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14 ルートヴィヒの想い

図書館で何があったのか。


館長室に戻り、監視モニターの録画映像を巻き戻してみても、肝心の部分に虹色の光彩がかかって見られない。

虹色はメルの魔法の色。

明らかにメルが干渉したのだ。


(クソ…。意地をはらずにあのローレンとかいう男に聞けばよかった。確かあいつはノルベルトと親しかったから悪者ではないはずだったのに…。)


メルとも親しいように見えて、嫉妬で判断を誤ってしまった。

今更メルに聞いてもきっとごまかして答えはしないだろう。


フゥ、と大きなため息をつき、ルートヴィヒは執務用の大きな椅子の背もたれにもたれかかった。

(……酷くなる一方だ。)


いずれ手放さねばならぬ存在。

そう自覚したのは、メルリーシュが初潮を迎えた日だ。

初潮の仕組みもよくわかっていなかったメルリーシュに、慌ててアリーナを呼んで説明させ、必要な用品も準備してもらった。

あの時初めて、メルリーシュがルートヴィヒとは血が繋がらない『女の子』であることを意識したのだ。


毎日、どんなに腹立たしいことがあっても、呪詛がヒリヒリと痛んでも、過去の嫌な出来事を思い出して腸が煮えても、メルリーシュを愛でればたちどころに気分が晴れた。


そんな日々は、永遠には続かないのだと、気がついた日でもあった。


メルリーシュの体が丸みを帯び、胸がふくらみ、尻が丸くなるごとに、白い肌に、プルンと瑞々しい果実のような唇に、触れたい、むしゃぶりつきたいという想いが日に日に増幅していった。


それから三年。

貴族では十六で嫁ぐことも珍しくないが、平民ならば二十歳を過ぎていてもおかしくない。


いや、メルリーシュは貴族だが…ゴニョゴニョ……。


都合が良いように勝手に事情をつくりあげ、未だに自分が築いた厳重な囲いの中で暮らさせている。


『監視モニターまでつけて。どうかしているぞ。』

ローレンに聞いたのだろう。

さっきノルベルトがわざわざ執務室まで言いにきた。

『添い遂げる気がないのなら、早く手放してやれ。』

これは、前回言われた言葉だ。

いや、前々回だったか。


前例のない、こんな呪いを身に受けた体では寿命もいつまであるのかわからない。

そも、こんなしわがれ声の老人のような風貌の男が、若く美しいメルリーシュにふさわしいわけがない。


実際の年齢だって一回り以上離れているのだ。


頭で理解しているのとは裏腹に、今日もメルリーシュにたっぷりと甘い菓子を与える。

ふくふくと柔らかく肉をつけたメルリーシュが愛らしいと思うのは本当だ。


『魔王が子ブタを太らせて食べようとしてるぜ、ハハハ!』

そう影口を言っている男に出くわして

「先にお前を食ってやろう」と言って全身こんがりと焼いてやった。

目も鼻も口もわからぬほどに焼いてやったが、命は奪わず。

ずっとその姿で生きながらえるがいいのだ、と、呪いをかけた。


そいつは今も自身の元の顔を取り戻すため学園に残り、回復と解呪の勉強を続けている。

ルートヴィヒの声を聞くだけで倒れて失禁して泡を吹くくせに。

(この私の術を無効化できるものならやってみるがいい。)


以来、誰もメルリーシュの悪口を言う者がいなくなったのをいいことにルートヴィヒは菓子を与え続けている。


あの子が世の男の好みの体型から逸脱していることが、ルートヴィヒの心に安寧をもたらす。

『菓子を食べさせるのをやめろよ。自分でも与えすぎだとわかってるんだろう?』

ノルベルトの言葉が耳の裏に響く。


「クソッ!実の弟のくせに、小姑のように口うるさいヤツめ!!」


(わかっている。ノルベルトが正しいことはわかっているんだ。)


中毒のように、ルートヴィヒはメルリーシュへの執着を止められないでいる。


緑金のフワフワの髪に顔を埋めたい。

ルートヴィヒと同じウッディーノートの香りがするはずなのに、なぜかメルリーシュの香りは甘い。


メルリーシュの優しい深緑の瞳に凄まじい量の潜在魔力が眠っていることはルートヴィヒだけの秘密。

気付いた時は背筋を悪寒が走った。

あの魔力の扉の()()を開けてはならない。

ルートヴィヒのようによってたかって食い物にされるだけだ。

ずっと…ずっとルートヴィヒだけの側に…。


『メルリーシュは今のままで幸せなのか?』

『娶る気がないなら早く手放してやれ』

『これじゃまるで籠の鳥だ!』


「クソっ!!黙れ!!」

頭の中の自分の声に悪態をつく。



カタン、と、ルートヴィヒは立ち上がった。

メルリーシュが言わないのなら、ローレンから聞き出すまで。

メルリーシュに自白魔法など恐ろしくて使えないがローレンになら躊躇なく使える。


ルートヴィヒはアカデミーの男子寮へ向かった。


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