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28 ルートヴィヒの暴走看護

目覚めてから一週間。

眠っては起き、眠っては起き。

今日は珍しく夕方に目が覚めた。

いつも真っ白な部屋が日が傾いてオレンジに染まっている。


起きるたびに、ルー様が嬉しそうに微笑んであれこれ世話をしてくれる。

いつ起きても居る。

何故かここ、離れの寝室である場所に執務机があって、仕事をしていることはあるようなのだけど、とにかくずっとここに居る。


「お仕事は大丈夫なのですか?」

聞いて驚いた。

「君の看護以外、全てどうでもいいことだが?」


『ご冗談を』なんて言えない。

実際にメルリーシュが彼の最優先事項であることはどこからどう見ても明らかだもの。


「だからといって、焦らなくていいぞ。君が無事に目覚めてくれたんだ。あとはもう、1年かかろうが2年かかろうが構うものか。こうしてずっと君の側に居られるんだからな。何も気にする必要はない。」

「し、します!気にしますよっ?大魔法使いの第一王子様が、ひねもすこんなわたくしの看護なんて!」


()()()()()()()。」


嘆かわしい、というようにルー様は首をふる。


「この、大魔法使いの第一王子の命より大切な宝が、『こんなわたくし』なわけあるまい。脳の機能を疑いたくなるような不穏な発言はよしなさい。」

「ふぇっ!」

ボボッ!!とメルリーシュは赤面する。

実際、メルリーシュの世話は大変な労力を要すると思う。

初めは生まれたての赤ん坊なみに少し起きて少し眠りを繰り返し、ほぼ一日中眠っていた。

今はだいぶ起きていられる時間が長くなったけれど。

手首から先は動くようになったし、食べ物も咀嚼して飲み込めるようになったものの、それ以外は全く動かない。


「ふふ…可愛いな。さて、そろそろ入浴の時間だ。」

「…………へ?ニューヨク、ですか?」

(ニューヨク…って…入浴?…清浄の魔法をかけてくださるのでしょうか…?)

メルリーシュがキョトキョトしている間に近づいてきたルートヴィヒがメルリーシュの上掛けをはぎ、背中と太ももの下に手を入れた。

お姫様だっこをしようとしているのが明白だ。


「ちょちょちょちょ、ちょっと!!お待ちください!!な、何をなさいます!?」

「何って、だから入浴だが?一日に一度は温めておいたほうが、血流が…」


「わわわわわかりましたが、でででででも、何故ルー様が…」

「ん?これはいつも私がしていることだぞ?初めはマーガレットに大反対されたし、アリーナに鬼畜の外道のと罵られたが。寝たきりの人間の入浴は、重労働だからな。」


「……………う……う………。」

「ん?メル?」


「うわーーーーーーんんんん!!」


「うわっ…どうしたメル!?」

そこにアリーナがやってきた。


「どうしたんです、殿下…あっ!!また私に断りもなく先にメルリーシュ様の入浴を始めようとしましたね!?この破廉恥王子!!」

「なんだっ!邪なことは何一つしていないだろうがっ!」

「どうだか!証拠がありませんからね!だいたい、私がくる前に始めようっていうのがそもそも怪しいじゃないですか。」

「アリーナさんっ!どうして止めてくださらなかったんです!?」

「止めましたとも!止めるにきまってるじゃないですか!この人が聞き分けなかっただけの話です!」

「持ち上げるとか、魔力が必要なら、いくらでも女性の魔術師の方がいらっしゃるじゃありませんか!そもそも、入浴なんて、そんなに頻繁に必要ですか!?」

「それも、何度も何度も申し上げましたよ。そもそも、呼吸さえままならなかった時期なんて新陳代謝が行われてるかどうかも謎だったんですから。今だって、どうなってるんだか用だって足さないし、汚れる要素がないから必要ないのではって、何度も申し上げてますとも。何人(なんびと)たりとも、メルリーシュ様のことに関して殿下を止められる人なんていらっしゃいませんよ。」

「ルー様っ!!わたくし、意識があるのですっ!!丸太や石像じゃないんですからっ!!羞恥心というものをご考慮くださいっ!!」

「近い将来の夫に体を見られて何を恥じらうことがあるんだ。だいたいもう何百回も見てるんだから、今さらだ。」

「うわっ…デリカシーのかけらもないこと言った……。王妃様に報告しないと…。」


アリーナはドン引きである。

「うわーーーーーーんんんん!!ルー様の馬鹿ぁあああ!!どうせわたくしは何の魅力もない丸太みたいな女ですよっ!!ええっ!ですから、風呂桶で丸太を洗うくらいの気持ちだったのでしょうけれど!」


「ああ…修羅場だ…私、失礼しますね。」


アリーナは去っていく。

「馬鹿メル!君のどこが丸太だ!」

ルートヴィヒはお構い無しにメルリーシュを抱えあげる。

「だ、だめですよ!ルー様っ!」

「私の最愛の君を丸太だなんていう君自身に、君の可愛いところをとくと教えてやろう。」


「…は?」

「ちなみに、この作業は私の最大の楽しみのひとつだから、何人(なんびと)たりとも奪うことは許されない。」


「…はぁあ?」


「君が全身、とことん動けるようになったあかつきでさえ、私はこの作業をやめるつもりはない!」

「そうなったら、わたくしはルー様にビンタしてやりますっ!!」

「はっはっは!君の可愛い手がたを頬につけての入浴介助、それもいいな!はっはっは!」

「ルー様の変態!痴漢!」

「おっと、これは邪な気持ち封じ込めるのに相当な鍛練を要する、神聖な作業だぞ?はっはっはっは!」


もはや何人たりともルー様を止めることはできない。

身をもって理解したメルリーシュだった。

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