幕間 ブリジット・アギレラの謀み
「くやしぃいいいいい!!」
医務室から呼び寄せた魔術師に頬を治癒させ、ブリジットは羽枕をビリビリに破いて悔しがった。
「まことに無礼な男でしたね!さすが、呪われているだけのことはあります!」
「あれでもかつては絶世の美丈夫だったのよ!?この私の婚約者として相応しいくらいにはね!」
大国アギレラの王女として、こんな北の果ての小国の王子と婚約なんて、本当に不本意だった。
姉には「あなたのような世間知らずのおバカさんなんて、小国の王権ナシ王子と結婚できたらかなりマシな方だとお思いなさい」などと言われる始末。
兄には「体のいい、厄介払いだな」とも。
嫌々顔を合わせてみたら、嫌な気分など吹き飛んだ。
初めてルートヴィヒ・バルシュミーデに会った時は。
「ああ!これほどの美丈夫だから、お父様はこの人が私に相応しいと思ったのね!」と、すぐに考えを変えた。
それなのに…。
「あの、バカなお兄様が魔王なんて復活させてようとするから!!ルートヴィヒが対処する羽目になって、あんな醜い姿になってしまったのよ!!」
「きっと、我が身を呪って性格が歪んでしまったのでしょうね。姫様に、こんな無礼を平気で働くようなクズに!」
「本当よぉ!!許せないわっ!!」
「……でもすごい魔法ですね?『傷を移す』だなんて。私、初めてみました。」
「……そうよね?……ん?でも待って?だったら、あの傷を誰かに移せば、ルートヴィヒは元通りの美丈夫になるんじゃなくて?」
「あれは傷じゃなくて呪いですもの、無理じゃないですか?」
「傷が移せるなら、呪いごと移せばいいんじゃないの?」
「だけど、一体だれが引き受けるっていうんです?あんな醜い傷。」
「元々醜い者がひきうければいいじゃないの。………………ああ、なるほど………。わたくし、とてもいいことを考え付いたわ。」
「姫様、まさか?」
「ええ!あのブタメガネがひきうければいいのよ!」
「い、いや、それこそ、ルートヴィヒ殿下が激怒どころじゃ済みませんよ!!」
「あのね?ルートヴィヒ殿下は、自分が醜いから、引き立て役にあの女を側においているのよ。あの女が醜いから、自分の醜さから目を背けていられるの。そんなこともわからないの?私はすぐにわかったわよ。でなきゃ、あんなデブのブスのメガネ、誰が大切にしたりするものですか。けれど、自分が元通り美しくなってごらんなさいよ!誰が側に相応しいか、180度考えが変わってよ!間違いないわ!わたくし、断言するわ!」
「本当に…そうでしょうか?」
「なぁに?お前、わたくしが間違っているとでも?」
「め、めっそうもございません!」
「いいこと?あの頃のわたくしはほんの子供だった。でも今は、こんな風にますます素敵なレディに!」
《選り好みしすぎて行き遅れておられるだけだったような…》
「なにか言った?」
「いいえ!!なぁんにも!!」
「あの方が美丈夫に戻れば、当初の予定どおり、二人は晴れて夫婦に。そしてこのちっぽけな国は大国アギレラと姻戚関係に!そしてそして、わたくしは大陸一の美丈夫にして大魔法使いの夫が!姉様達をギャフンと言わせられるわ!!……お前、明日の昼にまたあのブタメガネのところへ出かけるわよ!そうとなったら、舞台を整えなきゃね。ドレスも支度しなくちゃぁ!!」




