ACT・3 二足の草鞋を履くキツネ
作者はバイト経験がありません。勿論バイト面接なんて受けたこともありません。
なので、この回の面接は想像で書きましたので悪しからず。
二足の草鞋を履くという諺がある。
『二足の草鞋を履く』とは、表向きの仕事のほかに、同じ人が両立しないような二つの仕事を同時にするという意味を持つことわざである。
例えば、芸能人がお店を開くなどがその最もたる例だろうか。
かくいう俺も。
「あぁ、ここはもうちょっと作者の気持ちになって考えてみると点数が上がるかな」
「あっ、そっか。ありがとうございます、先生」
戦闘員の他に、小さな塾で小学生に国語を教えています。
ACT・3 二足の草鞋を履くキツネ
おいおい、悪の戦闘員が何人を導くような仕事をやっているんだよ、とツッコミが来そうなので一応弁明しておきたい。
下っ端如きの給料じゃ、一ヶ月も生きていけないんだよ!!
最近隊長格に昇格したとはいえ、俺の悪の組織での給料だけでは電気代と水道代だけでパーだ。しかも、そこからさらに、部下の三人が起こした問題を給料から天引きされるんだぞ? 生活できるかってんだ!
だから、母方の叔母さんが経営している個人塾の講師として、週三回、子供達を教えています。
「キツネちゃん。ちょっといいかい?」
「何ですか? 叔母さん」
休憩時間、カロリーメイトを食べていると叔父さんに呼ばれた。因みに、叔母さんは俺が悪の組織の戦闘員だってことを知っているので俺のことをキツネちゃんと呼んで来ます。
というか、地元の商店街でも正体バレているのですけどね。
もっとも、守秘義務とかは内には無いので問題ないのだが。
「キツネちゃん。またそんなのばかり食べて……栄養のあるもの食べなさいよ」
「スイマセン……今月もうお金なくって。それより何か用ですか?」
「あっ、そうだったわ。新しいバイト希望の子が来たんだけど、キツネちゃん面接してあげてくれない?」
「俺がですか?」
一講師でしかない俺がそんなことをしてもいいのだろうか。
「そう。私、今忙しくて手が離せないし、キツネちゃんだったら見る目あるし、信用できるからさっ」
「はぁ……」
「ね? お願い?」
「分かりました。俺が責任を持って面接官を請け負いましょう」
叔母さんにはいつもお世話になっているし、俺に出来ることなら何でもしてあげようと思い、俺は面接官を引き受けた。
「ありがとう! 203教室に待たせているからお願いね」
「分かりました」
カロリーメイトを大急ぎで食べると、俺は203教室へと向かった。
何か嫌な予感がするけど、気のせいだろうか。
結果的に言うと、嫌な予感は当たった。
「……あ」
「……」
どうやら、面接を受けるのはコウモリさんだったようだ。
俺が驚いていると、コウモリさんも驚いていたらしく、少し目を見開いていた。
えぇ……なんで、コウモリさんがここに面接に来ているのでしょうか……?
俺よりお給料を貰っている筈なんだから、二足の草鞋なんか履かなくていいはずなのに……。
おっと、イカンイカン。俺は今面接官なんだ。一切の私情を挟んではいけない。
「こんにちは。本日面接を担当させていただく、田中 敦と申します。よろしくお願いします」
俺の言葉に、コウモリさんはぺコッと頭を下げるのみだった。
おいおい、コウモリさん。普段だったら別にいいけど、こういう場では挨拶くらいしようよ。評価下がるよ?
俺は、手元の履歴書を見る。
履歴書は一切の空白無くビッシリと書き込まれていた。
普段の始末書もコレくらい書いてくれよ……。
「それでは、先ずお名前を教えてください」
「……清水 亜季」
清水 亜季さん、ね。あっちの職場では名前を勝手によんだら半殺しだったけど、こっちでは大丈夫だよね……?
「はい、清水 亜季さん……ヒッ」
コウモリさんは無言のまま睨んできた。俺に名前で呼ばれるのはそんなに嫌か?
でも、ここは悪の組織ではない。毅然とした態度で挑むぞ……!
「では、清水さん。いくつか質問させていただきますがよろしいでしょうか」
「……はい」
「経歴に悪の組織勤務、と書かれていますが、どういったご職業で?」
「……街のパトロールや、住民を脅かすような存在を排除したり、武装警察のような仕事をしています」
ふむ……少し物騒だがその通りだな。嘘は言っていない。
「もし、ここで働くとしたら、週に何回行けますか?」
「……二、三回は可能です」
「担当教科の希望は?」
「……算数です」
といった感じに、面接は問題なく進んでいった。
驚いたのは、彼女筆記テストで全教科満点なんだよね。これには舌を巻いた。
「それでは、最後に何故、この塾で働こうと思ったのですか?」
「……人に、勉強を教えるのが得意で、それとある人と約束したからです」
「約束?」
「……小さい頃、出会った大切な人と一緒に、人を導く職業に就こうと約束したんです。その人とはもう離れ離れになってしまいましたが、私がこの職業につければいずれは会える気がするんです」
そういった、コウモリさんの目は何処か遠くを見つめていて、寂しそうに笑っていました。
……こういう一面もあるんだな。
「分かりました。一週間の研修の後に正式に採用いたします」
「……っ! ありがとうございます!」
コウモリさんは笑顔でそう言った。
うんうん。今日はいい日だったな。
次の日
「あの……この状況は何でしょう?」
「……昨日の仕返し」
「えっと、ちょっ、待って……それは……イヤー―ッッ!!」
副題 キツネの副業とコウモリさん
以下、蛇足。
コウモリさんは、寡黙な読書娘に近いと自分の中でイメージしています。何気に彼女はヒロインの中で一番初めに本名が分かりました。
今回の話はぶっちゃけ最後のコウモリさんのフラグっぽい台詞が書きたかっただけなんです。今後、プライベートで主人公とどう絡ませようかな……と考えた時に思いついたのがこの話。えぇ、浅はかの一言に尽きますよね。というより、あんな態度で面接を受けたら落ちますよね? 普通なら。色々とツッコミどころの多い話でした。