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22 慟哭、それから


誰もいなくなった天井のないホールで、静かに、ルートヴィヒはメルリーシュの体を抱えあげた。


「よいしょっと……ああ…イヤな夢だな……。ハハッ…。早く目が覚めて……メルを抱き締めたいな……。そしたらきっと言うんだ……君は私の…誰よりも大切な人だって……。」


ルートヴィヒはじっと目を閉じた。


「…ハハ…変だな……なぜ目が覚めないんだろう?」


開いた目を、また閉じる。


「…メルのやつめ…。早く私を起こしにこないか…。仕事に……遅れてしまうじゃないか…。」


やがて、ブルブルと全身が震え出す。


「なぜっ……目がっ……覚めないっ………くうっ……。」


ルートヴィヒは歯をくいしばった。


これは


紛れもない


現実だった。



「…っ………メルっ……どうして………こんな……馬鹿なマネをしたんだ…?君は…本当に馬鹿だな…メル…。お仕置きを…して…やらないと…。」


嗚咽の合間に、ルートヴィヒは必死にメルリーシュに語りかけた。

『ずっと慕っていた』と唇が動いたように見えたのは、ルートヴィヒが頭で作り上げた都合のよい妄想だろうか。


いや。


都合がよいとしたら『あなたなんて嫌いだった』と言われたかった。

その方が少しは、気持ちが楽だったかもしれない。


「……痛かったろう?…苦しかったろう?」

メルリーシュは答えない。


「勇気を出して言えばよかった。君が誰よりも大切だとっ…誰よりも…愛しているんだとっ……!!そうしたら……そうしたらこんなことにはっ……!!ぐぅうううう!!」


馬鹿はルートヴィヒだった。

命より大切な少女を、みすみす死なせてしまった、大馬鹿者だ。


「メル……メル…!!」


もう動かないその唇を、もう開かないその瞳を、ルートヴィヒは何度も指でなぞった。


「君は…呪いを…解いてなんかいないぞっ…君は…もっとも残酷な呪いを……私にかけたんだっ……愛する人を…永遠に失うという…呪いをっっ……っあ゛ーーーーーーーーーーー!!!!あぐっっうぇっつ…ぐあーーーーーーーーー!!!」


溺れるように息をつぎながら、ルートヴィヒは絶叫して泣いた。

声の限りにルートヴィヒは吠えた。


どれほど時間がたったのかわからない。



外は満月で、ルートヴィヒは座り込んでメルリーシュを腕に抱いたまま風に吹かれていた。

ポカンと口を開いたまま、瞳からは涙が流れ続けている。

破壊された大広間にはメルリーシュとルートヴィヒの二人だけ。


飽きることなく、呪詛まみれになったメルリーシュの顔を眺めていた。


違和感を感じたのはそのときだった。


(…さっきまで…確かに…このへんまで呪詛が…。)


なぞっていた唇の端にも、びっしりと呪詛があったはずなのだ。

けれど、今は端には呪詛がない。

それとも、生き返ってほしいという夢みたいな期待が、ルートヴィヒの目に錯覚を起こしているのだろうか。


ゴクリ、と唾をのみこみ、ルートヴィヒは辛抱強くメルリーシュの顔を見つめ続けた。

月が雲に隠れた。

「チッ!!」

ルートヴィヒは魔力で光の玉をつくり、宙に浮かべた。

引き続き、じっと見ていた。


チリ…

「!!」


ほんの1ミリほどだが、確かに、今、ルートヴィヒの目の前で呪詛が薄くなり、消えた。


「…メル!?」


メルリーシュの胸に、耳を当てる。

じっと、辛抱強く。


トク…


「!!」


また、辛抱強く待った。


トク…


(生きている!!)


ルートヴィヒはメルリーシュを抱き、ガバッ!!と立ち上がった。

ちょうどそこにルートヴィヒが後を追わないか気が気ではなく声をかけにきた王妃が入ってきた。

「…ルートヴィヒ?」

「メルが!!メルが生きているんです!!ああっ!!こうしてはいられない!!」

バシッ!!と音をたて、ルートヴィヒは離れの家に消えた。

「るっ……えぇ!?」


王妃は、国王やノルベルトに今見たことを話し、ローレンやザイードも含めて、みんな離れの家に駆けつけた。


だが、そこには強固な結界が張ってあり、誰も離れの玄関に近づくことはできなかった。


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