8 三週間前 月通信可能領域
三週間前 月通信可能領域
「謎の機影を確認、訓練を中止し、ただちに調査に向かう」
フユカ達が乗る二足歩行搭乗型兵器カングリアは、訓練動作を終了しレーダーに反応があった謎の機影を同じ訓練をしていた仲間と共に追い始めた。
二足歩行搭乗型兵器、地球側の政府が月の実権を握ってから計画を立案し、地球奪還作戦のために作られた人が搭乗することにより機動するロボット兵器の正式名称である。
月に人が暮らせるようになりはじたころ、地球で発掘できない鉱石などが月の内部から発見された。強度はどの金属よりも硬く、それに反して重量は軽く、柔軟な成型ができる夢のような金属。月側ではこれをムーンアイアンと名づけた。ムーンアイアンはAIと共にすでに宇宙船から居住ブロック、乗り物の小さい部品にまで幅広く使われていた。その鉱石に目をつけた地球側政府はチェスの影響を受けない兵器、全長六メートル級の二足歩行搭乗型機動兵器を開発することを決めた。
この機動兵器には地球側政府の恐怖が凝縮されていた。それを象徴するのが、人が乗ることにより運用する搭乗型という形だ。
普通ならば人が機動兵器に搭乗し戦うというのはあまりにもリスクが大きい。パイロットの養成にも膨大な時間が必要になる。思考型や自律型、遠隔操作を行って機動兵器を動かすのが一般的である。だがなぜ搭乗型なのか。 地球政府にとってすでに自律型や思考型という言葉は、チェスによる反乱の影響でトラウマとなっていた。もしこの兵器を自律型や思考型で運用した場合、地球に降下した時点で、チェスのハッキングを受け制御ができなくなってしまう可能性があったからだ。これは遠隔操作でも同じで、チェスはこの能力を使い、ありとあらゆる物を掌握し人類を追い詰めていった。