6AI所持禁止令
AI所持禁止令
宇宙に飛び出した月の人々にとってそれは驚愕な条例であった。
AIはただちに機能停止、もしくは破棄すること。これを実行できない場合は例外を除いて罰金に処す。
月で生きる人間にとってこれは考えられないことであった。月においてAIは、使われていない場所を探すほうが難しいぐらいに普及していたからである。日常生活から軍備に関するまでそれこそドアの開閉にさえ使われている。この条例に対して月の人々、月側の政府は地球側の政府に対して抗議した。実権を握っている地球側の政府は最初完全にその抗議を無視したが、月の生命線であるAIを停止するということは自分達にとってもよくないということや、地球奪還作戦の妨げになることが分かりほかにも様々な要因があってAI所持禁止令は、思考AI所持禁止令と名を変えた。
思考するAIとは、AI自身が考え、言葉を喋り行動するというもので、地球を乗っ取ったチェスとほぼ同様のものであった。地球側の政府は、思案するAIに恐怖を感じ憎み不安を持っていたのだ。また自分達に牙を向くのではないかと。
「あなた、何ブツブツ言ってるの?」
アキトが思考AI禁止令についてという文書を携帯端末で読みながらその携帯端末と喋っていると、背後からアキトに向かって女性の声がした。
「う、うわ、びっくりした・・・・・・」
素早く携帯端末を隠すアキト。女性の顔を見て驚いて情けない表情になっていた顔を素早く標準の顔に戻し席から立ち上がった。
「昨日パイロット所属となりましたタチバナ=アキトであります」
はきはきとした口調で自分の存在を発言した後、アキトは敬礼をした。女性は黒髪を肩まで伸ばし、目鼻立ちはきりっとしていて、多分アキトと同じアジア系のルーツを持っているのであろう顔であった。ゆっくりと女性の襟元に目線を落とすと階級のバッチが3つついている。ここでの階級はバッチの数できまる。アキトはバッチを一つも持っていないので星無し、新米兵ということになる。
アキトの目の前にいる女性はバッチを三つ、三星と呼ばれアキトの上官であった。ちなみに先ほどアキト達に座学を教えていた教官のバッチは6つ、六星という。一番上が十星、これは地球側の政府だけが持つ階級だ。
「フユカ=イーゲルンだ、よろしく」
「それで三星の方が星なしの俺になんのようですか?」
建前は済ませたというようにさきほどとは違い、アキトの声のトーンはあきらかに下がった。
「あなたの声、どこかで・・・・・・」
アキトの顔が少し強張った。
「フユカ=イーゲルン三星」
低い声がフユカを呼んだ。
「ライドウ六星、どうかしましたか?」
体格のいいこちらもアジア系の顔をした、いかにもケンカなれしていそうな大男がフユカのもとに近づいてくる。
「先日の謎の機体の件なんだが、上が詳しい情報を知りたいそうだ、すぐに会議室に向かってくれ」
「アンノン・・・・・・」
ライドウはフユカの前に立っているアキトに気づいた。