31 解呪
「メル……いいか?」
ルートヴィヒがメルリーシュの頬に手の甲をすべらせてささやいた。
やっと聞きなれたルートヴィヒの本来の声は耳元でささやかれるだけでゾクゾクする。
まばたきで落としても瞳にいっぱいたまる涙でルートヴィヒの美しい碧い瞳が見えない。
いいに決まってる。
愛するルートヴィヒに求められて、断る理由がどこにあるだろうか。
コクンと頷くと同時にルートヴィヒが覆い被さり、優しく唇が合わさる。
ルートヴィヒは緊張でカチコチになり瀕死の小動物を思わせるメルリーシュが、たまらなく愛しかった。
切ない吐息、潤んだ瞳、恥じらい必死にひきむすばれる唇、寝台に広がる緑金のフワフワの髪。
どれもこれも、メルリーシュの全てのシーンを切りとって壁に敷き詰めたいほどに。
これほどの想いを抱く存在に出会えた喜びに、ルートヴィヒは打ち震えた。
メルリーシュもまた、自身のルートヴィヒへの想いの大きさに耐えきれず涙が止まらなかった。
ルートヴィヒの手が、唇が、宝物に触れるように自分に触れる。
その度に、幸福感が全身を駆け巡った。
まるで、楽園に駆け上がったかのような幸福感。
それは母が与えてくれた愛という名の祝福の、枯渇した中身を一気に埋め尽くし、溢れ出すほどだった。
「メル……私のメルリーシュ……愛してる…。」
ルートヴィヒの言葉に、虹色の光がメルリーシュをブワッと包んだ。
「…っこれは…!?」
パラパラと剥がれ落ちるように、両足の呪詛が消えていく。
剥がれ落ちた呪詛はシーツにたどり着く前に湯気が蒸発するように消えた。
あとには、メルリーシュの白い足。
「メル……解呪だ……。」
抱き寄せたメルリーシュに口づけ、顔をのぞきこんだら呆然とした緑の瞳。
ルートヴィヒはメルの耳元に顔を近づけ、ささやいた。
「愛しいメル。呪いが解けたよ。」
ルートヴィヒの目から涙があふれ、メルリーシュの頬の上にポタポタと落ちるとメルリーシュの瞳に光が宿り、口もとをほころばせた
「ずっと…長いこと…この祝福を恨んでいました…。これがあるから死ねない、これがあるから余計に辛いと…。」
「…うん。」
メルリーシュの苦しみに寄り添うように、ルートヴィヒは黙ってメルリーシュを抱き締めた。
「けれど…今日…初めて…この祝福に感謝します…。ルー様の呪いを…解くことができた…。こうして…生きて…愛しあうことが…。」
「ああ…。私も…心から君の母君に感謝する。私の宝がこうして無事に、命を取り戻したことに…。」
ルートヴィヒはメルリーシュに口づけた。
するとメルリーシュの全身から力が抜け、ルートヴィヒの腕の中ですぅっと眠りに入った。
永遠に見ていたいほどに愛しい、満たされたその表情を眺めているうちに、いつの間にか部屋に朝日が射し込んできたのだった。




