16 二足歩行搭乗型第二格納庫
二足歩行搭乗型第二格納庫
「お前達いい知らせだ、イーゲル三ツ星達がお前達の訓練を見に来ているぞ」
教官の声が訓練中の新兵のコックピットに響いた。それを聞いた新兵達の反応はそれぞれで、歓喜する者もいれば落胆する者もいた。そんななかアキトは特に反応することなくわざと下手にやる訓練を続けていた。
「それでだ、これからお前達の中から一人、模擬戦の代表者を選びたいと思う」
教官の発言に新米兵達は、悲鳴にも似た叫び声を出す。その反応に教官は、マイクをオフにして、「まったくその通りだと」呟いてまたマイクをオンにした。
「お前らそんな気持ちでどうする、自分がという勇敢なものはいないのか!」
と本人もそうは思ってもいない激を飛ばす。
「あまり煽ると、ターゲット以外の者が手を上げかねないので、そろそろ」
とフユカが教官の耳元で囁いた。教官はその言葉に頷く。
「よし、なら私が決める・・・・・・それでは・・・・・・タチバナお前が模擬戦にでろ」
ほっとする声や歓声が響く中、渦中に投げ込まれた本人はポカンとしていた。
『まずいことになった』
アキトの胸ポケットから、ポンの声が発せられる。
「ああ、こりゃかなりまずい・・・・・・模擬戦で下手くそにやるってどうやるんだ?」
『そこか・・・・・・』
ポンは呆れた声をだした。
『昼食中の探りといい、この模擬戦といい、何か感づいているのかもしれない、間違っても模擬戦で、勝とうなどと思わないことだ』
「ああ」
アキト頷いた。
「それでは今から模擬戦をはじめる、タチバナ相手をしてくれるのは、ゲート三星だ、挨拶しておけ」
「教官、それなら大丈夫です、先ほど挨拶は済ませました」
「そうか」
仮想映像のカングリア二機がお互いに向き合った状態で立っていた。
「青いカングリアがゲートの機体で、タチバナは赤か」
フユカ達はモニターから二人の模擬戦を見つめていた。
「さてどうなるかな」
腕組みをしながら、モニターを見つめる教官。一呼吸置いてから教官はマイクをオンにした。
「それではルールを説明する。勝敗はコックピットに被弾、機体の機動不全など、致命的損傷によるものとする。武装は基本装備の二足歩行搭乗型専用ライフルと、接近戦用ブレードとする、二人とも何か質問は?」
アキトは、自分が操るカングリアの左腕を上げた。
「あの、参りましたは認められますか?」
「認めない」
教官の何の抑揚もない声がコックピットのスピーカーから空しく響く。
「・・・・・・だよな・・・・・・」
アキトはコックピットのマイクに声が乗らない程度の音量で呟いた。
「それでは、二人とも準備はいいな・・・・・・それでは、始め!」
教官の声が響くと、ゲートの乗る青いカングリアが動いた。腰と足についたブースターとスラスターをふかし、手に持っていたライフルを地面に落とした。
「俺は接近戦が得意だからライフルは使わない。お前は俺に遠慮せずバンバン攻撃して来い」
「は、はい・・・・・・」(へーへー接近戦が得意ね・・・・・・)
アキトの赤いカングリアが、ぎこちなく右腕に持ったライフルを標的の青いカングリアにあわせる。
「えっと・・・・・・まあそうか適当に撃てばいいのか」
アキトの赤いカングリアはブースターとスラスターをふかしている青いカングリアのいる方向より大幅にずれた位置にライフルを動かし引き金を引いた。ライフルの弾は青いカングリアの足元から大分離れた位置に着弾した。
「おいおい、俺は動いてないぞ」
ゲートがそう言うのと同時に青いカングリアは赤いカングリアの方向へ自分の操縦さばきをみせるかのように右左へ素早く動きながら接近した。
(やはり、瞬発的な動きをさせなければ分からないか)
ゲートは腰に折りたたまれて収納されていたブレードを抜いた。抜いたと同時に折りたたまれていたプレードが展開し刀状になった。
「おうおう、もう接近戦か」
モニターに映る二人の戦いをみながらパールは呟いた。
「一撃で落ちるなよ」
青いカングリアはブレードを振り上げ縦に振り下ろした。
「うおっ・・・・・・」
アキトのコックピットに衝撃が伝わる。ブレードが赤いカングリアの右肩アーマーに直撃し、そのまま右腕が切断された。
「むっ?」
青いカングリアは刃を切り返し下から上へとブレードを切り上げた。
「おっ・・・・・・」
赤いカングリアは子供が尻餅をつくような感じで青いカングリアの切り上げたブレードを避けた。
「ほう・・・・・・避けたか、だがこれで終わりだ」
ブレードを両手持ちに切り替え、青いカングリアは赤いカングリアの胸に向けてブレードを突き出した。
「チィ・・・・・・」
アキトが舌打ちをした瞬間、赤いカングリアは腰についたブースターの角度を青いカングリアのほうに向けブースターをふかしその反動で青いカングリアのブレードによる突きを回避した。
「な、何!」
赤いカングリアの動きに驚くゲート。その動きをモニターで見ていたフユカ達も驚いていた。
「凄い・・・・・・」
赤いカングリアは地面スレスレの状態で座った体勢のまま高速移動を続けていた。
『何をやっている、あのまま突き刺されれば終わりだっただろう』
ポンの声がアキトの胸ポケットから響く。
「わ、分かってるよ、だがお前は分からないだろうが、コックピットを突き刺されるのは仮想映像であっても気分がいいもんじゃないんだよ」
アキトは人間であるがゆえの感情を携帯端末であるポンに訴えた。
『しょうがない、このまま操作ミスを装って後にある岩場に激突し気を失ったフリをするんだ。
「了解だ、ちくしょうが」
ヘルメット内のアキトの顔は、苦虫を噛み潰した表情で言った。そのまま赤いカングリアは後ろに飛びながら高速移動を続け、フラフラと蛇行しながら岩場に衝突した。コックピットには擬似的ではあるが強い振動が起こりアキトはその揺れを身体全体に受けた。その映像を観ていた新兵達からあああという声が漏れた。
「おい、タチバナ大丈夫か、おいタチバナ!」
アキトはつぶっていた目を片方だけ少し開き、状況を確認すると気絶を装い教官からの返事を無視した。
(・・・・・・これでうまいこと騙されてくれればいいが)
アキトのコックピットに新兵達があつまり、それに遅れて教官やフユカ達もやってきた。
「お前達どけ」
教官がそう言うと、集まっていた新兵達は教官に道を作った。コックピットに駆け寄り外側からコックピットハッチを空けるスイッチを押す教官。空気が漏れる音と共にハッチがゆっくりと開き、気絶したフリをしたアキトが姿を現した。
「おいタチバナしっかりしろ、おい!」
教官はアキトが被っていたヘルメットをとり、手で顔を2、3回軽く叩いた。
「うっ・・・・・・う」
アキトは教官に叩かれたことを合図にして目を開いた。
「大丈夫か、タチバナ?」
「はい」
アキトは頷き返事をした。
「肩を貸してやる、つかまれ」
「だ、大丈夫です」
アキトは教官の言葉を右手で遮り、立ち上がった。
(冗談じゃない、こんなやられ方しといて、人の手を借りられるか)
「すぐに医務室に向かえ、いいな」
「はい・・・・・・」
コックピットから降りるとそこには、ゲートが待っていた。
「すいません、情けない感じで」
アキトはそういうと弱々しく敬礼をし、壁をつたいながらその場から立ち去った。
『ギリギリ合格というところだな』
周りに人がいなくなったことを確認したかのように携帯端末からポンの声がする。
「そりゃどうも・・・・・・」
アキトは周りを確認するとしっかりした足取りで歩きだした。
『だがブースターを使った回避行動は少しやりすぎだ』
ポンの説教に顔を曇らすアキト。
『だが人の心を理解していなかった私にも配慮が足りなかった、申し訳ない』
「えっ・・・・・・? ああ、いいよ、別に」
ポンの急な謝罪に動揺し照れるアキト。
(こいつたまに人みたいな反応するよな)
アキトは頭を掻きながら教官に言われた医務室へと向かった。