愛が激重王子の蛇足の蛇足
数ある中から作品を選んていただきありがとうございます!
ここが小説の世界で、かつそのことを知っている人物がいたら何をするだろうか。
原作で起こる悪い展開を阻止したり、変えようとする。
でもこれから到来する結末に満足しているのに、さらに絶対的なものにしようとして蛇足に蛇足を重ねようとする男がいたとしたら──。
* * *
毎朝、同じ時間に起きる。
顔を洗う。
右手でタオルを受け取る。
左手で返す。
五歩でドレッサーに向かう。
同じ向き。
髪を掻き上げる。
同じ順番。
支度は完成。
最後に鏡をチェックする。
定刻通り──。
そのすべてを完璧にこなすのが俺こと第一王子のジョン・ウェルスだった。
その俺の心の中にあるのはただ一つ。
“アリス”のことである。
公爵家の長女のアリス。
陶器肌に金糸を束ねたような髪。
スラリと伸びた背に、誰もが羨む美貌。
それでいて、たまにするアリスのうっかりに、俺の心臓は撃ち抜かれそうになる。
可愛い。
可愛い以外の言葉が出てこない。
俺は他人には見せられないほど、相好を崩す。
俺は彼女と結ばれることを確信していた。
いや、確実に結婚すると断言しよう。
そう、決まっているから。
この世界は小説の中の世界。
そして俺は近い将来アリスと結ばれる。
そう知っているのに、もっと完璧でありたい。
俺は燃えていた。
俺が考え抜いた答えは、簡単だった。
お話が原作通りにいかない可能性をすべて潰すこと。
可能性さえもなくなれば、安心して幸せな将来を迎えられる。
俺は父に直談判した。
「父上、私が婚約するまでアリス嬢の執事として彼女の側にいさせてください」
父はこの国を動かす王である。
難しい局面を迎えることも多いだろう。
そんな父が難題に直面したときと同じ顔をしている。
隣国と摩擦が起きて、判断を誤れば戦争も免れないときと同じくらい眉間の皺が深い。
王子としての責務──外交、お茶会、狩り、交流会などのイベント参加は必ず行うことを父に約束する。
沈黙は肯定なり。
何も言わない父に肯定してもらえたと、捉えて話を進める。
「呆れて何も言えぬ」
「勝手にしろと仰っているのですね。ありがとうございます!」
こうして俺は軽やかな足取りで玉座の間から出ていった。
* * *
俺は自室に戻ると早速ドレッサーの前に座る。
櫛で髪を下ろす。
眼鏡をかける。
右目尻の下に偽りのほくろを添えた。
アリス公爵令嬢の執事──“ジョセフ”の完成である。
鏡でチェック。うむ、満足。
初日に顔を会わせた。
アリス嬢のあまりの美貌に目眩を起こすほどだったが、白目を剥きながら何度か耐えた。
その短い間にも俺とアリスの間には、絶対に壊れない壁を感じていた。
アプローチは一日にしてならず。
俺は持ち前の能力を使って、屋敷中に溢れる情報を記憶する。
屋敷の中の配置。
使用人の顔と名前。
使用人の家族構成。
使用人の趣味。
問屋の運送屋の顔と名前。
朝飯前だった。
屋敷の人間と仲良くなると、印象も変わるようだ。
「ジョセフ、今度のお茶会にはどちらのドレスがいいかしら?」
アリスから偽名でも名前を呼ばれた歓喜で頭が停止した。
無理やり動かす。
「深紅のドレスはアリスお嬢様の陶器肌にピッタリでございます。大輪の薔薇を彷彿とさせる印象深いドレスは庭園で取り合いになるほど人気が出るはずですから、ご注意下さい。庭園のどの薔薇よりも魅力的な彼女は誰もがアリス様を求めて、危険な状態になるかもしれません」
ここまで一息で説明する。
「一方、夜空を連想させる濃紺のドレスも非常に優雅さを感じます。華やかなお茶会に誰も着てこないドレスに注目の的。皆様、アリスお嬢様に釘付けとなり、もはやお茶会が進まない想像しかできません。
なんと危険なお茶会なのでしょう! 夜になっても、その存在は霞むこと無く、夜空に一番輝いて見えるはず」
こちらは二息してしまった。
(究極の二択とは、こういうことをいうのか)
俺の説明は止まらない。
手を止めて、興味深く耳を傾けていた侍女たち。
少しすると淀みのなさすぎる説明に呆れ始めた。
早々に背景と捉えて、侍女たちの動かす手は止まらない。
舌を巻くほどの職人芸に、俺は感嘆の声しか出ない。
彼女たちは勝手に深紅のドレスを選んでいた。
「アリスお嬢様、とても素敵ですね。深紅のドレスがよくお似合いです」
「気に入ってくれるかしら?」
「もちろんでございます。薔薇の妖精かと勘違いなされるでしょう」
「ふふっ、ジョセフ言い過ぎじゃないかしら」
無邪気。あどけない笑顔。
ぐう可愛⋯⋯とにかく記憶。
視界そのものを記憶!
目が石像になるほど、乾いた。
だが、今日、一番幸せな時間だった。
話に出てきたネイサンは俺の弟だ。
可愛くて仕方がないので、アリス以外ならどんな手を使ってでも応援したいと思っている。
ネイサンはもうすぐアリスと縁談をする。だが、すぐ破談になる。
本来ならその縁談を取りやめてあげたい。
だが、それがアリスと関係を近づけるきっかけになる。
俺は断腸の思いで耐える。
(ネイサン、ごめんなぁー! 兄さんを許してくれー)
* * *
今日はネイサンとアリスの初対面。
原作通りならこのあと一度も二人は会わない。
一ヶ月後に破談になる。
俺はアリスの部屋で待機していた。
部屋に戻ってきたアリスは息を吐きながら脱力する。
顔にも疲労感が窺える。
流石に弟の縁談を盗み見ることはしない。
それは男として、兄として威厳を貫いた。
それでも気になる。
帰って来たアリスに、俺はそれとなく聞いてみた。
「アリスお嬢様、お疲れ様でございます。ネイサン殿下との顔合わせはいかがでしたか?」
「まあね⋯⋯普通かしら。会話もそこそこしたわ」
「そうでしたか」
「そうそう、次回の約束もしたわ」
「えっ!?」
無垢な瞳がこちらを覗く。
包み隠さず打ち明けるアリス。
その可愛さに悶える前に、衝撃の情報が飛び込んできた。
“次回の約束もしたわ”って、次回の、次回の──。
頭の処理の限界だった。
頭をフル回転させるが、動くものは何もない。
危うい可能性を潰すためにここにいたのに、潰すどころか、新しいルートが開拓されていた。
「⋯⋯そそそうでしたか。お約束はいつでしょうか?」
「一週間後よ。王室植物園を見てまわる予定よ。その後お茶をして終わりなの」
【▶ネイサンに植物園デートが発生した】
心が極狭になった俺は兄としての威厳を踏みつけ、黒にかぎりなく近いグレーの選択肢がずらりと並んだ。
俺は両手を使って、頭に浮かんだ物騒な選択肢を振り払う。
(兄以前に人間としての倫理感まで捨てたら、人間じゃなくなる。俺は堂々とアリスの隣にいたい!)
俺はこの後どうやって王城に戻ったのか覚えていなかった。
だが、ネイサンとの二回目の逢瀬の前に約束を取り付けるべく、“ジョンとしての歓談”の予定を無理やり取り付けた。
俺は王子として、アリスに会った。
食事もすんなり進んだ。
会話も雰囲気も悪くなかったも思う。
庭園に誘った時も笑顔を向けてくれた。
そしてかなり緊張したが、また会いたいことを伝えた。
すぐにアリスの屋敷に直行する。
ジョセフの姿でアリスを迎える。
すべての支度を終えて、アリスは自室に重たい足取りで戻ってきた。
俺はアリスに淹れたてのお茶を渡した。
「今日はいかがでございましたか?」
「うん、悪くはないと思うわ。ジョン殿下も悪い人じゃなさそうだもの。ただ明後日はネイサン殿下と会うでしょう? 予定が詰まって少し疲れてしまうわね」
「そうですよね! お気づきになりませんでした。このあとはゆっくりお休みください」
「ふふっ、ジョセフ、あなたが気にすることじゃないわ。でもありがとう」
俺は心の中で壊れたおもちゃのように最敬礼を続ける。
もし許されるのならば、嘆きたい。暴れたい。走りたい。
最愛の弟を蹴落とそうとしている愚かな俺。
それでもアリスを諦めたくない俺。
俺はこの邪道な考えを断ち切ろうと徹夜で仕事をした。
「次はダンスパーティーがあるから、その後会いましょうって話になったわ」
「えっ?」
「あらジョセフ、あなた顔色が悪いけど大丈夫? もう自室で休んでいていいのよ」
「いいいえ⋯⋯あっはい、おお気遣いありがとうございます」
俺の頭には“次はダンスパーティー”が何度もリフレインする。
頭が真っ白になるどころか息をするのも忘れるほど。
あ、顔が真っ青になっていたのは、空気が足りていなかったのか。
そうか、そういうことか⋯⋯はぁ、空気になりたい。
俺は足をもつれさせながら、アリスの部屋を去る。
そのまま屋敷を飛び出していく。
悲しみに包まれたまま疾走する。
盗んだ馬車で走りだすくらい自暴自棄な気持ちになる。
その夜、奇声を上げる魔物がいると警備隊に通報されるくらい、俺は暴走しながら家路についた。
* * *
自室の布団の中──。
俺は部屋に引きこもった。
明くる日も、その次の日も、そのまた次の日も──。
ダンスパーティーには怖くて行けなかった。
仲睦まじいアリスとネイサンがいたら、俺は発狂するか、泣き叫ぶかもしれない。
ネイサンが部屋にやってきた。
俺は布団に籠りっぱなしだった。
貝のように閉ざす。
「兄上、最近体調でも悪いのですか? 私に何か出来ることはありませんか?」
「お前は良いやつだな、さすが俺の最愛の弟だ。俺が令嬢なら真っ先にお前を選びたいくらい素晴らしいよ」
「兄上、そういうことは心に決めた令嬢に言ってくださいよ。でもありがとうございます」
(ダンスパーティーのこと、聞きたいけど怖くて聞けない)
「ダンスパーティーでアリス嬢が兄上のことを気にしていましたよ。それに最近執事が顔を出さないようで、気を落としている様子でした」
俺はそれを聞くと布団から飛び起きた。
「しし執事ってジョセフのことか?」
「兄上の知り合いですか?」
俺は布団から飛び起きるとネイサンと握手する。その足で走り出した。
どこまでも、どこまでもアリスがいるところなら何処へだって行く。
盗んだ馬車ではなく、王室の馬車に乗る。
馬車の中で、櫛で髪を下ろす。
眼鏡をかけて、偽りのほくろをつける。
公爵家へ着くと、アリスの部屋に直行する。
「ジョセフ、体調は大丈夫なの? しばらく見なかったから心配しちゃったわ」
「申し訳ございません。もう体調は大丈夫です。お嬢様のお優しいお心遣い痛み入ります」
「本当に大丈夫なのね。もう、ジョセフちゃんとそばにいてくれなきゃだめじゃない」
「そういえば最近はネイサン殿下とも仲良くされているそうですね。この先どうなさるおつもりなんですか?」
アリスは意味ありげに俺を見てきた。
「私は⋯⋯どちらとも結婚したくないわ⋯⋯」
俺は、がくっと肩を落とした。
目の前が真っ暗。何も聞こえない。
アリスが何か言っている気がしたが、そのまま部屋を出た。
ペンを部屋に置いてきてしまったことに気がついた。
あのペンはアリスからもらった大事なペン。
戻りたくないが取りに帰るか⋯⋯。
俺はアリスの部屋をノックしようとすると中から声が聞こえてきた。
だめだと思いながら耳をそばだてた。
「⋯⋯お嬢様、大丈夫ですよ。きっと分かってくれると思いますよ」
「そうかしらでも王子じゃない人をお慕いしているなんて受け入れられないことじゃないかしら」
「私はアリスお嬢様を応援しています」
「ありがとう。なんだか勇気が出てきたわ」
俺の視界は滲む。
涙で濡れているんだなと気がつく。
「アリスお嬢様はどんな方をお慕いしているんですか?」
「細かいことに気がつく人、飾らず私の目を真っ直ぐに見てくれる方です。いつもそばにいてくれて、たまに冗談も言ってくれる⋯⋯そんな方がいいですわ」
俺は無意識に誰なのか頭の中で、その相手を探していた。
『いつもそばにいてくれる人』
え、どこにいたんだろう。
俺の頭の中には、難問すぎて答えが出てこない。頭の中の可能性をすべて洗う。
その時、ふと気がついた。
自分が会ったことのない人物だ。
アリスは自分の知らないところで恋心を育んでいたのだ。
俺は何処をどうやって帰ってきたのか分からなかったが、次の日、視界に入ったのはいつもの天井だった。
終わった。
何もかも終わってしまった。
俺の物語はどこから終わっていたのだろう。
俺はアリスの屋敷に行くことをやめた。
もちろんジョセフも退任だ。
俺はそれから徹夜で仕事をした。
悲しいが、仕事はめちゃくちゃ捗った。
いつも難しい顔をしている厳格な父の口元が緩むくらいには、仕事をこなした。
仕事に父は満足しているのか、少し柔らかな表情になった。
「最近はどうだ?」
父から投げかけられる。
気を利かせたつもりだろうか。
完全に裏目だ。
なぜこんなタイミングでそんなことを聞いてくるのだろうか。
「しばらくは仕事に専念したいです」
俺は今までで一番素っ気なく答えた。
「そうか⋯⋯」
父はいそいそと緩んだ顔を仕舞い込んだ。
俺は執務室と寝室を往復する毎日に変わった。
執務室と寝室は隣なので、何歩か歩くと着いてしまう。
この前も執事に運動不足を指摘されてしまった。
仕方なく執務室の中を時計回りに歩きながら仕事をする。
そうしていると一ヶ月経った。
久しぶりに父に呼ばれた。
するとネイサンもいた。
「なななんでネイサンもいるんだ!?」
(こんなみすぼらしい姿を見せたくなくて、執務室と寝室を往復していたというのに!)
「父もいるぞ」と父。
「兄さん、何があったの? 僕は兄さんが心配で心配で、王族の影に兄さんの身辺調査をしてもらったよ」
「ネイサン、悪かったなぁ。でも王族の影を使うなんて謁見行為じゃないか?」
「わしが頼んだ」と父。
「そしたら兄さんがアリス令嬢の執事をやっていたなんてびっくりしたよ」
「うん、実はそうなんだ。はは、大人げないことしているよね。俺も分かっているんだ」
ネイサンと話すのに懸命で気が付かなかった。
父が音もなく立ち上がる。
「それで、アリス嬢はジョセフに会いたいと言っているそうだ」
父の声が聞こえた。
俺は玉座の間に入ってから、初めて父の姿を捉えた。
なぜ、アリスはジョセフに会いたいんだろう。
俺はアリスのことになると途端に頭が働かなくなった。
お別れの挨拶?
サボったことを怒っているのだろうか?
俺は⋯⋯アリスに伝えていないことばかりだ。
父は判断の難しい局面を迎えたように、目を細めて俺を捉えた。
そして一番大事な役目を授けるような真剣な顔だった。
「人には失敗できない局面がある。お前は間違えるんじゃない」
「アリス令嬢は兄さんを待っているはずだよ。行って」
俺は玉座の間から駆け出した。
玄関を出ると、馬小屋から駿馬に跨った。
王城から単騎で道に出る。
広間の人も驚いているだろう。
もし、アリスからお別れを告げられても、好きな人がいると言われても、これだけは伝えたい。
いや、そんなことを言われたら一生引きずる。
爺さんになるまで何百回だって叶わぬ恋の話をする。
でも、その隣にはアリスがいてほしい。
* * *
屋敷につくと、案の定、門番に止められた。
「ジョセフだ」
門番は明らかに困っている。
「いや、ジョン殿下でございますよね」
「違うジョセフだ」
門番は相当困っている。
「お戯れはおやめください。今、門を開けますので」
違う意味で通してくれた。
俺はそこから走った。
すぐに息が上がる。
最近は執務室と寝室の
移動のみで運動不足になっていた。
自分の鈍くなった身体を呪う。
そして横腹を押さえながら、覚束ない足取りで玄関を抜ける。
その頃には髪も四方に乱れていた。
二階の階段近くにアリスが慌てて出てきた。目を丸くしている。
「ジョセフ?」
俺は頭の中に数え切れないほど、様々な言葉を巡らせていた。
「アリスお嬢様⋯⋯」
アリスが俺の手を取る。
柔らかい手が俺の手を包んだ。
なんかいい匂いもする。
それだけで頭が痺れるように、考えていたことが吹き飛んでしまう。
アリスの目が少し潤んでいるように見える。
自分のいいように取ってばかりだ。
いや、気のせいじゃない。
アリスが遠慮がちに寄りかかってきた。
これは何だというのだ。
「私の側からいなくならないで」
俺の心臓はどくんと大きく跳ねた。
これはどういう意味だ。
俺は夢を見ているというのか。
「駄目なのは分かっているの。でも私はあなたが好きなの」
鼓動が早くなる。
一つも理解できない。
え、幻聴が聞こえる。
自分の都合の良いように聞こえる。
「ジョセフは私のことが嫌い?」
「嫌いじゃありません。大好きです!」
俺は目の前の華奢な肩を抱いた。
あぁ、可愛いアリス。
俺の腕の中にいるなんて信じられない。
俺はやったんだ。
⋯⋯あれ、そういえばアリスはジョセフって言っていなかったか⋯⋯?
最大のライバルが自分ということにやっと気がついたのだった。
* * *
それからアリスの誤解を解くのは大変だった。
俺は第一王子であり、ジョセフでもある。
言葉にするとこんな簡単だ。
これを説明するのはとても大変だった。
なんで王子が公爵家の執事をやってるのか。
その案を思いついたことから、父を説得したことまで、すべて説明した。
それでも理解してくれない。
「私はあなたの煌めく瞳を飾る長い睫毛が好きです」
「はい」
とりあえずの笑顔をアリスは貼り付けている。
「その鈴がのるような澄んだ声も好きです」
「⋯⋯はい」
少し頬が赤くなるアリス。
「慈愛に溢れていますが、プリンはやっぱり大きい方を選んでしまうあなたが好きです」
「えっ?」
これは照れている様子でしょうか。
いつものアリスの素顔になる。
「気のない素振りをして、本当に気に入ったものは、一人きりの時に思いっ切り愛でているのも大好きです」
「ちょっと、なんで知ってるの!?」
慌てているアリスも凄く可愛い。
「グスたんぬいぐるみ、ブサカワですもんね」
アリスの好みは少し独特なところがあり、変な熊のぬいぐるみが気に入ったようだ。
アリスと顔は赤面した。
ジョセフの時にしてくれた自然な表情。
「すみません、扉の隙間からこっそり覗きました」
「もうっ⋯⋯許しちゃうけど⋯⋯⋯」
自分の言葉に反応してくれる愛らしい人。
どんな言葉だって彼女が喜ぶのならかけてあげたい。
彼女の優しいところも、おっちょこちょいなところも好きだ。
ジョセフだから見せてくれたのか。
俺は今までの出来事とアリスの反応を照らし合わせて、彼女の好きだと言ったジョセフだからしてくれたことに合点が言った。
そして、今日またアリスの新しい一面を目の当たりにした。
「臆病なのに、『ジョセフが好き』だと伝えてくれました。それは私にもできなかった一番勇気のいることです。そんなあなたを私は愛しています」
アリスは潤んだ瞳をこちらに向けると小さく頷いた。
「今あなたがジョセフでありジョン殿下だということが分かりました。そして私もあなたを愛しています、心から」
俺は昇天しそうな気持ちをなんとか現世に繋ぎ止めると、アリスの『あなたを愛しています、心から』を何度も思い出し始めた。
このあと、背中を押してくれたネイサンと父の元へと急ごう。
アリスの手をしっかりと握る。
そしてジョセフとして身分も人物を偽り、それでも一緒にいてくれたアリスには沢山の感謝を返して行こう。
そのあと、玄関に行くと、馬小屋から選んだ中でも随一の駿馬がこちらを向いた。
ちなみに白馬ではない。
「ふふっ、とびっきりの軍馬ですね」
「⋯⋯すまない」
このあと笑い話になればいいなと思った。
いつまでもおじいちゃん、おばあちゃんになってもそんな話が出来るといいな。
それと同じ頃──。
ネイサンは帰ろうとする足を引き止められていた。
王はあの手この手でずっと引き止めていたのだ。
「兄さんはそのうち明るい顔をして帰ってきますよ」
「わしの心臓がもたん」
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お読みいただきありがとうございました!
誤字脱字がありましたら、ぜひご連絡お願いします。
※『アリス公爵令嬢の執事の独白〜愛が重すぎる王子の偽りの姿〜』のリライト版になります。




