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10 ブスメガネ、爆誕

平和で満ち足りたルー様とルルちゃんとの暮らしの中で変わってしまったこと。


一つは、十三歳で初潮を迎えた時からルー様と寝室を分けられてしまったことだ。

「何故です?わたくし、ルー様と一緒がいいです。」

「そういうわけにはいかない。世間ではそう決まっている。」

「世間なんか気にするなとルー様はいつも仰っているのに。矛盾しているではありませんか。だいたい、どこの誰に家の中を覗かれることもないというのに、誰に気をつかう必要があるのです?わたくしは嫌です!」


いつも従順なメルリーシュだったが、珍しくこれは反抗した。

だってルー様の腕に包まれて眠るのはメルリーシュがこの世で一番幸せを感じる瞬間なのだ。


(ひょっとしたら『世間』というのは言い訳かもしれないわね。もしかして他に理由があるのかも。)

「あ!ひょっとして、 わたくしの寝相が悪いのですか!?寝言がうるさいですか!?」

「あっ、そうだ!実はそうなんだ」

「ならば、寝るときにわたくしを縛って、口を布で…」

「メル!!」

メルリーシュの言葉は悲鳴のような声で遮られた。

「そんなこと、できるわけがないだろう!」


メルリーシュの抵抗にルー様は困ったように眉を下げた。

メルリーシュがルー様を困らせるなんて、あってはならないことなのに。


「……ひょっとして、わたくしのことが……お嫌いに…なりましたか……?わたくし、何が、いけませんでしたか…?」

ルー様はため息をついて、()()()()()()()メルリーシュを膝にかかえた。

「そんなこと、あるわけがない。だが、いくら『家族』 といえど、年頃の娘と男が同じ寝台で寝るわけにはいかないんだ。特に、私とメルは血が繋がっているわけではないからな。」

「ううっ…わたくし、その決まりを作った方を宮殿の時計塔の上からぶら下げてやりたいです!!」

「ははは!温和なメルがそれほど怒るほどイヤか!嬉しいことだ!よし、そいつを見つけたら、二人でそいつを丸めて球蹴りをして遊んでやろう」

「…蹴ったら痛いですよ?」

「だから蹴ってやるんじゃないか。」

「…いけません。」

「ふふ…。メルはやさしいな。」


こうして、ルー様と一緒に眠れる日々は終わってしまった。

今も時々頭は撫でてもらえるが、今年に至っては一度も抱き締めてもらっていない。


「…やっぱり…この見た目がいけないのかしら…。」


ションボリとうなだれながらメルリーシュは呟いた。


実は、寝室の件の他に変わったことが、もう一つ。


かつて、ガリガリの体に頭ばかり大きく、大きな目だけが目立って『魔物のようで気味が悪い』と言われていた子供時代。

ルー様があれもこれもと甘やかして食べさせてくださるおかげで、メルリーシュはあの頃の姿から様変わりした。


昔と全くの正反対。


ぽっちゃりした頬に目は埋もれている。

しかも一心不乱に本にかじりついて勉強に励んだのでド近眼。

毒を飲まされても死ねないほどの回復力が自慢のメルリーシュなのに何故か目には『祝福』の効果がなく視力は落ちたまま回復しない。


『メルは瞳に魔力が宿っているからかもしれないな』とルー様が言っていた。


魔力持ちはほとんどが両手に魔力を宿しているから瞳に魔力を宿しているメルリーシュは少数派だ。

瞳から全身へと魔力が巡る。

(でも実はルー様も瞳に魔力を宿すタイプだそうで、お揃いなのはとても嬉しいのだけど。)



今でも、学術書や魔術書の他に、とにかくルー様の呪いをとく方法は何かないものかと呪術の本を片っ端から読んでいる。

読んだ本はもう数百冊に及ぶのではないだろうか。


そんなわけで近眼用の大きな丸眼鏡が丸い顔に乗ってますます目が小さく見える。

眼鏡をかければ不自由しないし、何よりルー様は『眼鏡姿のメルもとても愛らしい』と誉めてくれる。

遠くを見る必要がある仕事ではないし、メガネで充分だと思えるのだ。

(…やっぱり、ただのお世辞よね…。)


自分でも、少し太りすぎだと思っている。

市井に出れば、メルリーシュぐらいの体型の人は掃いて捨てるほど居るから誰も振り返ったりはしない。

でも、宮殿やアカデミーに通ってくるのは貴族か平民の間でもかなり裕福な人たちばかり。

年頃の女性は大多数が髪型、持ち物、着るもの、体型にとても気をつかっているため、スラリとしてとても美しい。

夜会ではコルセットで一ミリでも細く腰を締め上げることを競う時代。

だから比べるとメルリーシュが酒屋の(たる)のように見えてしまうのだ。

体型が気になるから国家魔術師、特に女性魔術師が『ダサい』 と言って式典の時にしか羽織りたがらない深緑のローブをずっと羽織っている。

(わたくしのことは愛玩動物のようにお考えだからか、ルー様は可愛いと言ってくださるけれど…。)


隣に立つには不相応だと昔から思ってはいるが、この見た目では目に余るものがある。

自分はともかく、ルー様まで好奇の目にさらされるのは非常に不本意だった。

(お役に立ちたいと思っているのに、むしろ足をひっぱってしまっている気がするわ…)。


けれど…。

『メルと甘いものを楽しむ時間が今の私の唯一の癒しだ』と言ってくれるルー様に甘いものを控えたいだなんてとても言えない。

メルリーシュだって、抱き締めてもらえなくなった今、食事やお茶の時間はルー様と共有できる貴重な時間なのだ。


もちろん、ルー様は人を見た目で判断するような方ではないことはわかっている。

むしろ、自分がその最たる被害者なのだから。

(だから、見た目で避けられているわけではないと…頭ではわかっているのだけど…。)


劣等感と寂しさからメルリーシュは大きなため息をついた。


メルリーシュはルー様の美しいお顔の模様や神々(こうごう)しい白い髪を「不気味だ」などと言う罰当たりな発言をしている人々を家畜小屋の肥溜めにハメてやりたいと何度思ったことかしれない。


どう客観的に見てもルー様の横に侍るにはどう考えても相応しからぬメルリーシュを変わらずお側に置いてくださる御恩に報いるために…むしろ、側を離れるべきなのではないかという思い。

けれど一秒も離れずお側に居たいという思い。


相反する二つの思いで常に葛藤しているのだった。



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