表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編作品(1~4000字)

しもやけ

作者: はなうた



 冬の気配もぐっと濃くなったある日。

 六畳間の真ん中で、お父さんと今年三才になる娘がお話していました。


「ねえ、パパ?」

「なんだい?」

「パパの足、なんでそんなにパンパンなの?」


 お父さんの両足……その指先は真っ赤に腫れ上がっていました。

 俗に言う『しもやけ』という現象です。


 お父さんは、なんにでも興味を抱く我が娘を愛おしく思いながら、優しい笑顔で答えます。


「これはね。パパの足に毎年できる、プチトマトなんだよ」

「え、すごーい! パパの足って、トマトさんできるんだー」


 ポカンと口を開けて驚く娘を見て、お父さんは内心で大はしゃぎ。娘がどんな反応をするのか、お父さんはつい試してみたくなったのです。


「あたしも足に作りたーい。どうやったら作れるのー?」

「えっ、それは寒いところで裸足でいたらできるんだけど……」


 ただ、娘の興味はお父さんの答えの先へ進んでいきます。

 ちょっと困ったお父さん。

 このまま可愛い娘のいたいけな足にしもやけを作らせるわけにはいきません。


「あのね、このトマトはね。とっても悪いトマトなんだ」

「え、そうなのー?」

「うん。これができるとね……足がとってもかゆくて、痛ぁくなるんだよ」

「いたいのやだー」

「そうだね。だから、ちゃんと温かくしてこのトマトを作らないようにしないといけないんだ」

「そうなんだー。わかったっ」

「よしよし、いい子だね」


 物わかりのいい娘に感動の涙を禁じえないお父さん。

 きっとこの子は、真っ直ぐな女性に育ってくれるに違いない。


 そう確信しました。


「じゃあ、あたしがそのわるいトマトやっつけてあげるねっ」

「え? ……って、その爪楊枝つまようじは? え、ちょ、そんなことしたら刺さ……」


 どうやら、娘は物わかりがいいだけでなく、正義感も強かったようです。


「ちょ、待ちなさい! そのトマトは爪楊枝ではやっつけられな……あ、だめ……」

「いっせぇーのーせぃっ!!」


「アッ――――――――――――――――――――――――――――――!!」


 そうして、お父さんの足に実ったプチトマトは、それはそれはキレイなお花を咲かせたのでした。



 おわり。


 お読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 霜焼けをトマトと表現するお父さんのギャグセンスも最高ですし、それを爪楊枝で刺す娘さんの可愛さがたまりません!
[一言] ハ○ツリのようなラストが衝撃的でした。悲劇を喜劇的に描いてしまう、はなうたさんの軽やかな文章が好きです! 娘さんの可愛さが、容赦のなさをよりいっそう際立てていますね。 目の腫れ物とかじゃな…
[一言] ほのぼのとさせといての、お父さんの断末魔。 ソフトにエグい感じで良かったです。 こういうのいいですね。 前半だけにとどめておけば、教科書に載りそうです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ