しもやけ
冬の気配もぐっと濃くなったある日。
六畳間の真ん中で、お父さんと今年三才になる娘がお話していました。
「ねえ、パパ?」
「なんだい?」
「パパの足、なんでそんなにパンパンなの?」
お父さんの両足……その指先は真っ赤に腫れ上がっていました。
俗に言う『しもやけ』という現象です。
お父さんは、なんにでも興味を抱く我が娘を愛おしく思いながら、優しい笑顔で答えます。
「これはね。パパの足に毎年できる、プチトマトなんだよ」
「え、すごーい! パパの足って、トマトさんできるんだー」
ポカンと口を開けて驚く娘を見て、お父さんは内心で大はしゃぎ。娘がどんな反応をするのか、お父さんはつい試してみたくなったのです。
「あたしも足に作りたーい。どうやったら作れるのー?」
「えっ、それは寒いところで裸足でいたらできるんだけど……」
ただ、娘の興味はお父さんの答えの先へ進んでいきます。
ちょっと困ったお父さん。
このまま可愛い娘のいたいけな足にしもやけを作らせるわけにはいきません。
「あのね、このトマトはね。とっても悪いトマトなんだ」
「え、そうなのー?」
「うん。これができるとね……足がとってもかゆくて、痛ぁくなるんだよ」
「いたいのやだー」
「そうだね。だから、ちゃんと温かくしてこのトマトを作らないようにしないといけないんだ」
「そうなんだー。わかったっ」
「よしよし、いい子だね」
物わかりのいい娘に感動の涙を禁じえないお父さん。
きっとこの子は、真っ直ぐな女性に育ってくれるに違いない。
そう確信しました。
「じゃあ、あたしがそのわるいトマトやっつけてあげるねっ」
「え? ……って、その爪楊枝は? え、ちょ、そんなことしたら刺さ……」
どうやら、娘は物わかりがいいだけでなく、正義感も強かったようです。
「ちょ、待ちなさい! そのトマトは爪楊枝ではやっつけられな……あ、だめ……」
「いっせぇーのーせぃっ!!」
「アッ――――――――――――――――――――――――――――――!!」
そうして、お父さんの足に実ったプチトマトは、それはそれはキレイなお花を咲かせたのでした。
おわり。
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