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17 すれ違う想い

【メルリーシュ視点】


昼休み。

また、図書館の受付カウンターで「お留守番」中のメルリーシュは大きなため息をついた。


(あんなに怒られたの、初めてだったけれど…。)


屋敷にもどったら、続きで怒られるのかと思ったら、ルー様はそのまま部屋に入ってしまった。

(結局、良い考えだと思い至ったんじゃないかしら?)


ブスなメルリーシュが体を呪詛で覆われるくらい、どうということはない。

死んでしまうなら、それでもいい。

この六年、幸せですっかり忘れていたけれど、自分はずっと、死にたいと思って生きていた時期があったのだ。

そして、この幸せが永遠に続くものではないことは、もう気がついている。


ルー様は王子殿下。


自分はというと、ルー様の『使用人』でさえない、ただの居候。

今はまだ十六だが、十六といえば貴族ではどこかに嫁いでいてもおかしくない年齢。

平民以下の暮らしをしていたメルリーシュに貴族の平均は当てはまらない。

そもそもこんな()()では誰かに見初められて結婚するなど夢のまた夢。

だったら、最後に大切なルー様のお役に立ちたいと思うのは、そんなにおかしなことではないはずだ。


決して結ばれることのない、メルリーシュの想い人。


(…昨日、気がついてしまった…。)


ローレン殿下から、あの美しい人がルー様の婚約者だったと聞いたとき。

胸を切り裂かれたような痛みが走った。

王宮の、今はあまり人が出入りしない場所にひっそりと飾られている王家の肖像画で見たことがある。

ルー様の、若かりし頃のお姿。

美男子ともてはやされるノルベルト殿下が霞むほどの、美しい王子さま。

あの姿に戻れたならば、お二人は似合いの夫婦となるだろう。


あの王女様が、メルリーシュを憎む気持ちは理解できる。

かつての婚約者が、人々が疎む姿に変わり(メルリーシュには今の姿も充分美しく見えるけれど)、側にこんなブスメガネが侍っているのだから。



*  *  *  *  *


【ルートヴィヒ視点】


屋敷に帰ったら、うんと叱るつもりだった。

メルリーシュがルートヴィヒにとって、どれだけ大切な存在なのか、言ってきかせるつもりだった。


ずっと二人で暮らしてきた離れの玄関にたどり着いた途端。

ルートヴィヒの燃えるような気持ちは水をかけられたように一気にしぼんでしまった。


『どれだけ大切な存在か』なんて。


どうやって説明しろと言うのだ。

まさか『愛している』とでも言うつもりか?


(まさか!)


……ところがそのまさかなのだ。

ルートヴィヒはメルリーシュを愛している。


(言えるわけがない…そんな、この子を縛るようなこと…)


メルリーシュは、きっと、頷かざるをえない。

ルートヴィヒがどんなに気味が悪くとも。

真剣に、命まで捧げると言ってのけたほどなのだから。

あれが冗談でないことなど明らかだった。


「あの…ルー様…?」

「……今日はもう寝る。」

「お、お話は…。」

「…っ!あの話は、二度とするな。絶対だ。」

「でも…。」

「頼むメルリーシュ!頼むから…!」

「……はい。わかりました。」


ルートヴィヒの眠れぬ夜が更けていった。



*  *  *  *  *


【また、メルリーシュ視点】


ルートヴィヒのそんな想いも知らず、メルリーシュは今日何度目かわからに大きなため息をまた一つついた。

そんなメルリーシュの前に、アカデミーの事務職員用の制服を来た人影が立った。

「あの、受付担当の時間が終わりましたら、個人的に少しお時間をいただけませんか?ほんの少しでいいんです。」

「…はぁ…。かまいませんが…。ご用件はなんでしょう?」

「その時にお話させていただきます。では、のちほど。」

そう言って、見覚えのあるその人物は去っていった。

「…あれ、誰だったかしら。…まぁいいわ。見覚えがあるということは、忘れているけれど知っている人ということだものね。問題ないはずよ。」


大問題の、幕開けだった。



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