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20 裁定者

「素晴らしいわ!!」

「おお!やったな!!」


アギレラの国王とブリジットがハイタッチで喜び合うのを、信じられない生き物を見る目で全員が見た。


「あ…あなたがたはっ!!人の心を持っているのか!?」

我慢の限界を越えたローレンが叫んだ。


アギレラ父娘にくってかかろうとするのを、ノルベルトが手をひいて引き留める。


「何故止めるんだ!」

ローレンが悲鳴のように叫んてノルベルトに抗議する。

だが、これはアギレラとバルシュミーデの問題だ。

ローレンはフェルマール王国の第二王子としてここにいる。

第三者の国であるフェルマール王国を巻き込むわけにはいかない。


「あなた!この間からこのわたくしに随分と無礼な口を利く男!ここに居るということは王族か高位貴族なのだろうけれど、身の程を知る方がいいわよ!」

「なんの身の程だ!自分が何をしたのかわかっているのか!」

「見てわからないの!?とてもいいことよ!英雄にして大陸一の大魔法使いにかけられた呪いを解いたのだから!聖女とあがめられても問題ないわ!」

「なんて…罰当たりな…。」

「それより、バルシュミーデの皆様。もっと素直に喜ばれてはいかがです?感極まりすぎて、声もでませんの?」


「黙れ!!!!」


声の主はバルシュミーデ王だった。

「そうよ!お前、黙りなさい!」

ブリジットはローレンに向かって叫ぶ。


「お前にいっているんだ!アギレラの馬鹿王女!!」


ブリジットが一瞬、きょとん、とした顔になり、自分を指差して徐々に赤い顔になっていった。


「な、なんですって!?わたくしに言ったの!?なんて恩知らずな!!正気なの!?」

「バルシュミーデ王、無礼にもほどがありませんか!?」

アギレラ父娘は顔を真っ赤にして抗議する。


穏和なバルシュミーデ王が、初めて、人前で怒りの感情をあらわにした。


「ルートヴィヒは…息子は、『他国と歩調を合わせて』、という私の想いを汲み取り、今までずっと、私に譲歩してくれていた。今日だってそうだ。来たいわけでもない、こんな会に、私の顔をたてて来てくれた。その人生に、大きな犠牲を強いられ、それでも、ずっと…。」

一言一言に、バルシュミーデ王が怒りを滲ませる。


「だっ、だからその犠牲とやらを、わたくしが取り払ってやったんじゃないの!」


「貴様が取り払ったのは、ルートヴィヒの犠牲じゃない!!ルートヴィヒの、何より大切なものだ!!」


「はぁ!?まさか、このデブの不細工なメガネのことをいっているの!?」


ズガーーーーーーーーーーン!!


轟音をたて、広間の半分が消し飛んだ。

王宮は恐らく、外から見ればえぐれたような形に見えるはずだ。


広間は人々の阿鼻叫喚にのまれる。

「みな、落ち着いて!!我々の後ろに!!」

魔術を使えるものは全員が力を合わせて最大限の魔力で結界をはった。


ゆらり…と立ち上がったルートヴィヒの顔には、何の表情もない。

しかし、呪いがかかっていた時とは比べ物にならぬほどの魔力を有しているのがわかる。

美しい姿だった。


それなのに。


呪いによって顔に呪詛が浮かび、『魔王』と呼ばれたいた時など比べ物にならぬほど、魔王のように見えた。


ゆら…と後ろを振り返り、両手を外にかざすと、王宮を軽くのみこむほどの巨大な光の玉が瞬時にできあがり、ルートヴィヒはそれを南に向かって音もなくヒュ…と投げた。


数秒のち。

遠くで、ゴーン…という音が鳴ったかと思うと、宵闇の南の地平線が昼になったかのような明るさで光り、巨大なキノコ雲が立ち上がった。

地平線が真っ赤だ。

隣国、アギレラが燃えているのだった。

更に数秒のち。

爆風が王宮を吹き抜け立っていられぬ程にグラグラと地面が揺れた。


「な……な……貴様、なに……」


言葉を発したアギレラの従者は、言葉の途中で首と胴体がスパッと離れ、「を」の口のまま首がゴロンと床に転がった。


「キャーーーーーーーーーーーー!!」


結界の中の女性には気を失うものもあった。

シュッ…シュッ…と無表情に、ルートヴィヒは南に向かって光の玉を投げ続ける。


まるで、花火のように光が弾けてゆく。

光の先の地獄からは想像もつかない、美しい姿だった。


「兄上の心が…死んでしまった……。」


ノルベルトはルートヴィヒのその背を見ながら、涙を流した。

もはやルートヴィヒに、どんな言葉をかけても、届きはしないだろう。

誰もみな、絶望にのまれていた。


「裁定者だ…。」

「裁定者…。」


人々がつぶやいた。


神話で語り継がれる『裁定者』の姿と、ルートヴィヒの姿が重なった。

神話では、裁定者を止めたのは、彼がもっとも愛した『妖精』。


…だが、ルートヴィヒには、もう『妖精』は、存在しない。


『裁定者』の言葉に、ルートヴィヒがゆらりと振り返った。


身内である国王やノルベルトさえ、その氷のような眼差しに恐怖で体が震えた。


《…そうだった…そもそも俺は、メルに出会う直前まで、この世のすべてを焼き尽くしてやろうと、北に向かったんだった…。》


薄くルートヴィヒが笑った。

誰もが絶望に呑まれそうになったときだった。


《いけませんよ!こんな美しい世界を、焼いてしまおうだなんて!》


頭にの中で響いた言葉に、ルートヴィヒの魔力が一気に霧散した。


「…メル……?」


死んだようなルートヴィヒの目に、光が宿った。

その場の全員が、脂汗を流している。


何故か、ルートヴィヒが鎮まった。


ルートヴィヒはメルリーシュを見た。

ピクリとも動かない。

それなのに、あの、初めて出会った日のメルリーシュの言葉が、ルートヴィヒの頭に、くりかえしよみがえる。


《いけませんよ!こんな美しい世界を、焼いてしまおうだなんて!》

《いけませんよ!》

メルリーシュの、笑顔も。


「くっ……うあーーーーーーーーーーーー!!!」

ルートヴィヒは絶叫した。

滂沱(ぼうだ)の涙を流し、ルートヴィヒは泣き崩れる。


「君は!!君は残酷だな!!残酷だなっ!!メル!!」


メルリーシュを掻き抱き、ルートヴィヒは叫んだ。

結界を維持している者たちはルートヴィヒの魔力が緩んだため結界から手を離し、あふれる涙をぬぐった。


腰をぬかしていたアギレラの父娘が、その場から這って逃げようとしたところにノルベルトが立ちふさがった。


「貴様ら…どこへ行こうというんだ?」

「そこをどいて!!」

魔力でノルベルトを凪ぎ払おうとしたブリジットの攻撃を片手で弾き飛ばし、ノルベルトは逆に魔力でブリジットとアギレラ王をルートヴィヒの方へ突き飛ばした。


ルートヴィヒが…ゆっくりと…顔をあげた。


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