表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1/5


「久しぶり、竜也」


「…凛?」


何年振りかなー?一年と半年振り―?と手を振ると、美形の幼馴染は今までどこ行ってたこの馬鹿!!と怒鳴った。






今から一年と半年前、私と私の幼馴染は異世界召喚なるものを経験した。というか、経験中。

実際に呼ばれたのは幼馴染の藤川竜也くんで、私こと綾坂凛は光の渦に呑み込まれる幼馴染をぽかんとした顔で見守ってただけだった。

地面の上に右手だけが残った時に我に返って、え、え、ええ!?とか混乱して足を一歩前に踏み出したら、何でだこれ。自分の足に蹴つまづいてこけた。

地面に顔面から激突!そんな状況を覚悟したのに、何故か地面はぐにゃり。私を呑みこんだ。

そして気がつけば竜也と二人、いかにも何かの儀式の最中ですと言いたげなローブ姿の面々に囲まれて、薄暗い部屋の中央で倒れていた。


異世界召喚もののお約束。呼ばれた人の役割は勇者か巫女か。前者は大体男で、後者は大体女。

今回は前者で、目的はこれまたお約束な魔王退治。そしてまたまたお約束なことに、選ばれた勇者様は正義感が強いときた。


私からしてみれば、自分達の世界で起きたことを他の世界の人間に解決してもらおうとかふざけんなよ、なんだけど。

しかもね?戦争も知らない子供達なわけよ。人の生き死ににも関わったこともない子供達なわけよ。その子供達に魔王を殺してくださいとか何よそれとか思うわけよ。いい年した大人が。

自分達の子供がいきなり知らない世界に召喚されて、あなたは勇者だ。魔王を殺して世界を救ってくださいとか言われたらどう思うのさ。想像力の欠如だよね。それとも自分中心な大人が多いのかな。お前達も同じ目に遭ってしまえ。知らない世界に召喚されて、勝手に役割背負わされてしまえ。


毎晩お祈りを捧げてます。

ええ。連れにはお前、それ呪い、と言われましたが、お祈りです。

叶えてくれるよね?光の女神様。だってこの世界の人達のお祈りに応えて竜也の召喚に力を貸したんだもの。もちろん私のお祈りも叶えてくれるよね?


まあ、話は逸れましたが、そういうわけで、竜也はこの世界の勇者様の肩書をあっさり受け入れました。

いや、あっさりってわけでもなかったけど、内心ぐるぐるしてたみたいで、マシンガントークかまされましたが。とりあえず竜也を召喚した人達、お城の人達と一緒に過ごすうちに、竜也は俺が魔王を倒す!という使命感溢れる勇者様になりました。


が、ここで問題ひとつ。私だ。

巻き込まれただけの私は勇者じゃない。でも勇者の幼馴染という重要ポジション。一応丁重に扱われてはいた。けどそれは勇者のオプションのひとつとして捉えられているということでもあった。

うん。つまり、私も勇者の魔王退治につきあえ的な雰囲気がすっごいしてた。っていうか、多分これ確定事項だった。


竜也は召喚された時点で、どうやら光の女神様からいろいろな力をもらってたみたいで、見事なまでのチートな勇者様だった。それでもって容姿も整ってるからもてたもてた。幼馴染ってだけで側にいる私に向けられた敵意は凄かった。


…これ、いっつも思ってたんだけどさ。好きな男の子の幼馴染の女の子に敵意丸出しって、すっごい馬鹿な行為だと思わない?

だってさ、幼馴染だよ?小さい頃からずっと一緒にいるんだよ?それ味方につけたらすっごい有利じゃない?恋敵いっぱいいるなら尚更さ。


なのに見下して嘲って私の方がふさわしいのよあんたなんかあの人にふさわしくないわーみたいな態度ってさ、ただの馬鹿だよね。こっちはそっちの悪口いっぱい吹き込めるんだよ?あの人にこんなこと言われたーとか泣きつけるんだよ?出会って間もない女の子とつきあい長い幼馴染、普通どっち信じるさ?


もしかして美人は誰にでも優先されるとか思ってる痛い人ばっかりなわけ?

平凡な幼馴染と自分に好意向ける美人なら、美人の言うことの方を信じるっていう竜也を馬鹿にした考えかたしてる人ばっかなわけ?


まあ、いいけど。

所詮、竜也が外見で人を信じる人間だって思われてるってだけだし。すっごい失礼な話だよねえ。

願わくば竜也くん。アンジェリカ姫と巫女リリアンと剣士のモニカと魔法使いのミリーと侍女の皆さんだけは恋人に選ばないでね?幼馴染として絶対にお勧めしたくないから。


勧めるなら第三王女のユリカ様だなあ。いいよあの人。引っ込み思案なとこあるけど、私に唯一普通に接してくれた人だよ?二人でこっそりお茶会とかしたんだ。私の話を聞いてくれて、私の知らない話もしてくれて。あ、意外と情報通だよ。情報が自分の身を守るんだって。勉強になった。

でね、控え目な人だから目立たないけど、笑うと花が零れるみたいでね。かっわいいの。あの人いいよ。すっごいお勧め。


あ、でも竜也無自覚ハーレム男だからなあ。しかもハーレム要員、いっつもあんまり好きじゃない人ばっかなんだよ。そんな人侍らしてる竜也とくっついたらユリカ様が辛い思いするよね。

やっぱなし。ユリカ様にはもっといい人いるから。絶対いるから。変な女が寄ってこない、寄ってきてもちゃんと気づいて撃退できる人がきっといる。


竜也は寄ってくる女の性格の悪さに気づかないからなあ。その人のいいところ見つけるの得意なのはいいことだけど、悪いところをいいふうに解釈するのはいかがなものか。何度言っても分からないみたいだからもう言わないけど。


で、何の話だったっけ?

………はーれむ。

………………その前だ。何話してたっけ?

………………………………ああ!私ね。私。


勇者と一緒に魔王退治、とかさ。できるわけないじゃん。何の力もないんだしさ。

でも大きな権力に逆らったらどうなるか、なんて考えるだけで怖いし。第一、この城追い出されたら知らない世界でどうすればいいわけ?


とかとか思ってたら、だ。

まあ、追い出された。

誰にってハーレム要員のお姉様方に。


お姉様方は竜也と一緒に魔王退治に行くのだとかで、そこに幼馴染の私までもついていく、なんて邪魔で邪魔で鬱陶しくて。しかも戦えないしね。お荷物にもほどがある。

そこでお姉様方は考えた。邪魔な私がいなくなれば、竜也との仲を思う存分進展させられる、と。

何しに行くつもりなんだろうね、この色惚け婆達。


私は色惚けばばあ、じゃなくて、お姉様方に囲まれて、しかも剣突き付けられて、目の前で呪文の詠唱もされて。そんな状態で置手紙を書くことを強要されました。まる。

っていうかさ、私がこっちの文字で書けるわけないっての。竜也様はお書けになるのに、幼馴染だなんだと言っても所詮その程度なのですねオホホとか言った馬鹿女達は竜也が言った話の何を聞いてたんだろうか。光の女神の力でチートになったんだっての。頭空っぽはこれだから困る。


まあ、そんなこんなで、なら私の世界の文字で書けって言われて。魔王退治なんてしたくありません。怖いです。私は逃げます。さようなら。

言われたとおりに書いた。

いや、お姉様方は読めないよ?読めないくせに脅してるから言った通り書いたと信じてるんだよこの馬鹿、いや、お姉様方。私が逆らえないって思ってさ。

だから最後にこうも書いといた。


って書かないと殺すって言われた。もう忍耐力の限界。こんな国の言うこと聞いて誰が戦うか。あんた一人でやれ。


書き終わった途端、満足そうに笑ったお姉様方に、ほいっと捨てられた。

まあ、一応?人としての情で?幾許かの路銀はくださって?こんな大金本来ならばあなたなど手にとるのも不遜ですのよ?とかお前が稼いだ金じゃないだろなことを言われて捨てられた。


人としての情ってなんだ。

知らない世界に無力の女の子をポイ捨てすることか。

大体お金もあれだよね。竜也にばれないためにあんまり城を留守にできないからって城からあんまり離れてないところに捨てたもんだから、旅に出た竜也に無一文でふらついてるとこ見つけられるのも、ここら辺で死んで竜也に知られるのも避けたかったってだけだよね。


まあそもそも?私みたいな子供が大金持ってたら怪しいうえに、襲われて強奪されるなり殺されるなりするのが当たり前だと思うんだけど。

結局いいとこのお嬢さんばっかりだから気づかなかったんだろうなあ。


そんなこんなでポイ捨てされた私は、城にいた間に知り合った庭師のおじいちゃんに周辺の地理を教わってたおかげで自分がいるところがどこかは分かった。

まあ、それだけだけど。


これは路頭に迷うフラグだ。

そんなことを思ってたところに、私の前に天使様が現われた。全身黒一色の天使様だ。

肩まで長い髪をざんばらに切った、黒っていうか、闇色?そんな目と髪の色をした陰気くさい美形の天使様だった。


とりあえず何をしてるのか聞かれたから一部始終話した。

いや、何かもうこのまま見捨てられても死ぬ気がするし、話しても不敬罪だーとか嘘つきやがってーとかで殺されてもおかしくない気がしたから、ならもう言いたいこと全部話しちゃえーと。

うん。やけになってた。

でも黒い天使様はしばらく顎に手を置いて考えた後、なんとまあ拾ってくださった!


黒い天使様について旅をしながら、いろいろと教わった。お金の使い方とか、この世界の常識とか、何かもういろいろ。

その代りに私も私の世界のことを教えた。っていうか、聞きたがったから話した。楽しそうに聞いてくれるから話し甲斐はあった。うん。


あ、私が持たされた路銀は私が欲しいもの買う時に使え、って何か次元切り裂いたっぽいとこにぽいっと片づけて、呪文みたいなの教えてくれて。これが私の荷物の収納場所の暗号みたいなものだから覚えとけって。…ロッカーと鍵みたいだ。


この時、この人きっとただものじゃないんだろうなあと思ったけど、実際ただものじゃなかった。

魔物も獣もこの人見たら逃げてくし、夜盗とかはてんで相手にならないし。強いのなんの。

で、一応私にも戦える技術を教えてくれて。

こんな世界だから覚えておく方がいいってことで、体術とか剣術とか槍術とか棒術とか。あんまり身につかなかったけど、護身術程度は身についたからよしとするって言われた。

でも魔法はどうやら相性がよかったらしい。吸収率半端ないって言われた。半年も経てば世界で三つの指に入る魔法の使い手だって呆れたように言われるようになった。


魔法は面白かった。

いや、壊したり殺したりするのは怖かったし嫌だったけど、ここで生きていくためにはそうしなきゃいけなかった。割り切ることを覚えた。そうじゃないと私が死ぬ。

だから面白かったのは新しい魔法を覚えること。そして編み出すこと。

こんなんできたーって見せたら感心されて凄いって褒められるのは嬉しかった。一緒に新しい魔法考えるのも楽しかった。


そんなこんなで一年。

黒い天使様の正体をひょんなことで知りました。

なんとまあ、黒い天使様は魔王様の弟君でした。ええ。


何でもお父さんが魔王だった頃、王位継承とかで揉めて。継ぐ気はないのに兄からは目の敵にされて。よいしょしてくる人達は鬱陶しくて。もうやってられるかって城を出たらしいです。で、ふらふらっと世界を旅してるんだとか。

…大変だったね。城にいた頃のあれやそれやを聞いて、思わずぽんっと肩を手で叩いてしまった。


で、今、ほら、勇者が召喚されて、魔王退治ーって話になってるでしょう?でも魔族達の中では今こそ魔王を倒して王位に就け―。そして勇者と和解してーとかって話になってきたみたいで。

お兄ちゃんの暴走らしいのよね。横暴な政治して、国民に迷惑かけてるの。人間社会と一緒だね。


私に正体がばれたのはそのせい。

懇願にきた魔族さんと懇願されてる同行者を見ちゃったからです。

凄かった。土下座してたのが、今度は足に縋りついてお願いです!後生です~!!って泣いてた。凄かった。


何かね、人間にはこの世界は自分達のものって考えが根底にあるから、魔族を害為す者って思ってて。滅ぼす時を虎視眈々と狙ってるんだって。だから魔王の横暴政治は人間に魔族を滅ぼす絶好の口実を与えちゃったんだって。


ああ、そりゃ必死になるよね。

思わずがんばれがんばれ、フレーフレーって魔族さんの後ろで応援しちゃった。裏切り者!って顔された。後で逆襲されました。

……うん。言いたくない。すっごい恥ずかしかった。あの男、恥というものを知れ。


でもほら、やっぱ故郷でしょ?それに継承争いが嫌で国出ただけで、国が嫌いなわけでもないから結局頷いちゃって。でも私も一緒って条件つき。

うん。そりゃね?一緒にいるうちに好きになっちゃいましたとも。恋人になっちゃいましたとも。でもねえ、出会って一年で妃の肩書はいらない!まだ早いから!婚約者ひとっとびしたよ!?


そんなこんなで魔族の国に帰りました。魔王様と戦いました。二人で。

だってほら、私も魔法使えるし。戦えるし。終わった後、二人揃って返り血浴びてたのはシュールだった。同行者は黒い服だから目立たないけど、肌白いから顔についた血は目立った。

私は何でだ。白い服を着てた。何を考えてた私。いや、私が着る服は毎朝同行者が決めるから、彼が何考えてた。何も考えてなかった。絶対。真っ赤に染まった服見て、しまったって顔してたし。


その日から同行者は魔王様になりました。私は魔王妃様になりました。

何か最強夫婦万歳とかいうくす玉作られた。なにあれ。最強夫婦ファンクラブ会員一同ってなに。


で、半年。

勇者一向の旅は一応把握してた。世界中の鳥の目を通して追ってた。水晶玉に映るようにした。好きな時に見てねーって感じで。

で、見てて思ったけど、ハーレム要員増えてるよおい。元々いた姫と巫女と剣士と魔法使いの他に、盗賊と踊り子が。おまけに行く先々で美人のパトロン捕まえてるし。こっわいな、竜也。あれ無意識だから余計怖い。何かの呪いじゃないの。


それで勇者一向がどうやら廃墟になった神殿に伝説の装備のひとつ、伝説の盾をとりに行くっていうんで、じゃあここらで話し合いにいこっか、ってことになった。


国の弱みはいっぱい探って握ったし。王様はいっぱい脅したし。後は勇者一向を止めれば万事解決。

え?話し合いはちゃんとしたよ?梨のつぶてだったから、最終手段使っただけで。あくどいこといっぱいしてた神聖国家とやらが悪い。


初めは魔族の言うことなんて誰も信じないーみたいな態度だったから、神聖国家の同盟国の中でも一番大きい国に教えちゃったら、うちの国に協力してくれた。弱み教えてくれてありがとーって言われた。

その国からも脅されて、ようやく危機感感じたらしくて。ちゃんとした話し合いとをしてくれた。書面にも残した。


でも勇者一行は止められない、とか馬鹿言った。

まあ竜也に世界を救ってくれとか言ったからね。魔族は敵、魔王は世界を滅ぼすとか言ったからね。いきなり和解しましたーって誰も納得しないよね。正義感強い勇者は特に。


なので直接対決。


……前フリ長かったね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ