ACT・5 烏合の衆とキツネ
お待たせ致しました。
烏合の衆、という言葉がある。
烏合の衆とは規律も統一もなく集まっている人々の事を指す。
ようするに、アイドルとか俳優とかに群がるファンみたいな奴らである。(もっとも、規律や統一もあるところもあるが)
そして、今回俺には。
「敷浪河川敷に今夜集まる野良怪人たちを撲滅せよ。これは君の部隊にしか頼めない任務だ」
と、上司から命令が下った。何の脈絡も無く。ただ、本部を歩いていただけなのに。
ACT・5 烏合の衆とキツネ
そう愚痴を言っても、中間管理職な俺にNOと言える権利は無く、清清しいほどの笑顔で「はい」と頷いてしまった。
あぁ、NOと言えない日本人の典型だな。
「という訳で、本日深夜、河川敷に集まるであろう野良怪人どもを撲滅することになりました」
「……」
「……」
「……」
トラさん、コウモリさん、タカさんからの無言のプレッシャー。皆さん不満顔です。えっと……何か気に障るようなことを言ったか? 俺。
「なぁ、それって面倒ごとを押し付けられたんじゃねーか?」
「いや、そんな筈は――」
「……そうとしか考えられない。野良怪人なんてこの部隊じゃなくても楽に倒せる」
「ですが、上司の命令で――」
「まったく。大方、貴方が何も考えずにハイ、と返事をしてしまったのでしょう?」
ぐぅの音も出ません。
怪人もとい戦闘員には二つの種類がある。
一つは、俺のように組織に雇われている怪人。
もう一つが、組織に雇われていない怪人、通称【野良怪人】である。イメージとしては浪人というのが近いであろう。所属していた組織からクビにされたり、組織自体が崩壊して職にあぶれた物が野良怪人と呼ばれる。
普通であれば、他の組織から直ぐに勧誘されるのであるが、あまり役にたちそうもない怪人だったり、性格が最悪の怪人だったり、また崩壊した組織に忠誠を誓っている怪人だったりして、次の就職先につかないもしくは、つけない野良怪人達が時々暴動を起こすことがあるのだ。それが一般人に暴行を働くこともある。
そのような野良怪人たちには正義の味方という、これまた悪の組織とは違った組織に依頼して暴動を収めるのだが、今回は俺たちがそれを収め無ければいけないようだ。もっとも、野良怪人の集まりは烏合の衆といった言葉通り何の統率力も無いので簡単に制圧が可能である。
「恐らく依頼料金をケチったな。本部のクソどもめ。オレを便利屋とでも思ってるんじゃね―のか?」
「……お前が隊長になってから、私達に来る依頼はこんな下っ端にでも出来るようなモノばかり。嘗められてる」
「うぅ……」
タカさんとコウモリさんの言う通り、俺がここの隊長に任命されてから、第八実働部隊に来る依頼は下っ端だけでも出来るような任務ばかりだ。
例えば、いなくなった猫を探してだとか、保育園のお手伝いだとか、エリート部隊では受けないようなモノばかり。
もっとも、そういう任務は彼女達はパスして何処かに行ってしまうので、俺一人でこなしてきたが。
でも、もう承諾しちゃったし、今回ばかりは戦闘も予想される。彼女達には何としてでも任務に参加してもらわなければ。
「お願いします! 不満なのは分かりますが、今回ばかりはこの任務に参加してください!」
プライドは燃えないゴミ箱に。恥も外聞も資源ゴミにシュートして土下座で頼み込む。
「無様ですわね」
タカさんの毒舌。俺の胃に100のダメージ。
でも、ホンとにコレは死活問題だ。下手したら俺が殺されちまう。
「ホンとにお願いします!」
額を床に擦り付ける。
「フン。まぁ、オレは別にいいぜ? 戦えるだけ良しとしよう。最近、体が鈍ってしょうがなかったんだ」
「……私も、暇だから参加」
「オーッホホホホ! 仕方ないですわね。私の力を貸して差し上げましょう!」
「あ……ありがとうございます!」
コレで、俺のクビは繋がった!(二つの意味で)
「それじゃぁ、早速作戦会議を――」
「あぁ、いらんいらん。オレたちに作戦は必用ね―よ」
「え?」
作戦会議が必要ない? え……どういうことだ?
「こういうこと……ね」
茂みに隠れて先ほど始まった戦闘を見て、今日トラさんが言っていた言葉の意味を理解した。
「オーッホッホッホ! 私の優雅なる攻撃を喰らいなさい!」
空からは、変身したタカさんが翼とその鋭利な爪を用いてヒットアンドアウェーを繰り返し、
「ハン――。オラオラ! かかって来やがれ!」
地上ではトラさんが、怪人どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げる。
「ヒッ……何だ、こいつら強すぎる!」
そんな、タカさんとトラさんの迫力に呑まれ堪らずに逃げ出した怪人たちを、コウモリさんが音もなく対処していく。
まさに、一方的な蹂躙。流石はエリート。
野良怪人の集まりは瞬く間にその数を減らしていった。
……成す術もなく蹴散らされていく彼らに俺はそっと手を合わせた。
戦闘が始まってたった五分。
河川敷には野良怪人たちの山が出来上がっていた。
南無南無。
それにしても、今回の集団は何か変だったな。纏まって行動していたし、今まで経験してきたモノと違った不気味さがあった。……考えすぎか? 俺の。
「えっと、お疲れ様でした」
変身を解いて、汗を拭いている三人に俺はスポーツドリンクを手渡す。
「楽勝だったな」
「……準備運動にもならない」
「当然の結果ですわね」
そう言って、スポーツドリンクを口にする三人。
月明かりに映えて佇む彼女達に思わず目を奪われる。
……皆さん、美人だもんな。
「どうしましたこと? 私達の顔をだらしなく見つめて」
「ハッ――」
タカさんの指摘で我にかえった。いけない、いけない。気を引き締めないと。
頬を二回パンパン、と叩いて気合を入れなおす。
そして、顔を上げると、三人が何やら言い争いをしていた。
「今日はオレが一番敵を倒したな」
「何を言っていますの? 貴方は私の獲物を横取りしていただけではありませんか」
「……あなたたちは打ちもらしすぎ。実際私が一番」
睨みあう、トラさんタカさんコウモリさん。え……ここで、まさかの喧嘩ですか?
しかも三人とも変身しかけちゃってるし。
あの三人がここで本気でやり合ったら、クレーターどころの話じゃないぞ……。ある意味、野良怪人達よりも脅威だ。
あぁ、もう臨戦体勢に入っているし!
止めないと……!!
「皆さん、落ち着いて――!」
「「「黙ってろ!」」」
「はい……」
一喝されました。
この後、俺は泣きながら河川敷に出来たクレーターを一人で埋めていくのだが、それはまた別の話。
☆――☆
「やはり、寄せ集めの怪人どもでは相手にならんか」
「あの三名、我らの覇道の妨げになることは間違いない」
「早めに潰しておいて損は無いだろう……ふむ、アルファよ!」
「はっ! お呼びでしょうか、ボス」
「お前に任務を与える。この虎型の戦闘員をどんな手段を使ってでも良い。始末するのだ」
「はい。我が命に代えてでも!」
副題 圧倒的戦力と違和感とキツネ
以下、蛇足。
我らが主人公はやっぱりヘタレ。NOといえない日本人ですね。えぇ。しかも彼、今回は戦闘に参加せず、茂みから窺っているだけです。部下に怒られないの? と疑問に思うかもしれませんが、ヒロイン三人は彼のことを全然意識していないので、あれ、いなかったの? という認識にとどまっております。
さてはて、どうやって主人公に惚れさせていこう? 悩みどころです。
そして、謎の台詞だけの人物たち。彼らは何者でどういった影響を主人公たちに与えていくのでしょうか。こうご期待ください!
話は変わって、この小説はストーリーパート→キャラパート→ストーリーパートといった具合に進めていきたいと思っています。ストーリーパートは今回のように悪の組織での活動がメインになって、キャラパートでは、主人公の日常やヒロイン達との絡みを描いていこうか、と思っているのでよろしくお願いします。
また、キャラパートではお題の諺(冒頭でのアレ。四字熟語でもキャラの台詞でも可)を募集していますので、感想などにお願いします。その際に意味なども添えていただくと嬉しいです。
それでは、次回の更新で会いましょう。