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時代遅れの戦闘員  作者: 二項定理
7/8

ACT・6 晴天の霹靂なキツネ

お待たせ致しました。


因みに、この話以降前書きには、ストーリーパートだったらS、キャラパートだったらCと書きますのでご了承ください。


今回の話はCでございます。


 晴天の霹靂という言葉がある。

 思っても見なかった突然の大事件や、突然受ける思いもよらない衝撃のたとえだ。

 晴天は「青空」をさし、「霹靂」は雷鳴を意味する。


 例えるなら、転生チートもの小説の主人公などがそうだろう。彼ら(もしくは彼女ら)は突然、トラックやら隕石やらで殺されて気づいたら神様に謝られている、というまさに晴天の霹靂といっても過言ではない状況に呆然としたはずだ。


 まぁ、俺の場合。


「なんで、トラさんが……?」


 トラさんがメイド喫茶で働いていたことが晴天の霹靂である。



ACT・6 晴天の霹靂なキツネ



 野良怪人撲滅から数日。俺は今日、非番である。なので、先日昔の部下から貰った喫茶店の割引券を使うことにしたのだ。その部下が言うには、ストレス発散にはこの店が一番だとか。……本当だろうか。俺の胃とか髪にかかっている負担を無くしてくれるのか。


「えっと、ここだよな」


 割引券の裏に書かれた地図を見ながら歩くこと数分。目的の喫茶店らしき店の前に着いた。外から仲の雰囲気を窺い知ることは出来ない。

 さっきから、この店の中に入っていく奴は皆一様に、鼻息が荒く、シャツをズボンにINしているような奴ばかり。


「うわ、入りたくない」


 ……おいおい、いかがわしい店じゃないだろうな。せっかくの休みなのに精力を失うことは避けたい。明日は仕事あるから体力が持たなくなるし。いやDTだけどさ。




 そんなこんなで店の入り口でしり込みする俺。傍から見たら、限りなく怪しい人物だよな。

 ……よし、時間も勿体無いし、行くか。

 俺は震える体を抑えながら、店の中に入った。周囲の目を気にしながらだけどな。




「あー、そういう店か」


 入店して、周りを見渡して一言呟く。

 ファンシーな雰囲気に、従業員は皆メイド服を着て、カチューシャを着けている。

 なるほど、この店は。


「メイド喫茶、ね」


 そういえば、あの部下はこういう店がすきだったよなーと今更ながら思い出す。


 まぁ、こういう店では確か女の子が優しく接客してくれるんだっけ? ウチの職場も女の子が三人いるけど、彼女達は俺のHPをどんどん削っていくからな……。


 今日は思う存分女の子で癒されますか。


 一人の従業員がこちらに気づき早足でやってくる。

 赤いショートカットで活発そうな雰囲気を持つ女の子だ。

 ん……何処かで見たことあるような気がするんだけど気のせいか?


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 ペコリと頭を下げる女の子。おぉ、新鮮だ。アイツラは決まって無視か罵倒が挨拶だからな。

 少し、涙が出た。


「当店ではツーマンセルでのサービスとなっておりますので、本日は御主人様のお世話を私が――」


 女の子が顔を上げて俺の顔を見る。すると、女の子の笑顔が固まった。

 勝気でつり上がった真赤な瞳は、やっぱり何処かで――って、まさか……。


「もしかして、トラさんですか?」

「ななな、テメーは?!」


 さっきのスマイルは何処へいったのか、顔を真赤にして、今にも胸倉を掴もうとする勢いで詰め寄るトラさん。

 BINGO! やったね! 当たったよ!

 ……じゃなくて。

 マジか……。これがトラさん? いつも不機嫌そうな顔してるから、分からなかった。ほー、元が美人だから笑うと印象が違う。


 そんなことを思っていると、トラさんがガシッと俺の肩を掴んだ――ってイタイイタイ! 爪、食い込んでます!


「おい、テメーなんでこの場所を知ってる?!」

「いや、何でって言われても偶々ですよ!」

 逆に、何でトラさんがこんな店で働いているかを聞きたい。明らかにトラさんには似合わない場所じゃないだろうか。

 ……口に出さないけど。


「おい、いいかテメーは今すぐカエレ。そして今日見たものは全て忘れろ。いいな?」

「うぇ? マジですか? 俺、ここで昼飯食べる予定だったんですけど……」

「そうか、分かった。なら財布だけ置いてカエレ」


 何で?!

 まさか、入店拒否とカツアゲとを一緒にされるとは思ってもみなかった。


「オイ、早くカエレ」


 段々と、肩にかかる力が強く……アレ? トラさん、変身しかけてません?


「わ、分かりましたよ」


 これ以上は、命に関わる。

 そう咄嗟に判断したトラさんに背を向け、今来た道を帰ろうとした。

 あ、間違っても苦情の電話は入れないですよ?

 だって殺されちゃうんだもん。


「ちょっと、何の騒ぎかしらん?」


 すると突然、女性にしては野太く男性にしては高い声が聞こえてきた。振り返るとそこには。


 “漢女”がいた。


 ……なんだ? あの悪趣味な野郎は。ボディビルダーみたいな体つきで、メイド服を着ているだと……? 変質者か?


「て、店長?!」


 トラさんが謎の漢女の登場で顔を青くさせた。


 って、店長だとォォ?! ファンシーな店のファンキーな店長……あれ、俺ちょっと上手くない?


「トラちゃん? お客様相手にこの無礼。どういうことかしらん?」

「いや、こ、これには、訳が」


 あのトラさんがシュン、としてるよ……。あの店長、ホント何者だ?


「問答無用! トラちゃん、ウチのメイドの心得第三条!」

「はい! いかなるお客様にも笑顔で、夢を与えること!」

「そうよん? じゃ、トラちゃん分かるわよね?」

「うっ……」

「トラちゃん?」

「は、はい! 分かりました」


 トラさんがこちらに向かってやってくる。そして。


「申し訳ありません、御主人様。数々のご無礼をお許しください」


 と、頭を下げた。


「え、いや、別に大丈夫ですよ?」

「ありがとうございます。それでは席の方にご案内いたしますので、ついて来て下さい」


 笑顔で言うトラさん。


「うん、いい笑顔! お客さん、ごめんなさいねぇ? 変わりにサービスするから許してん?」


 店長の投げキッス。俺は恐怖状態に陥った。

 それよりも、店長。あれがホントにいい笑顔に見えるのでせうか?


 俺には、あの笑顔の裏に殺意しか感じ取れないのですが――。





 トラさんに案内された席につくと、メニューを乱暴に手渡された。


「さぁ、選んで下さい、御主人様?」


 丁寧な言葉遣いの端々に怒気を感じる。やべ、これは相当怒ってらっしゃる。こういうときは、刺激せずに素早く立ち去るのが正解だ。

 ……何だろう、この部隊に配属されてから処世術に長けてきたような気がする。


「えっと、じゃぁ」


 メニューを開き、唖然とする。

 えっ? えっ? 何コレ? 何でこんなに高いの?

 ドリンク600円。

 オムライス1500円。

 ……その他、1000円以上が目白押し。


(金が……金が飛んでいく)


 俺の一日の昼食代を軽く超えている。まずい、今月ピンチなのに!


(とりあえず、一番安いのを……)


 って、一番安いのでもさっきのオムライスの価格だと?


「御主人様?」


 トラさんの台詞の後に、【さっさと決めやがれ】という言葉が聞こえてくる。心なしか機嫌が悪くなってないか?


「えっと、じゃあこのオムライスを」

「ッ!」

「ヒッ?!」


 今、一瞬凄い勢いで睨まれたよ? 何か悪いことをしたのか?


「わ……分かりました。しょ、少々お待ちください」


 トラさん、笑顔なんだけど口角をピクピクと動かすのは止めて下さい。怖いです……。



 待つこと数分。例のオムライスが運ばれてきた。

 別に、市販されているものと大した変わりはない。何故、あんなにも睨みつけられたのだろう。


「お待たせ致しました。こちらオムライスになります――」

「あ、ありがとうございます」

「――それでは、メイドからの愛をお受け取りくださいませ」

「は?」


 愛? トラさん何言ってんだろう?


「くっ、ラブラブーラブラブー愛を込めてーー♪」

「ぶっ」


 思わず吹き出してしまう。直ぐに睨まれた。

 トラさんは顔を茹蛸のようにしながらケチャップをかけている。……これが萌えという気持ちなのだろうか。


 もっとも、コレは彼女にとってとても屈辱的な行為なのだろう。奥歯をギュッと強くかみ締めているのが分かる。

 しかし、それでも止めないプロ意識に脱帽である。


 ただ。


 トラさんのプレッシャーの所為で、お冷が入っているコップがカタカタと小刻みに揺れている。

 ……愛の他に殺意もブレンドされているのかもしれない。


「お待たせ致しました……ど、どうぞ、お召し上がり、ください」


 今の俺に出来ることはトラさんを見ないようにしながら、このオムライスを早く食べることだけだった。





 しかし、このオムライス意外と量が多く、早く食べきることは出来なかった。まぁ、原因はそれだけではなく、トラさんから送られてくる圧力もその一因だったりする。


 やべ、胃が痛くなってきた。こんな消化に悪いものを食ったからか? それとも、俺の胃はもう限界なのだろうか?


「スミマセン……トイレに」

「向かって二つ目の通路を右です」


 先ずは仕切りなおそう。ストレスで倒れてしまう……。俺は逃げるようにトイレへと向かった。


「はぁ……ストレス発散に来たのに、逆にストレスが溜まるって……」


 トイレの洗面所で小さくため息。

 こんな筈じゃ……。


「――めてください」

「ヒヒ――いよ」


「うん……何だ?」


 扉の外から、なにやら話し声が聞こえてきた。そーっと扉を開けて様子を窺うと。


「止めてください……」

「フヒヒ……いいじゃないか……」


 リュックサックを背負ったいかにもと言う感じの男がメイドさんの肩を掴んで鼻息を荒くしていた。

 トラブルか……? メイドさんは心底嫌そうにしていて目に涙を浮かべている。腐っても男と女の体格差。肩を掴まれては逃げられないのだろう。

 仕方ない……。助けますか。


☆――☆


SIDE トラさん


「ふーん。ただのヘタレって訳じゃないのか……」


 オレは泡を吹きながらピクピクと痙攣している男をゲシゲシと乱暴に蹴りながら、呟いた。


 従業員にセクハラを働いていたこの男は、キツネのお面を被ったボサボサ頭の人によって気絶させられた。


 トイレから戻ってくるなりお代を置いてそそくさと帰っていった自分の気に食わない上司に苛々している時、そのような報告を受けてオレは自分の耳を疑った。


 キツネのお面を被ったボサボサ頭の人とは十中八九先ほど帰った自分の上司のことだろう。



(アイツが助けたのか……?)


 もしそうであるならば、それはオレにとってにわかに信じられないことだ。


 アイツはチキンでヘタレでどうしようもない奴だ。それが人助けを行うなんて……。


 信じられない。


 ただ、この時初めてオレは自分の上司に興味を持ったのだった。


副題 安息とメイドとトラさん


以下、蛇足。


更新遅くなりました。やっとこさ試験が終わり、ここに戻ってくることが出来ました。いやーー、疲れた。


さてさて、今回の話ですが最後の方に、アレ? 何で我らがヘタレ主人公は人助けをしたの? と疑問に思った方がいらっしゃるかもしれませんので、お答えします。 主人公は目の前で困っている人がいるのを見捨てられるほど、人間をやめていません。根は優しい人間なのです。その証拠にホラ、キツネさんは商店街の人に好かれていたでしょう? 壊れたテレビを無料で直したり、人手が足りない時など無償で手伝ってくれる彼は商店街の人気者なのです。


それにしても何故トラさんはメイド喫茶で働いてたのでしょうか……気になりますね。


今回トラさんに興味を持たれた主人公。果たしてこれからどうなることやら。


それでは、また次回お会いしましょう!

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