26 目覚める
「メル…!?メルっ!?ああっ…やっと…やっとだ…!!」
(まぶしい……。わたくし…どこにいるのかしら…。眩しくてなにも見えない…)
「メル、見えるか?私がわかるか…?」
(夢でずっとわたくしを呼んでいた声だわ…。誰なのかしら…。『メル』って…。ルー様だけの呼び方なのに、失礼しちゃう…。)
「…見えないのかな?メル、大丈夫、心配ない。きっと、少しずつ視力も戻ってくるだろうから。」
「まぶ…し…」
「メルっ!?話せるのか!?ああ…愛しい人!遂に!」
「…わたくし…生きて…?」
「…ああ…そうだよ、メル。私のメルリーシュ。君は、生きている。」
メルリーシュはガン!と頭を殴られたような気持ちになった。
ルー様を元の姿に戻して、恋心と共に、潔く散ったつもりだったのに。
なんて残酷なんだろう。
これから、恋人と幸せに生きていくルー様と同じ世界で、生きながらえなければならないなんて。
「ああ…わたくし…また…死ね…なかった…」
「は……?」
まったくもって聞き捨てならない言葉がメルリーシュから飛び出し、ルートヴィヒは時間がとまったような気持ちになった。
『死ねなかった』だと?
死にたかったとでもいうのか?
この、こんなにも、胸を内蔵の中からかきむしられそうなほどにメルリーシュに恋こがれる、ルートヴィヒを置いて!?
「……馬鹿者……」
「ごめん…なさい…」
「馬鹿者っっ!!!!」
「……?」
「何故死のうなんて言う!この私を置いて!君が死ぬときは、ルートヴィヒ・バルシュミーデの死ぬときだ!!」
「……ふぁ?いけ…ません…よ?」
「うるさい!君の意見は聞いていない!」
「お妃…さま…は…どう…なさいま…す…」
「何故そこに母上が出てくる…」
「…ふぁ?……ルー様の…お妃…さま」
「はぁああああ!?」
あまりの勢いに、メルリーシュの動かない体がビクリと跳ねる。
「君の!他に!このルートヴィヒ・バルシュミーデが!妻に!迎えたいものなど!いるわけが!ないだろうがぁああ!!」
絶叫だった。
『君の他にこのルートヴィヒ・バルシュミーデが妻に迎えたいものなどいるわけがない』………?
顔にかかる息とツバとともに香る、大好きなウッディーノートの香り。
「…ゆ…め…ね…。」
フッ、と、そのままメルリーシュの意識は途切れた。
「なぁあぁあっ!!??…くそっ!!続きはあとだっ!!覚えておけ、メル!!」
ドサッ、と、寝台の横の床に、ルートヴィヒは大の字に倒れた。
「ふっ…ふはははは…。はははははは!!!!腹立たしいやら、嬉しいやら!!」
メルリーシュが、目を覚まして、言葉を発した。
飛び上がりたいほど、嬉しい。
100回も200回も、飛び上がりたい。
なのに、そのあとに続く言葉で、100回も200回も、地面に杭のように打ち込まれるように、滅入る発言。
久しぶりに大声を出したら、とてもすっきりした。
「もう遠慮はしないぞ。思い知らせてやる。なにせ、君が命を捨てられるほど私を愛していることは、明らかなのだからな!!それが男としてであろうとも、家族としてであろうとも、関係ない!目覚めたら私の愛を、思い知るがいい!!はははははは!!ふはははははは!!」
「前より魔王っぽいな…。」
「うん…感動のシーンじゃなかったみたいだね。」
見舞いに来たノルベルトとローレンは、呆れて踵を返して帰路についた。
「…良かったね。」
「うん。お祝いに僕の秘蔵のワインでも届けようかな。」
「ええ~?僕たちで飲んじゃおうよ。」
「それもいいな。」
ニュースはすぐに王宮に広まった。
ワインで乾杯しながら軽口をきいている二人も実は涙ぐんでるなんて、侍女達だってみんな気がついているのだった。




