ティータイムの告白
太陽の輝きが少し落ち着いた頃、メラと千鶴で二人きりのティータイム。
素晴らしい薔薇園を見ながら美味しい紅茶を片手に、楽しいおしゃべりに花を咲かせるのが日課なのだが、どうも千鶴の元気がない。
「どうかされたのですか? 落ち込んでおられるようですけど……」
メラが尋ねると、千鶴が曖昧に笑う。
喋りたい事はあるが、言いだしづらい内容なだけにどう話を切り出そうか迷った。
「えっと、ね。落ち込んでいるわけじゃないんだけど」
「そうなんですか? てっきりエブァン様と出かけられた先で何かおありになったのかと」
千鶴は今、エブァンの母親が住んでいた屋敷にいる。
この世界に来てから当然のように城へ案内しようとするエブァンを、バルバラ卿夫婦が止めたのだ。
いきなり王城へ上がっても、何も知らない千鶴が傷つくことになりかねないと。
正直、王城へ行くにかなりの抵抗を感じていた千鶴はほっとした。それ以来、メラにこの世界のこと、政治や貴族社会のことについて教わりながら過ごしている。
つい先日、エブァンの誘いで千尋は王城に出かけたのだ。
「うん……」
「王城で嫌な目にあわれたのでは?」
「やっぱりエブァンの傍にいたから、何もなかった訳じゃないけど。そこは私も覚悟していたことだし、あからさまなのはエブァンが上手く制裁加えてくれたからね」
千鶴の顔が若干強張ったのを見て、メラは頷く。制裁の内容については触れないほうがよさそうだ。
「王城の庭は見事だったし、それこそ貴重な花とかいっぱいあって素晴らしい景色だったんだけどね」
「はい」
「けどね、庭にいたのは私達だけ、じゃなかったのよ」
「確か王城の中には王族専用の庭があったと思いますが、そちらには行かれなかったのですか?」
「結構見て回ってる人多かったんだけど……やっぱり、普通の王族は人が沢山いる庭とか行かないよね?」
「表の庭に行かれない訳ではありませんけど……」
表の庭で王族を拝見したって方は聞いたことありません、とは言えなかった。
その言葉で全てを悟ったメラはため息を一つ落とす。
「エブァン様もしょうがない方ですね」
「うわわわぁ!! やっぱり!!」
頭を抱えて千鶴は早口でまくし立てた。
「おかしいと思ったのよ、エブァンが庭に出た瞬間皆固まってたから。し、しかも、いつもより近かったし、甘い顔でにこにこしてたし!! 皆が注目するしている中、庭を歩き回るなんていたたまれなかったわ」
「チズ様、きちんと笑顔はお保ちになりましたか?」
「なんとかね……引き攣りそうになるのを必死に我慢したわ」
千鶴は沈んだ声音で呟いた。
「もう王城いけない」
「それは……無理だと思いますわ。潔く諦められたほうがいいです」
後がないところまで追いつめられたことに気がついて、千鶴はテーブルの上に突っ伏した。