

「そんな。名前に命令の組み合わせに魔力を通したのに。ユエ、“ここに居ろ”……っ、“眠るな”」

 二回、三回目の命も同じく途中で、はじけ飛ぶ。焦る面々に対して、私は自分でも不思議なくらいに落ち着いていた。たぶん、「主の命令」が実行されない原因は、名前が偽りだから。お腹あたりまで、もう消えてしまった。

「カル……お礼、無理みたい。みんな、ごめん、なさい。名前、ユエ、偽り。今まで、ありがとう」

「何を、言っているんだ……っ、解読できねぇし、なんだこりゃ。おい、ユエ」

 ―――元の世界に、戻ってしまうのだろうか。

 何時の間にか、帰りたくなくなっていた。今にも座り込んでしまいそうな体を唯一支える腕に力がこもる。「あざ、どうする。責任、取れ」と、軽口をたたいたらと、「それじゃあ責任取ってやる」なんて言ってくれるのかな。あぁ、なんだか目蓋が重たくなってふわふわとした気分になる。

「たぶん、帰る。家。私、カル、嫌いじゃないよ」

「ユエ、行くな。ここに居ろ」

 引き留めてくれることに、ここに居てもいいというその言葉に胸が温かくなる。ずっと欲しかった居場所が手に入ったのに、こんなのって……視界がぼやける。

「ユエ。お前の本当の名を教えろよ。俺は、カルバン・ル・アルティミナス」

 抱き寄せられ耳元で、哀願するように告げられた言葉に、答えたい。

「悠月。古城 悠月」

「ユヅキだな、ユヅキ、絶対迎えに行く」

 耳元でささやかれた真名は、ユエだった時には感じなかった歓喜の息吹を心にもたらす。迎えに行く、その言葉に胸が温かくなる。だけど……もう、目が開けてられない。最後に、あのカルが泣いているように見えたのはそうであって欲しいとわたしが望んだせいだろうか。

 そして、私は眠りに落ちた。


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