再び会う日
運命、といったら言い過ぎかもしれない。
気後れするほどの重みを含んだ言葉は、私の心を急速に侵食し、支配していく。
私の心で受け止めきれない想いが涙となって流れる出る。
震える拳をぎゅっと握りしめ、視線は銀色の髪に固定されたまま、くらりと夜の世界が揺らいだ気がした。
ずっとずっと待っていた。
落ち込んだ時も、辛い時も、諦めかけた時も、この時を糧に頑張ってきた。
もちろん長い年月の中でもう迎えに来てくれないのではと思ったことがないわけではない。
けれど、それでも諦めきれないほど私はこの人が好きなのだ。
月の光に輝く髪が煌めいて、最愛の人が振り向いた。
少し困った顔をしていたその人が、驚愕に顔を強張らせた。
私は走って胸に飛び込んだ。
積もり積もった想いをぶつけるように。
勢い余ってしまい、背中を塀にしたたかにぶつけてしまったらしく、上からうめき声が聞こえた。
恐る恐る上を向くと、穏やかな微笑みが降ってきた。
ますます視界が涙で歪んでいく。
「遅くなってごめんね、チズ。迎えに来たよ」
記憶より低い声で囁いた。
冷たい指先が髪をすいてさらりと落ちてきた束が頬をくすぐる。
懐かしい抱擁に嬉しくて嬉しくて詰まった呼吸の中からかろうじて言葉を紡いだ。
「待ってた」
背中に手を回し力いっぱい抱きしめると、エブァンの抱きしめる力が強くなった。
それが、エブァンも再会を喜んでくれてるんだと感じて、嬉しくなる。
「会いたかった」
「僕も」
少ない言葉でも心が繋がってるのが解るのは、痛いほど抱きしめられてるからに違いない。
圧迫感が消えて、長く冷たい指先が顎を捕らえた。
瞼を閉じると溜まった涙がまた頬を伝う。啄むような口づけに酔いしれた。
始まりは18歳の誕生日。何の前触れもなく違う世界に飛ばされて図らずも私は拾われた。
ただ拾ってくれた人が私を亡くなった娘と思い込んでいただけ。
生きていくために恩のある人を騙し続けることに罪悪感が膨らんで、押しつぶされそうになっている時に救ってくれたのがエブァンだった。
エブァンがいたから私はこの世界に帰ってこれた。
再会の余韻に浸っていると、足元に不意に何かが当たって一瞬息が止まった。
「ひぃっ」
「ニャー」
下から鳴き声がしたと思ったら黒ぶちの猫が私の足に擦り寄っていた。
これまた懐かしい再会だった。
「ヨモギ? ……なんでここに?」
説明を求めて顔一個分上にあるエブァンを見ると、視線をさまよせた後、口元に拳を当てて柔らかく苦笑した。
「実は僕もここまでヨモギに連れてきて貰ったんだ。もしかしたら見ていられなかったのかもしれないね」
「まわりの人にはきちんとこっちに来ること言ってきたのよね?」
嫌な予感を感じつつも恐る恐る尋ねると、エブァンは軽く頭を振った。
「だったら早く帰らないと大変なことになるんじゃない!!」
「……かな。でも暫くは大丈夫、向こう戻った時になんとかするよ」
相変わらず余裕そうにくすくす笑うエブァンに、混乱していた私も釣られて苦笑した。
エブァンは違う世界の王子様だ。
だから突然王子が消えてしまってむこうは騒然としてるはずだし、心配している人がいることも分かる。
でも、不謹慎だがエブァンが傍にいてほしい。
そして、傍にいたいのだ。
「しばらくこっちに居るから」
「うん」
顔をエヴァンの胸に埋めて、抱きしめる力を強くする。
これからは永久に共に。