11 現在 月基地 会議室
現在 月基地 会議室
「電磁妨害・・・カングリアのおよそ3倍のスピード・・・ふふふ、イーゲルン三星、幻でも見ていたのではないかね?」
襟に十個のバッチをつけた地球側の男がそういうと、その取り巻きである男達が下品に笑った。
フユカ達はアンノンと遭遇したことを地球側の人間達に報告しに来ていた。
「本当です、私は確かに見ました、カングリアの接触映像を見れば分かります」
「落ち着け、イーゲル三星」
下品な笑みを浮かべる地球側の人間とは、どこか違う空気感を持った男がフユカをなだめる。
「確かに君が言うように、謎の機体が現れたことは、我々も君達の機体データで知っている、だがカングリアの性能を上回る機体というのは少し理解ができんのだ」
「で、ですが」
「その性能を見たのは君だけなのだろう、他の二人はアンノンが逃げていくところは見ていない、そもそもそれだけの性能があるのならば、なぜ君達と戦闘せず逃げていったというのだ?」
フユカの発言は地球側の人間には信用されていなかった。
「宇宙空間での肉眼確認など信用できんよ」
にやけた顔をした十星の男がそういうと席を立ち取り巻きと一緒に会議室を後にした。一人を除いて。
「イーゲル三星、アンノンのパイロットはなぜ、今は何年だと聞いてきたのだろう・・・?」
それはフユカにも分からないことだった。フユカが困った顔をしていると、その男は立ち上がり優しく微笑んだ。
「すまん、そんなこと聞いても君にも分からないな」
そう言って男は会議室を後にした。フユカは考えこむように俯いていたが、フユカの後にいた仲間二人は敬礼をした。
「はぁ・・・」
長い金髪を後頭部で束ねたいかにも軽そうな男が、行儀悪く椅子に座った。
「たく、まったく取り合ってもらえない感じだったな、馬鹿にしやがって地球の奴ら。そう思わないかゲート?」
「その辺にしておけ、聞かれたら首が飛ぶぞ、パール」
体格のいい短髪で黒い肌をしたパールがそう言うと、ゲートはふて腐れた顔をした。
「へいへい・・・・・・にしてもあの人だけは別格だな、ガイズ十星、あの人だけは地球側なのに俺達のこと理解してくれている」
ゲートは両腕を頭の後にやりながら椅子の前足を立たせバランスをとるような姿勢になった。
「ガイズ=ベイガー十星、地球側の政府人であるが、月側、我々の発言を唯一まともに聞いてくれる、ある意味地球側の最後の良心といったところか」
テーブルの上に置いてあった飲み物を手にとり口に運びながらゲートはそう呟いた。
「口を慎まないと首が飛ぶぞ、ゲート」
ゲートの言葉に頷きながらもさきほどのお返しとでも言うかのようにパールは嫌味を言う。
「ふふふ、これはただの独り言だ」
パールの嫌味をものともしないゲート。パールの舌打ちが部屋に響いた。
「しかし、この会議は無駄だったな・・・・・・最初から分かっていたような気がするが。まあしょうがない。フユカ、食堂で飯でも食おう」
「あ、ああ・・・・・・」
フユカは納得できていない様子であったが、ここでそれを考えていてもしかたがなかった。三人は納得することはできなかったが、会議室を後にした。