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今の私にできること

 太陽の光が優しく空から降り注ぐ。色とりどりの花が、甘い香りを漂わせ、鳥たちが愛を歌う。すぅと緑の香りを肺に吸い込んで、にっこりと本音を覆い隠す作り笑顔を浮かべる。二枚ある手札のうち片方は、ジョーカー。どちらを取ろうかとふらふらと視線をさまよわせるリリアーノさんは、喜怒哀楽が激しすぎて正直カードがバレてたりする。

「くっ、またジョーカーですわ。もう一回ですわ」

「はい」

 カードゲームは私的には、人数が多い方が盛り上がるので、仕事中だと思われるメイドさんたちを丸め込み、ババ抜き、ジジ抜き、スピード、神経衰弱、大貧民、ダウト、豚のしっぽ、ブラックジャック、ポーカーなどを楽しんだ。

「お嬢様は、負けず嫌いですからね」

「リリアーノさん、社交家、平気?」

「ええ。お嬢様は、ドレスアップすると、猫かぶりが途端にうまくなりますから問題ありません。ですが、身内の前では、どうしてこう」

「シャーリー!」

 楽しんだというより途中からリリアーノさんがすごい勢いで燃えていた。楽しんで遊んでいる間は、すこしだけ現実から逃避できる。だからって、いつまでも目をそらしてはいけないのだと、胸がうずく。こうして、遊んでいるとリリアーノさんはエドさんのことを思って苛立ったり、悲しんだりしないからほんの少し心が楽になる。

「勝ちましたわ。ユエ、他にはどんな遊びがありますの。ぜひ、教えてくださいまし」

「はい。初めに、作る。いい?」

「もちろんですわ。それすらも、遊びの醍醐味です」

「次、白と黒の遊び。オセロ」

 よく見てみると、メンバーをちょこちょこ変わっている。だけどルールを教えずに済むのはきっとすでに遊んだ人間が他の人間に教えているからだろう。カードの方も、手先が器用なメイドさんたちが、かわいらしいカードを作ってくれた。

 オセロとか、将棋とかなら紙とペンがあれば作れるのは、中学の時、男子が紙で将棋の駒を自主制作していたから、できるはず。

「これ、増加、厚み、可能?」

「紙粘土なら可能です! 今すぐ取りに! お嬢様、よろしいでしょうか」

「かまいませんわ」

 チェルニー家での居候は、面白おかしく楽しく過ごしている。でも頭の片隅で常に私は、今できることを考え続けていた。地球での遊びがここまで受け入れられるのだったら、他にも……でも、私のせいでこっちの世界がどうにかなるのは嫌だ。

「ふう」

 全く私は自分をどんだけ過大評価しているのだろうか。

 ぶわりとした強風と共に、突如に影が覆った。見上げると、陽光をすべて吸収し尽くすのではないかと思われるほどの漆黒の竜が飛行していた。大きく鋭い爪は見るものを委縮させ、その堂々とした様に覇者の風格を感じるだろう。

「あら? お客さんだわ。シャーリー、紅茶をもう一つ」

 地球にはいない、想像上でしか生きられない伝説の生き物が頭上にいる。リリアーノさんが暢気に手を竜に向かって振っているせいか、はたまた竜から害意や敵意を感じないせいか不思議と恐怖はなく、好奇心と高揚感が、ゆるりと顔を出し、頬を熱くさせた。この大きな存在を前にすると自分はなんてちっぽけな存在なのだろうと思えてしまう。目の前が開けた気がしたのだ。

「よぉ、ちびっ子。ずいぶんと間抜けずらじゃねぇか」

 空から降ってきた声。耳に心地よいテノールで、私をちびっ子などと不本意極まりない呼び名をする人間はただ一人。あの雨の日以来の再開だ。

「カル」

「おう、そこから動くな。降りるから」

 すぅと肝が冷える。二、三階どころではない高さから、飛び降りたら普通にあの世に直行だ。だというのに、ドアを蹴り破る非常識人間は、黒いコートが翻し、紺色の髪を風に遊ばせながら、空中でこっちが凝視しているのをわかっていて、二転三転と宙返りを披露する。

「おぉ!」

 ストンと、あの高さから落ちたにしてはおかしすぎる衝撃で、少しも足をしびれさせた様子もなくスタスタと歩み寄って来る。ドヤ顔なのが若干ムカつく。 

「案外、元気そうじゃん。家出るとき、この世の終わりだ。お先真っ暗だって顔していたやつがさ。よ、リリア。久しぶり、ご機嫌麗しゅう?」

「えぇ、ユエのおかげで、とってもご機嫌ですわ。あの人は?」

 はっと、聞き耳を立てる。

「エドの奴なら、だいぶ事後処理は終わったみたいだぜ。お前さんの御機嫌を気にしてたぜ。近いうちに詫び入れに来るってさ。そんで、落ち着いてきたからこいつをそろそろ迎えにきてやろうか……これ、なんだ」

「それは、トランプですわ。この数十枚のカードでさまざまな遊びが楽しめるのです。ユエに教えていただきましたの。カルバン、貴方もやりません?」

 優越の表情を浮かべながら、嬉々としてリリアーノさんはカルにルール説明する。どうやらカルは、ポーカーが気に入ったようだ。

「なぁ、ユエ。お前さ、まだ罪悪感じてるか?」

 紺色の瞳に射抜かれ、どきりとする。じっと心の奥底で見透かされるかのようなその視線を目をそらしそうになるのを必死に留め、受け止める。

「罪、ある。でも、何か、手助けしたい。店、繁盛。エドたちの結婚。一つ、提案ある」

 出会ったときと同じく顎でこっちをしゃくり、偉そうに続きを話せと示してくる。竜に乗っている姿を見たせいか、むしろこういう仕草が似あうように見えてしまうから不思議だ。

「これ、売る。可能? 他に、たくさん、ゲームある」

「ほぉ、考えるじゃねぇか。ちびっ子。ここにあるゲームの遊び方、詳しく話せ。俺が、企画書作ってあいつに出してやる」

「え」

 まさかこんなにあっさり通るとは思えなかったから、びっくりした。

「まぁ、それはすてきですわ。わたくしにもお手伝いさせてくださいまし」

「リリアーノ、お願い。これ、お友達、紹介。売る店、教える」

 プレゼンテーションというか、売り込みをお願いする。エドたち商人だけじゃ意味ない。もっと自然に興味を惹いてもらいたい。たぶんリリアーノさんの交友関係は広いから可能だ。

「ふふふ、商人と妻らしいお仕事ですわ。乗ってきましたわ。カル、これをぜひエドに商品化させましょうね。わたくしも後押ししますわ」

 こうして、次々と話を進めていく。時々メイドや執事、時に庭師や騎士などを交えて、装丁などを売り込む層によって変えるのがいいとか、オルフェス家のマークを裏に乗せたカードなら宣伝効果があるのではとか、思いついたことを企画書に盛り込んでいった。こうして、日が暮れるころには分厚い企画書が作られた。


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