1. 星狩の少年
さらさらと、雨が薄曇りの空を写した水面に降っている。
さほど暗くもない空はじきに晴れてくれそうだ。
「うーん、やっぱり星石の気配があるなぁ。この辺りの鉱脈はとっくに尽きたって聞いたけど」
星狩の少年マークスは、街道を歩きながらキョロキョロと辺りを見回した。
薄い空色の髪に巻いたオレンジの布は少々大きめらしく、後ろの縛り口から大きく余った布が垂れ下がっている。
旅人のマントの下には動きやすそうな服、腰に巻いたベルトにはバック型の荷物入れが下げられており、小分けのポケットと小物類をぶら下げる釣がたくさん、傍目より手持ちの荷物は豊富そうだ。
星狩は星石の気配を読む。
誰にでもわかるわけではないそれは、唯一と言って良い、星狩となる為の条件だ。
星石は、とても不思議な石。
星導具の動力となり、家庭のランプから大きな街の機構まで、様々な場所の便利を賄う星導具を動かしている。
ある時は鉱脈の様に土からまとまった量が掘り出されたり。
ある時は星石を取り込んだ獣を討伐して体内から取り出されたり。
星石の力を持って暴れる獣はとても危険だ。嵐を起こし、炎を吐く様な獣は一般の人々に太刀打ちできるものではない。
星石を取り込んだ獣は星獣と呼ばれ、体のどこかに星型の痣がある。
大抵は凶暴化し、発見された地に戦える兵士がいればそこそこまでの強さならなんとかなる。
だた、力強き星の力をもつ星獣には星の力でしか太刀打ちできない。
戦う力をもつ星導具は希少であり、それを持つ星狩は絶大な力を持つとされ、時に人の口に噂が登るが、噂のまま終わる。
星狩はどの街にも、国にも属さない。
星石を求め、世界中を旅する旅人。
人は彼らを『星狩』と呼ぶ。
時に採取者、時には狩人、又は行商の者として遇し、便利な星石を集めてくれる者として、やたらと忌避する事もないが同時に、そう滅多に出会う事もない見知らぬ旅人として、遠くにすれ違うだけの存在でもある。
マークスはまだ新米と言って良い星狩だ。
10代後半ではまだ大した稼ぎもないはずだが、精巧な造りの彼の指輪はまるで熟練の星狩が持つ様なそれだ。
右手の指にふたつ、左手の指に三つの嵌っている指輪が、見るものが見れば星導具である事に気付くかもしれないが、
指輪の様な小さな導具はほぼ伝説級、故にそれが星導具だとは誰も思わないのだろう。
ちらほらと行き交う人とすれ違い、町が近い事を教えてくれる。
街道の先にあるのは古くは星石鉱山で栄えた町、リングイネ。
かつて、最初の星狩と呼ばれたマエストロ・グリーが最初の星石鉱脈を見つけた折に滞在していたと言われている町。
本日の目的地である。
ここには、かつて父が滞在したと手記にある『空腹鍋』という宿屋があるはずだ。
「さて、父さんが残した、かもしれない一等星がこの町に隠されていたり。
なーんて都合のいい事あるといいなぁ。それよりまず腹減ったけど」
星石の等級では最高にあたる一等星は、既に取り尽くされて新たな石は存在しない。
もう何十年も前にそう結論付けられた。
しかし、父の残した手記に書かれたいくつかの一等星はどの国にも所有されておらず、存在も定かではない。
けれど、きっとあると思う。
マークスは、そんな自分の思いと、ある意味確信を持って旅に出た。
なぜなら、気配がするのだ。
まだ知られていないそれらの一等星の呼び声の様なそれは、自分にしかわからないとしても。
きっとどこかにある。
門を通り過ぎ、古い町並みを進みながら、緩やかな坂の上に立つ宿屋を目指した。