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パントマイムの短編集  作者: パントマイム
-単独短編-
1/6

欠けた人形

私は穏やかな笑みを浮かべるお人形。

きっと貴方に会えないままなら壊れてたからー…

この想いは後悔しない。

暗殺者x感情を忘れたお姫様

日は完全に落ち、空は黒く塗り潰された。

そして無数の星の瞬きと、満月の強い明かりが空を幻想的な美しさに仕上げていた。


リズは鉄格子がはまった窓から見上げて感動し、誰にも祝福されない恋心を、天は味方してくれていると強く感じて胸を弾ませた。


もうすぐでやってくる私の大切な人。


鳥籠に阻まれて外を知らない無力で愚かな私に数えきれない程のかけがえのないモノを教えてくれた。

笑うことも、喜ぶことも、泣くことも、苦しくなることも、辛くなることも、全て。

壁に掛けられた絵画のようにこの家の装飾品でしかなかった私に、人としての生を吹き込んだ人。


「リズ」


待ち遠しかった声が聞こえ、弾かれるようにベットから立ち上がり、駆け出した。


「ティオ」


勢いをつけたまま抱きついても揺らぐことはなく、くすくす笑いながら抱き止めてくれた。

厚い胸板に頬を擦り寄せる。


「…会いたかった」


堪らず思った事を口にするとティオは呆れの混ざったため息をついた。


「なんだかなー。僕、獲物になつかれるなんて初めてだよ」


頭3個ほど上にあるティオの顔はどことなく困っていた。けれど嬉しそうでもあった。


「私…ティオになら殺されてもいい」

「リズは別に誰に殺されても何にも思わないでしょう」


ティオはリズの頭を撫で、時々髪をすきながら絹のような感触を楽しんでいた。

それが心地良くてリズはティオに身を委ね、目を閉じた。


「今は違う。殺されるなら、ティオがいい」


ティオは無言でリズを抱き上げると、ベットに横たえて、触れるだけのくちずけを落とした。

優しい柔らかな感触に慣れなくて、恥ずかしくて、勝手に頬が紅く染まっていく。


「会った時と大分反応が違うね。あの頃は喉に刃物をあてても感情の変化はなかったのに」


覆い被さっているティオの首に腕を巻き付け少し引き寄せた。


「私はただ在るだけだったもの。飾る花や美術品と一緒。この家の権力の誇示のために創られたモノだわ。無くなっても残念とは思えど誰も困りはしないわ」


何でも無いことを告げたつもりなのにティオの顔が曇った。

何故なのか分からなくて慌てる。


「…ティオ??」


伺うように声をかけるとため息がかえってきた。


「妙な暗殺依頼の意味が分かったよ。魔物か、或いは魔法がかけられた動く人形か。殺した後、確認して報告しろとね」


ティオの手のひらが胸の上に置かれた。

首にまわしていた腕を解いてその手に重ねるとちょうど棺桶に入っている死体を連想させた。

死んだ時はティオがともらってくれたらいいと漠然と考えた。


「リズは人間だよ。ちゃんと心臓も動いてる。生きてるんだ。だから、暗殺業を生業としている僕より先に、死なないでくれ」


それは懇願なのか、祈りなのか。再度落とされたくちずけに、生まれて初めて涙した。

顔の横で両手の手のひらを合わせて離れないように指を絡める。


「ティオ…貴方を愛してる」


ティオは眉根を寄せて何かに耐える仕草をした。リズは更に言葉を重ねる。


「私には貴方だけなの。貴方がいれば私は何も要らないわ。例え人から羨まれる境遇に居たって貴方がいなくては意味がないから」

「リズ…それはどういう意味か分かってる??」

「ええ」


ティオは壊れ物を扱うように丁寧にリズを上半身だけ起こして肩を抱いた。


「僕は奪うしか能がない人間だ。何かを得る方法なんか分からない。僕が言う、守るなんて言葉はきっと砂の城のように脆いよ。一緒にいたらリズが傷つく。それは僕は望む事ではないから…だから君はこのままでいてくれ。手の届かないままで」

「どうして?ティオはこんなに近くに居るのに」


額を合わせ、目を伏せて手を合わせ、指を絡める。吐息さえ感じられるほど近い距離。

この手を離すことなど出来ない。


何にも変えがたい程大切な人。


「ティオは…幸せって、何だか知ってる??」


脈絡がない突然の質問に疑問を言うでもなく、いや、と答えるティオに笑みがこぼれた。


貴方が私とって、どれだけかけがえのない存在か分かってない。


「私の幸せは、ティオが傍に居てくれること。声が聞けて、私の言葉に答えてくれて、抱き締めて、優しいキスをしてくれること。私はその幸せを感じる為に生きてるの。だから…」


リズは枕元に隠し持っていた短剣を取り出して鞘から引き抜いた。

目を見張るティオの前で腰まで伸びた髪をバッサリと断ち切る。


「こんなものイラナイ」


はらはらと手から髪が落ちていく。

短かった頃など記憶がないほど伸びていた髪がなくなって首元がすうすうとして何だか頼りなった。

ティオは周りに広がった髪を見て呆然として、声がでないようだった。

やはり年頃の娘が髪を切るなど常識では考えられないだろう。

けれどティオと生きていくには邪魔だったと思うから。


「ティオ、私が生きるのは貴方の傍よ」


リズの唯一にして絶対の願い。

意思のこもったリズの視線を受けて苦笑をもらしたティオが見たことも無い程穏やかな顔をした。


「リズ…僕は神なんて存在は信じないけれど今だけは神に誓うよ」


ティオはリズの両手を包んで額に軽くつけた。


「愛し、敬い、慰め、助けて変わることなく、健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の日の続く限り、君に永久の愛を捧げる事を誓おう」


二人は欠けた部分を互いに補いながら生きていく。


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