午前のお茶の時間に
翌朝。私は学園の寮から校舎に向かって、ユリウスとユリアと一緒に歩いて登校していた。
「本当に無事で良かったですわ! 姿を変えて飛び立った瞬間に巨狼が動き出したから、もうダメかと」
「しかも助けてくれた奴がわざわざ学園まで送ってくれたって、どれだけ親切なんだよ」
魔王ヴァルディオス様に助けられた私は、彼の側近であるギルバートという男に学園前まで送り届けられた。
学園では、ユリウスとユリアが教員たちに助けを求めて討伐隊を結成しており、まさに旅立たんとしていた。そこへ私がひょこっと戻ってきたので場は大きな歓声に包まれて、多くの人が私の無事を喜んで出迎えてくれた。
……私が死んだって、誰も何も思わないと考えていたのに。
「もう! 一晩経っても興奮が冷めませんわ。せっかくのパンを食べ損ねてしまいましたから、また今度作ってくださいませ」
「それで、助けてくれたのってどんな奴なんだ?」
ここで「魔王ヴァルディオス様が助けてくれました」と説明していいものなのか。
今日彼から魔王城に呼び出しをくらっているなんて、馬鹿正直に答えていいものなのか。
悩んだ私はさりげなく話題をずらす。
「男の人が学園前まで送ってくれたのだけど……魔王ヴァルディオス様の側近らしくて。ヴァルディオス様ってどんな人なの?」
「「ヴァルディオス様を知らないの!?」」
ユリウスとユリアの声が重なる。
「ヴァルディオス様は、魔族の英雄だよ! 十年前にあった人間との戦で先陣を切って戦って大活躍したんだ」
「見初められたいと願うご令嬢は数知れず。でも先の大戦でお怪我をされてからは、社交の場に表立って出てくることは少なくなったらしいですわ」
「怪我……?」
「ええ、なんでも大怪我をして後遺症があるとかで。それでも高ランクの魔獣が出た時には駆けつけてくださる勇ましいお方ですの」
どうやらヴァルディオス様は魔族たちから慕われる立派な魔王のようだ。
それならば、助けてもらった点については説明しても大丈夫だろう。そう考えた私は口を開く。
「ヴァルディオス様はとても優しくて民思いな魔王様なのね。実は、すんでのところで私を助けてくれたのも──」
「エルナ」
低い声が私を後ろから捉える。周囲の空気が、急に冷たくなった。
あ。と思ったのと、ユリウスとユリアの二人の表情が変わったのは同時。まさかと思いつつ、恐る恐る振り返る。
「遅いので迎えに来た」
威圧感のあるその姿は、ヴァルディオス様当人。 ユリウスとユリアがヴァルディオス様を前に興奮した様子で顔を見合わせたり、私を見つめたり、慌てて頭を下げたりする。子供らしくて微笑ましい……なんて考えている余裕は無い!
(え!? 魔王城にくるようにとは言われたけど、時間の指定はなかったはずなのに!)
だから授業が終わってから……と思っていたし、昨日言いそびれてしまったお礼も兼ねて、昨晩アップルパイを焼いたのだ。それを持って伺うつもりだったのに、どうしてか向こうから来られてしまった。しかも遅いという文句付き。
無礼を謝罪すればいいのか、私が知らない魔族の訪問時の時間ルールでもあったのか。とにかく詫びなければという発想に至った私だが、頭を下げようとした瞬間にヴァルディオス様が私の手を取る。ユリアが黄色い声を上げた。
「俺が午前の茶の時間に会いたかっただけだ。……そう気にする必要はない。学園の方に断りは入れておいたから、一緒に来てもらおうか」




