プロローグ・弱肉強食なキツネ
仮面ライダーを弟と見てふと、思いついた作品。
頑張ります。
「弱肉強食」という言葉がある。
弱いものは強いものに喰われる、つまり弱者は強者に支配されるということだ。
この言葉は世界の真理。どの動物のどの生態系を見てもそうだ。
例えば、草食動物のシマウマは肉食のライオンに食べられるし、係長は部長に仕事を押し付けられる。
弱者は強者に逆らえないのだ。この過程は原則として変わることは無い。
だから……。
「待てッッーーッッ!!」
「嫌だよッッ! 死ぬのは勘弁だ!!」
俺は全力で逃げている。敵の戦闘員から。
畜生、こんな事になるんだったらアイツらから頼まれたお使いを全力で断るべきだった!!
あ、申し遅れた。俺は田中 敦。今年で27。悪の組織「青空を愛でる会」で一応、幹部をやっております。はい。
☆
悪の組織、といっても数多くある。
例えば俺の所属する「青空を愛でる会」や、今勢力拡大中の「絶対覇道組」。「あしたは雨だね。そう会」といったふざけた名前の組織もある。
ただ、そういった悪の組織が目指すのは一つ。
ずばり、世界征服だ。
世界征服なんて、子供の夢かよ……なんて思う人も多いだろう。だけど、いまやそんな子供の夢が叶えられるかもしれないのだ。今から数十年前に生まれた技術を使えば。
プロローグ・弱肉強食なキツネ
悪の組織は上げだしたらキリが無いが、基本的に仲が悪い。
当然といえば当然で、何しろ皆目的が一緒で、基本的にライバル関係にあるからだ。なので、悪の組織同士の争いも日常茶飯事だ。
「ヒィィィィィィィッッ!!」
「待てーーッッ!! お前も怪人なら堂々と勝負しやがれ!!」
と、いうわけで悪の組織同士のイザコザに巻き込まれている俺。
後ろから追いかけてくる相手は、人狼型の怪人。相手が纏っている炎から分かるように、「火」の能力もちときた。腰にベルトがあることから、最新のスペックの怪人だろう。くそ……羨ましいぜ……。
対する俺は、改造手術によって狐怪人に変身している、能力なしの雑魚。
今時、改造手術の怪人なんていない。
手間がかかるし、何より変身ベルトで変身した怪人に全ての能力で劣るからだ。
でも仕方ないじゃないか……。俺が入団したときは変身ベルトなんて無く、改造手術がしかなかったんだから。
当然俺のようなロースペックの怪人が、あんな時代に乗ったハイスペックな怪人に勝てるはずが無い。
仕方ねぇ。ここは、説得だ。怪人といっても人間がなってんだ。話し合いが通じるはず……!
「ホント、俺は弱いッスから! みのがして……ウホァ!!」
「避けんじゃねぇ!」
目の前に迫っていた火炎を紙一重で避けると、悪態をつかれた。
フザケンナ。あんなん喰らったら、即DEADENDだ。
恥ずかしながら年齢=彼女いない暦の俺だ。ここで死んだら死んでも死にきれん。
くそ……説得は無理か。
どうするよ俺?!
このまま逃げつづけても、いずれは追いつかれる。現に今も差が埋まってきているし。
仲間を呼ぶ? 無理だ。アイツらは絶対助けにきてくれない。嫌われているからな……俺。
諦めて反撃に入る? 性能の差が分かりきっているし、確実にやられるな……。
畜生!! 手詰まりじゃねぇか?!
あぁ、俺が死んだらアイツ悲しんでくれるかな……。
『ハッ――。やっと、死にやがったか。あのクソ野郎は!』
『……ストレスの原因が一つ減った』
『ホホホホホ。無様な死に方ですこと! 汚らわしい貴方にピッタリの死に方でしたわね』
………………。
うん。アイツら絶対喜ぶぜ。目を閉じただけで簡単に想像できる。
死ぬとき位は誰かに悲しんでもらいたい!!
だから、死ぬわけにはいかねぇ!!
でもどうする? 死亡フラグはビンビンに立っていやがる。これを覆すには……。
「! アレだ」
目に飛び込んできたのは廃ビル。俺はそのビルの中に突っ込んで行った。
SIDE:敵怪人
「ようやく、諦めたか。雑魚のクセに諦めが悪いな」
「俺はまだ死にたくないからな」
俺様はようやく、この廃ビルの二階の部屋にコイツ追い詰めた。
ったく、手間をかかせやがって。
ベルト無しのクセに、この「火」能力を持つ俺様を梃子摺らせるとはな。
まぁ、良い.こいつを殺せば、敵組織の戦力を削ったとして、ボスから恩賞が貰えるだろうしな。ククク……こんな雑魚を殺して金が貰えるなんて何てツイてるんだ。
「殺す前に聞いといてやる。お前はどこの所属だ」
おっと、コレ聞いておかないと確認のしようができなくなるな。危ない危ない。恩賞を無くすところだった。
「青空を愛でる会だ」
「へぇ……。こりゃラッキーだ」
青空を愛でる会といえば、俺様の組織のライバル組織じゃねェか。フフン。恩賞に期待できるな。こりゃ。
あれ……。青空を愛でる会といえば、ボスがある奴に気をつけろって言ってたな。何だっけか。
思い出せねぇや。つまり、それほど重要じゃねぇって事か。
そんじゃ、サクッと殺しましょうか。
「あの、見逃してはくれませんかね……?」
あん?何アホなこと言ってんだ?
「無理にきまってんだろ」
「ですよねー」
コイツはそう言うと肩を落とした。
この状況で、俺様が見逃してくれるとでも思ったのか?
しゃぁねぇ。このアホに世界の真理ってやつを教えてやろう。
「死ぬ前に教えてやるよ。この世界はな、弱い奴が強い奴に刈られる……なんつったかな『焼肉定食』な世界なんだよ」
あれ……なんか、ちげーな。
「弱肉強食、じゃ?」
間違いを指摘された。
「う、ウルセー! 動物で例えるなら、俺が猫で、お前が鼠だ! お前は俺に狩られる運命なんだよ!」
畜生! もう殺しちまおうかコイツ!
ちょっと忘れてただけなんだよ!
「あーもう、メンドイ! ぶっ殺す!!」
俺様は右手に意識を集中する。それがいけなかった。
アイツは、俺様が少し目を離した隙に、何か白い粉のような物を辺りに撒き散らした。
その粉によって、視界が遮られる。
小賢しい……! よもや、こんな隠し玉を持っていたなんて。
「クソッ――!」
思わず、口からそんな言葉が零れる。
アイツが、ここに逃げ込んだのはこのためだったのかーー?!
チッ。落ち着け。視界がゼロになってもアイツの出す音に耳を傾ければ、アイツがどこに居るかなんか一発で分かる。
その場所に俺の放てる最大火力の火炎球を放てば殺れる。
落ち着け。集中しろ。
――カツ。
聞こえた! 前方約15Mの所!
確か、窓があった場所だ。
ククク……。恩賞ゲットだぜ!!
「死にやがれーーッッ!」
右手をかざし、火炎球を作り出したところで、俺様の意識は途絶えた。
最後に聞こえたのは、大きな爆発の音と「窮鼠猫を噛むんだぜ?」というアイツの声だった。
SIDE 敦
「イテテテ……」
あー、予想外に爆発が強かったな。俺は、腰をさすりながら呟いた。それにしても、アイツが「火」の能力者で助かったぜ。
「粉塵爆発……。上手くいって良かった」
大気中の一定以上の可燃性の粉塵が浮遊した状態で、火に反応して起こる爆発のことだ。
その知識があった俺は、今日アイツらから頼まれたお使いの品物「小麦粉」を使い、それを引き起こさせた。
あー、昨日ラノベ読んでて良かったわ。危うく命を落とすところだった。
あと、アイツラにも感謝だな。小麦粉が無かったらこの作戦は成り立たなかったわけだし。後で、お礼を言っておこう。うん。
遠くから、消防車のサイレンが聞こえてくる。
「おっと、退散しますかね」
俺は、まだ生きていることに安堵しながら、口笛を吹きながら帰路についた。
このあと、俺がアイツらから酷いお仕置きを受けたのはまた別の話。
副題 いつもの風景