半分ずつのフレンチトースト
「ヴァルディオス様、起きてください。朝ですよ!」
目が治っても、ヴァルディオス様は私の料理を頻繁に食べたがる。私は魔王城のキッチンで作った熱々のフレンチトーストをローテーブルの上に置いて、まだ寝台の上で夢の中なヴァルディオス様を揺すった。
以前は「エルナが持ってくる料理が楽しみで早くに目が覚める」とか言って早起きを主張していたヴァルディオス様は、結婚後に意外とお寝坊さんだったことが判明した。休日には朝のティータイムの後に「二度寝しよう」と寝台に私を引きずり込もうとしてくるから油断ならない。
「……この香りは、ワッフル? いや、フレンチトーストだな」
「正解です。私は生クリームをかけただけのが好きですけど、ヴァルディオス様は蜂蜜もかけますよね?」
しかし彼は甘い物好きでもある。甘いお砂糖の匂いを漂わせれば、釣られてすんなりと起き出してくるのだ。
そんなところが……顔に似合わず可愛くて。この人と結婚出来て良かったと、心から思う。
「そうだな。ところでエルナ、」
「はい?」
「食べ物やディオルには好意を示すくせに、俺に真正面から気持ちを告げてくれないのは何故だ?」
「……ふぇ!?」
思わぬ質問に、変な声が出た。
「え? ……そうでしたっけ?」
「断言するが、無い。ディオルに『ママはパパが好き』と言っていたことならあるが、俺には言ってくれていない」
……言われてみれば、そうかもしれない。
でも、どうしていきなり寝起きにそんな話を持ち出してこられたのか。理由がわからずに、考え込むこと数十秒。私は白旗をあげることにした。
「何かヴァルディオス様を不安に思わせる行動をしてしまったのでしょうか」
その問いはどうやら図星だったようで、彼は気まずそうに私から視線を逸らした。
「ディオルが……」
何だろう。「妻が息子を構いすぎて、夫を蔑ろにする」系の文句だろうか。それともディオルがまた「ママはパパのことキライだもん」なんて爆弾発言をしてしまったのだろうか。
「今度魔界にテオドールが遊びに来るから、ママと一緒に会いに行くんだって嬉しそうに報告してきたんだ……!」
……そういえば、ディオルとそんな話をしてしまったような気がする!
「エルナは俺の妻で、魔王の妃だ。どうして他の男に会いに行く話になるんだ。許さん……と言いたい所だが、向こうが魔王城まで来て、俺も含めて会うというなら許可しよう」
謝って、発言を撤回しなくては! と構えていた私は、肩透かしを食らった気持ちになった。
「えっと……本当に大丈夫なのですか? 私はヴァルディオス様に嫌な思いはさせたくないのですけど」
「テオドールだけは許してやろう。……が、その代わりに俺のことが一番好きだと言って欲しい」
ヴァルディオス様が私の手を絡め取って、じっと顔を覗き込んでくる。
その表情は──嫉妬。拗ねたようにも見えるその表情は、ディオルにも似ている。……妙な親子らしさを感じてしまって、つい笑ってしまった。
「ふふ……それって、ただ聞きたいだけですね?」
「そうだ、……いや違う。テオドールを蔑ろにすると俺の株が下がるから、それならいっそと考えて──」
「好きですよ」
あまりにも私がさらりと好意を口にしたせいか、ヴァルディオス様が呆然として固まる。
気持ちに素直になれるようになったのは、私にその資格があるのだと、ヴァルディオス様が信じさせてくれたからだ。
ヴァルディオス様は私が去ってから六年間も、ずっと私だけを想ってくれていた。
私の手を握って「ディオルも含めて三人で暮らす日をずっと夢見ていた」と言われて。私とディオルが戻ってくるのを心待ちにしている魔族がほとんどなのだと説明されてしまえば。……私が彼から逃げる理由は、無い。
「愛してます。昔も、今も……私に幸せを運んでくれるのは、いつだってヴァルディオス様。でも三人で暮らす夢は少しの間しか叶えてあげられませんでした。……許してくださいね」
彼の手を引き寄せて、そっと私の下腹部に当てる。にっこりと微笑めば、ヴァルディオス様の目が大きく見開かれた。
「エルナ……? もしかして、」
「──ママぁ!!」
バンッと大きな音を立てて、部屋の扉が開かれる。室内に飛び込んで来たディオルが、私とヴァルディオス様の間にニュッと割って入ってくる。
「あ、フレンチトーストだ! ぼくもたべたい」
「じゃあママのをあげるわ。一緒に食べましょう?」
「待てディオル! パパのを半分やるからママのを取ってはダメだ」
「えぇ──、なんで?」
「ママは、お腹の赤ちゃんと半分こして食べるからだ」
ディオルの歓喜の声が響く。
くっついてきたディオルを私がぎゅっと抱いて、そんな私達をヴァルディオス様が丸ごと抱きしめた。
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初のシークレットベビー作品でした。魔王様が「絶対に逃がさない系」なのは、私の趣味です! お仲間さんは是非握手を交わしましょう(//∇//)
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