君
あなたとのことを思い出にしたいから――。
苦しみから逃れるための勇気
大好きだった。
確かに好きだった。
人に胸をはっていえるよ。
でも自分が好きだけでは苦しくて、見返りが欲しくてしょうがなかった。
どんどん離れていく気持ち。
ずいぶん前から分かっていたけどここまでくるのに大分かかった。
私なりに悩んだよ。
でも悩むだけで何も解決しなかった。
そろそろ楽になってもいいでしょ。
考えるのに疲れたの。
これ以上傷つきたくなくて、前に進みたくて。
玄関の靴箱にコトリと音をたてて鍵を置いた。
二度と来ることがなぃだろうと思うと、床に散らばった雑誌や窓の外で風に揺れている洗濯物。
その向こうの青い空。
もう気にならなくなった電車の音。
マンションの廊下から聞こえる人の足音。
その、どれもが日常なのに急に愛しくなる。
涙がでるほど離れがたかった。
気が付いたら痛くもなぃのに胸を抑えてる両手が目にはいった。
なんだか切ないな。
のろのろと靴を履いて、後ろを振りむかずドアノブをにぎる。
変化を望み、自ら動く。
勇気と覚悟。
必要なのはただそれだけで。
後で後悔すると分かっていても、苦しくて泣くと分かっていても
あなたとのことを思い出にしたいから。
すぐ後ろで響くドアが閉まる声は私の悲鳴のような気がした。