19 二足歩行搭乗型第一格納庫
二足歩行搭乗型第一格納庫
整備班の者達が騒がしく指示を飛ばしながら、着々とカングリアの整備が進んでいた。
「一番から十四番までのカングリアの整備終了、四番と十三番は欠番、十五番から二十六番の整備にかかれ」
整備班長がそう叫ぶと、整備員達はと野太い声で返事をした。
「何で十三番の機体は欠番なんですか?」
星無しの一人が、カングリア起動の最終準備をしながら、教官に聞いた。
「ああ、まあ迷信とでも言えばいいのか、要は不吉な数字でパイロットが乗りたがらないから、四番と十三番は、機体自体はあるが欠番になっている。誰が決めたんだかな・・・・・・そんなことより口動かす暇があったら手を動かせ」
教官は作業を続けながらフユカ達の乗るカングリアを見上げた。
「胸騒ぎがするな・・・・・・頼むぞ三人とも」
フユカはコックピットで計器のチェックをしながら、整備員からの通信を聞いていた。
「すいません、調整が出来ているのがセルゲイ三星の接近戦用のカングリアだけで、イーゲル三星とビィレジ三星のはまだ通常装備のままです」
「了解」
短く返事を返す。
「聞いての通りだ。私とパールは通常装備、ゲートは接近戦での作戦になる、ターゲットはいまだ未確認だが、月へ向かってきているため確認しだい破壊作業に入る。万が一戦闘になる可能性もある、十分に気をつけてくれ。ちなみに作戦決行領域は、長距離通信がほぼ不可能な領域だ、それを心してくれ」
「ああ、あれか地球から放たれる青い光の影響ってやつか」
ヘルメットを指でコツコツ叩きながらパールは言った。
「一日に数百発の電磁妨害エネルギーが地球から放たれている、これは地球側政府が月に逃げてきた日からずっと続いているそうだ・・・・・・宇宙に出れない奴らなりの悪あがきみたいなもんだな・・・・・・」
ゲートの解説を聞いてふんふんと頷くパール。
「地球奪還作戦が本格的に開始されればまずその電子妨害エネルギーが放たれてるところを破壊するのが最初の任務になるだろう」
フユカ達三星階級を持つパイロットはその作戦がとても厳しい作戦になることを知っていた。
「完全に俺達は捨て駒にされるのかね・・・・・・」
抑揚も感情もない言葉でパールはそう呟いた。
「パール言葉に気をつけろ・・・・・・」
注意するゲートだが、何時ものようなしっかりとした言葉ではない。
「・・・・・・指揮が下がる、私語は慎め・・・・・・」
フユカはそう言って二人を引き締めた。だがフユカも二人と同じ気持ち、不安を持っていた。
戦場に出れば死は隣り合わせだ。今までやってきたことがどれだけ戦場で引き出せるのか、もしかしたら何も引き出せずただただ死んでしまうのではないか、そんな不安が三人の中には渦巻いていた。
手を動かしながらも三人は三週間前に出会った謎の機体を思い出していた。戦いはしないまでも圧倒的な性能を見せ付けられたあの謎の機体。自分達の知らない何かがもしかしたらと不安を駆り立てる。そしてゲートとパールもフユカの言葉で可能性の領域ではあるが戦闘の覚悟をした。
「それと今回はギーブリック部隊との共同作戦だ、私達は先発だが追いついてきたほかの機体との連携も忘れるな」
フユカがそういうとフユカ達のコックピットに通信が入る。
「こちらギーブリック部隊、隊長エキドナ=ギーブリック三星だ、今回の作戦よろしく頼むよ、エリート様達」
エキドナ=ギーブリックと名乗る少女の声が三人のコックピットに響く。
「げっ・・・・・・高飛車ガキっ子・・・・・・エキドナかよ」
パールは顔をしかめた。
「エキドナ、何度言えばわかる、俺達はエリートなんかじゃない」
「何がエリートじゃないだ、あんたらがカングリアの武装換装のテスト部隊だってこと知っているんだからな!」
ゲートは深くため息をついた。
「それはこの前の模擬戦で俺達がお前達に勝ったからだろう」
うぐっとエキドナが何かをこらえる声がする。
「ちゃんと理解したなら俺達をエリートと呼ぶな、俺達はお前達と同じことを学んできたのだからな」
「ぐぬぬぬ、うっさい、うっさい、私はそんなことで納得しないぞ、このエリート共! たよりにしているからな!」
そう言うとエキドナからの通信が切れた。
「おいおい、頼りにしてんのか、けなしてんのか分かんねぇな・・・・・・」
「あいつは十分凄い奴だよ、まだ若干14歳で部隊の隊長だからな」
フユカ達は乾いた笑い声をあげるしかなかった。
「コホン、気を引き締めろ」
「「了解」」
フユカの一言にゲートとパールの眼は真剣なものに変わった。
「イーゲル部隊、出る!」
格納庫のハッチが開き、フユカ達の視界に長いトンネルが広がる。フユカとパールが乗る二機の通常装備のカングリアと、ゲートが乗る背中に通常の二倍はあるブレードを背負った格闘専用カングリアがトンネルへ歩き出す。
「始まったか、今のうちに乗れるカングリアを探さなきゃな・・・・・・」
イーゲル部隊が乗るカングリア達の背中を見送る整備員達の隙をみてアキトは自分が乗るカングリアを探していた。
「よし、お前ら次はエキドナ三星達のだ、イーゲル三星の部隊より数が多いから気を引き締めろ」
整備班長の声が格納庫に響く。その声を聞きながらアキトは、整備員達が誰一人いないカングリアの前に立っていた。
「四番機か・・・・・・」
そう言うとアキトは軽やかにカングリアのコックピットに乗り込んだ。
「カングリア四番機、機動」
アキトの声とともにカングリアの各部位のモーターが鼓動するかのように鳴り出した。
「見た感じ、ちゃんと整備はされているな、とりあえず宇宙に出られればそれでいい」
カングリアの右足がゆっくりと動きだす。だが格納庫が騒がしいため、誰一人としてアキトの乗るカングリアが起動していることに気づかない。右、左と歩き出すカングリア。
「なんだ、この音まるでカングリアが機動しているような・・・・・・」
整備員の一人がそう言いながら後を振り向くと、そこにはアキトの乗るカングリアがゆっくりと迫ってきていた。
「お、おい、そこのカングリアなにやっている!」
整備員は大声で目の前で機動しているカングリアに呼びかける。整備員の大声にようやく周りの整備員達も気づき始めた。
「悪い、そこを通してくれ」
アキトは整備員にそういいながら、整備員を避けるようにトンネルのほうに進みだした。
「あの声、タチバナか・・・・・・く・・・・・・タチバナ、お前は何をやっている!」
アキトの乗るカングリアは教官の声に反応することなくトンネルの入り口に立った。
「何って、戦いに行くんだよ、高速移動するから、足元の奴らはなれてろ」
アキトが乗るカングリアの背中に付いているブースターが大きな轟音とともに青い炎を放つ。足元に立っていた整備員達は慌ててその場から離れた。
「あいつ、このトンネルを高速移動で進む気か!」
教官の声はブースターの轟音の中でもアキトに聞こえていたらしくヘルメットの中で口がニヤリと動いた。
「このトンネルを高速移動で進むのは俺には当たり前なんだよ」
アキトのカングリアは足元に誰もいないことを確認するとトンネルへ凄いスピードで突入していった。
「自殺行為だ・・・・・・」
一瞬にして格納庫から去っていったカングリアをみて呆然としている教官や整備員達。だがその後をもう一機のカングリアが、アキトのカングリアと同じように高速移動でトンネルへ突入したことに教官達は再び唖然とした。