プロローグ ゆずれぬとが
この物語はコメディ要素をあまり含んでいません。
ので、笑えるお話が読みたい方は猫日記にワープです。
あの日から、あたしはちょっとばかり無茶を始めた。
「なぁ、頑張るのはもういいんじゃねえか?」
「あによ。嫌なら別れればいいじゃない。じゃ、ばいばい」
「ばいばい言うな。絶対に別れてやんねぇ」
「なにそれ、ひどくない?」
「ひどくて結構。それに、俺がいないとお前絶対に思い詰めるし」
「………ま、そりゃそーだけどね」
「………お前、進路どうするんだ?」
「地元か東京かな。どっちになるかは成績次第」
「地元にしとけよ。俺、家継がなきゃいけないし」
「どっちになるかは、あたしの成績次第?」
「最初から決めてるくせに、適当なこと言ってんじゃねぇ」
「………そうだね」
「はっきり言っておく。お前のやっていることは、全世界人類を平和にするより難しいことだ。っていうか、世の中甘く見るな」
「……それ、きつい」
「でも、俺だけは応援してやる。好きなようにやれ」
「………………ごめん」
「いーんだよ。俺は頑張ってるお前が好きだから。だから、頑張れ」
「……頑張れなかったら、どうすればいいのかなぁ」
「彼氏にでも慰めてもらえよ。目の前にいるんだし」
「……そっか」
「そうだ。だから、頑張れ」
「うん、頑張る」
彼氏がいる幸せなあたしは、毎日毎日間違い続ける。
ひとは、利口には生きられない。誰もが間違えて、誤魔化していく。
一年前のあの日、あたしは間違えた。
間違えて、間違えただけならまだしも、反省すら間に合わなかった。
歩きながら、あたしはそのことを思い知っていた。
「あーあ……」
雨が降る。今日は雨が降っている。
あの日と同じ、雨が降る。
あたしはささやかな希望が砕かれることを知っている。
雨が降る。
あたしは手放してはならない罪と罰を知っている。
雨が降っていた。
あたしは、これ以上ない程に思い知っている。
六法全書を開いて、あたしはペンを走らせる。悔いはある。たくさんある。ありすぎてよく分からないけど、とにかくあたしは弁護士になる。
弁護士になって、いっぱいお金を稼ぐ。
お金があれば、彼女を助けられるから、あたしは頑張る。
あたしは、絶対に彼女を助ける。
それが、あたしがあの時に誓ったこと。
誰にでもなく、ただ、あたし自身の魂に誓ったのだ。
「……ったく。どの口でそんなことを言うのやら」
あたしは、ペンを走らせながら苦笑する。
毎日毎日間違えて、あたしはいつも思い知る。
あたしは、馬鹿だということを。
みっちゃんが間違えたこと。
それは、人らしい間違えでもありました。
次回、前編『みすてたもの』
あなたは、見捨てず助けられますか?