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剣と魔法と怪物の物語  作者: 沼津幸茸
仮借なき探究
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序章

 日の光の届かない地下に構えられた暗い研究室の闇の奥で、彼は人を超越したその頭脳を存分に働かせ、重大な思索に耽っていた。

 彼はその存在の至上目的とする魔術に関する実験に挑もうとしていた。それは彼の不死性をより高めるための方策であった。既に技術的問題は粗方解決しており、実践を残すのみとなっていた。

 しかし彼は、長い時間を費やすこととなるその実験を単にそれだけで終わらせる気にはならなかった。何らかの方法によってその他の計画と連動させ、別の利益を取り出したいと彼は思った。

 いくつかの検討を加えた後、その実験を彼の存在の第二目的の前提条件となる大陸統一事業と関連させることを思いついた。

 しかし、その実施に当たっては慎重にならざるを得なかった。新王国の成立と拡大そして衰退。トロネア第一王国の破滅とそれに続く帝国の成立。時に陰に潜む劇作家として、時に名を替え姿を替えて俳優として、彼は大陸史の要点の数多くにしばしば介入し、大王国滅亡以後の歴史の黒幕として暗躍し続けてきたが、これはその存在が露見していなかったからこそ行ない得たことであった。

 彼は人類を超越した存在であり、或いはこの世の誰よりも優れた魔術師でもある。しかしながら、彼は決して大陸の住人達を侮ってはいなかった。彼ほどではないにしろ優れた魔術師が数人、優れた戦士を十数人も率いて彼と対峙するようなことがあれば、彼ほどの存在であっても打ち倒されかねない。一軍を相手取る破目になれば最早逃げ去ることさえも難しい。つまるところ、彼の――彼自身も自覚している――人類に対する優越性とはその程度のものでしかなかった。

 それにも関わらず、信頼できる筋を通じて得た情報を眺めるに、彼の存在は少しずつ隠れ蓑で覆いきれない巨大なものとなりつつあった。既に歴史研究者の中には介入者乃至その集団の存在の可能性を指摘する者がおり、魔術学院の高位魔術師達もまた歴史に介入する魔術師の存在を認識し始めた気配がある。彼の名に辿り着いた者がいるとは考えられないが、彼のような存在について確証を持ってしまった者は確実に存在するはずである。確実に彼の正体を知っており、その事業を意識的に阻もうとしているとしか思えないイブラムーン・リュナティクの存在もある。状況は予断を許さない。従って、介入作業は調査の手が彼に届くことのないよう、より一層の注意の下、秘密裡かつ最小限の規模で為される一方で、成し得る限り大なる効果を挙げるものであることが必要であった。

 彼はまず、何を為したいかと何を為し得るかを同時に検討することから始めた。いつどこで何をどうするか。誰を舞台から取り除くか。誰を高位に押し上げるか。何を大陸に放り込むか。いかなる波紋を投げかけるか。いかなる混乱を鎮めるか。そのために何が使い得、何が使い得ないのか。与件からいくつもの選択肢を作っては消していった。儚い定命者とは規模の異なる半ば凍りついて静止した壮大な時間感覚の中で彼は考えを進め、並行して様々な手段を駆使していくつもの駒と道具を取り調べた。

 そうして思案が続く傍らで、地上では季節が移ろい、花が咲き、散り、麦が実り、雨が降り、雪が降り、融け、新芽が顔を出し、また花が咲き、また散った。彼は飽くことなく、頭脳の中で計画を練り上げては崩し、崩しては練り上げることを繰り返す日々を過ごしていった。計画は打ち崩されるほどに強靭なものとして蘇り、辛抱強い鍛造作業の末に一つの完成を見た。

 彼は長い長い思索と計画の果て、遂に腰を上げ、行動を開始した。

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