18 懐かしい礼服
「懇親会?くだらん!父上たちだけでやっててください。」
「お前にも是非にと言われているんだ。というよりお前が主体なんだから。」
「俺はもう第一線は退いています。ノルベルトが王太子なんだから、俺は関係ないでしょう。」
「改めて過去のお礼がしたいって、わざわざあちらの国王が来るんだぞ?そりゃ、私だって、何を今さらとおもうけど。友好的な態度をとられている限り、無下にはできん。わかってくれ。」
「もう、いっそ滅ぼしちゃえばいいじゃないの。本当に面倒な国だわ。」
「母上…。だから、他の国の手前、そうもいかないんだって…。」
「えぇ?僕は王妃殿下の意見に賛成だよ。あんな国、厄介ごとを起こすばかりで、友好国になったって、一体どんな得がある?ファーレン王国に帰って父上に聞いたって、きっと僕と同じここを言うと思うけどな。」
「さすがローリーちゃん。あなた、第二王子だけれど、あの国はあなたが継げばいいんじゃなくて?」
「実は兄上は好いた令嬢がいましてねぇ…。そっちと結婚したいから王太子は降りたいとか言い出しているところなんです。」
「国を預かっているんだぞ!?そんな私情がまかりとおるわけないだろう!」
「おいっ!!何の話が始まった!!」
「とにかく、ルートヴィヒ!頼む!今回だけは参加してくれ!」
珍しく王宮に呼び出されたとおもったら、とてつもなく厄介な話を押し付けられた。
アギレラ王国の国王一団が、王女の留学の視察に来る。
そして、視察のついでに改めて過去の出来事、つまり、魔王滅してくれたことに、謝辞を述べたいとのことだ。
当事者のルートヴィヒ殿下に是非にお会いしたいと名指し。
「ついで」っぽい、そんな失礼きわまりない呼び立てに、何故行かねばならぬのかと抗議したが、平和主義の父王に頼まれたら無下にもできない。
「……本っ当っに、今回だけですよ。」
「ああ。今回だけだ。来てくれるか?」
「わかりました。今回限りで。」
「…いつも無理を言ってすまんな…。」
「国王陛下 に頭を下げられては断れません。一応第一王子ですからね。」
ふぅ、とため息をついたノルベルトに、国王は申し訳なさげに、しかし安堵のため息をついた。
王宮からアリーナが礼服を運んできた。
「ここ数年で少し体型が変わったかもと思いましたけれど、六年前にお召しになった時とお変わりになっていないんですね。一応新しくお仕立て致しましたが、寸法表を拝見したら以前のものと全く同じでした。」
「だったら前のものでよかったのに。もったいない。」
「そういうわけには参りません。刺繍の部分の模様は変えてありますし。」
「着た本人さえ、前の模様がどんなだったか覚えていないのに?」
「写真機を持ち込まれたらどうなります。六年前と同じ衣装だなんて、侮られます。」
「最初から侮られてるんだから、同じじゃないか。」
「っ、だからこそ、余計にでございます!」
「実にくだらん。そもそも礼服なんか着る必要は欠片も感じないがな。」
実にくだらなかったが、着用してメルの前に立ったときの反応を見たら、礼服を着てよかったと思った。
「わぁ~!懐かしい!初めてルー様にお会いした日のことを、思い出します。…あの時とは、少し刺繍の模様が違うのですね?」
「へぇ!わかるのか?」
「わかりますとも!ルー様のお姿はすべて、目に焼き付けておりますもの。」
照れ臭いようなくすぐったいような、不思議な気持ちだった。
すっと小さな手をのばして、メルリーシュがルートヴィヒの胸の刺繍をなぞった。
珍しく、メルリーシュが、ルートヴィヒの胸のなかに入り、ポスンと顔を埋めた。
「め、メル?」
「たまには、昔のように、抱き締めていただきたいです。」
「そ、そんなわけには……。…まぁたまにはいいか。」
久しぶりにキュッと抱き締めた体は、柔らかく、暖かく、ルートヴィヒの心を芯から癒した。
(ああ…やはり、手放したくないな…。)
「…メル…。」
「なんです?」
「戻ったら、聞いてほしいことがある。」
「…………」
「メル?」
「あ、はい。わかりました。」
「ん。では、行ってくる。」
「……行ってらっしゃいませ。」
王宮に向かう背を、いつまでもいつまでもメルリーシュが見送っていることに、ルートヴィヒは気がつかなかった。




